コラム

2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

田島 聡士

日本M&Aセンター業界再編部調剤チーム

業界別M&A
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日本M&Aセンターの田島 聡士と申します。
2022年は、一部メーカーの製造不正を発端に生じたジェネリック医薬品の供給不足が、先発品も含めた医薬品の供給不足にまで発展し、地域に関わらず全国の薬局に大きな影響を与えました。この未曾有の医薬品不足に加え、毎年の薬価改定と2年に1度の報酬改定、近隣での競合店舗の出現など多種多様な問題に頭を抱える薬局経営者も増えています。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の制限が厳しさを増していく中で、かつてのような自由な経営が難しくなってきていると感じている薬局経営者も多いのではないでしょうか。

私自身、日本M&Aセンターで調剤薬局業界を専門に身を置き、6年目の年を迎えました。現在は調剤薬局業界専門グループのリーダーとして従事しております。500名以上の薬局経営者と接触し、様々なかたちのM&Aを支援してきました。そのような私の経験も踏まえ、2022年の調剤薬局業界のM&Aの振り返り、2023年以降の業界のM&Aの展望と所感を述べたいと思います。

診療報酬改定の影響

2022年4月の診療報酬改定において、対物業務から対人業務への転換に合わせて報酬体系が大きく刷新され、対物業務と対人業務が従来よりも明確に区分けされることになりました。地域支援体制加算の要件と評価の見直しもあり、これまで一本化されていた地域支援体制加算が細分化された結果、大手調剤チェーンや大手ドラッグストアには厳しい逆風となりました。一方で個人経営の薬局は努力によってプラス改定となった薬局も多かったのではないでしょうか。

今回の改定で大きな注目となったのが、リフィル処方箋で、薬剤師の業務を大きく変化させるきっかけとして大きな期待が寄せられています。リフィル処方箋による2回目以降の調剤は、薬剤師が患者の健康状態を確認して判断することから、これまで以上に薬剤師の患者フォローや必要に応じた医師との連携がより必要になっていくと考えられます。

この他にも、今回の改定では、オンライン服薬指導・資格確認の要件緩和やオンライン認証、在宅に対する加算の新設など、今回の改定は従来の改定に比べ、大きく踏み込んだ内容となっており、「患者のための薬局ビジョン」の実現に向けて一段上のフェーズに入ったと言えるのではないでしょうか。

2022年の調剤薬局業界M&A

2022年5月、ファーマシィホールディングスによるアインホールディングスへの株式譲渡は業界内で大きな注目を集めました。ファーマシィホールディングスは広島県福山市で調剤薬局を約100店舗経営し、2001年の設立時から地域医療に大きく貢献されてきた広島県を代表する企業です。お互いの事業ノウハウや店舗網を活かすことで、患者へのサービスや地域医療連携をより強化し、今後も成長を続けていくことが狙いとされています。

また、10月には、日本産業機構(NSSK)が運営するファンドによるクラフトの買収が発表されました。クラフトは、全国で1000店舗以上の調剤薬局を運営し、売上高と規模で業界3位の大手企業ですが、2月に私的整理の1つである事業再生ADRを申請している状態でした。(関連記事:「さくら薬局」の事業再生ADRがM&Aに及ぼす影響)

買収額は非公表となっていますが、NSSK として過去最大の投資と公表されており、1000億円超とみられています。今後は、NSSKが投資している、ヴァティー(関東地方を中心に約150の介護施設を運営)などと連携することで、在宅医療を強化し、政府の掲げる対人業務へのシフトに対応し、中長期的には、M&Aや新規出店によって店舗数もさらに拡大し、従業員も増やしていく狙いも公表されています。

11月には、兵庫県を中心に8店舗を展開している北摂調剤がクオールホールディングスに株式譲渡し、グループ入りを果たしました。今後は研修システムやICTなどクオールグループのリソースを最大限に活用しながら、さらなる地域医療への貢献を目指していくと公表されています。

レコフM&Aデータベースによると2022年の調剤薬局の国内M&Aは、公表ベースで18件となっています。(図1)

(図1)出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
(2013年1月1日から2022年12月31日)(調剤薬局(当事者2)、IN-INにて抽出)

前年2021年の37件と比較すると、約半数にとどまり、過去2014年の水準まで落ちているように見えます。しかしながら、M&Aの選択肢が薄まっているということではありません。
これは、上述したような地域を代表するような企業による動きが加速し、1件あたりの規模が大きくなっていることが1つの要因であると推測しています。

2023年の調剤薬局業界の展望

上場5社(アインホールディングス、日本調剤、クオール、メディカルシステムネットワーク、ファーマライズ)の2023年度第2四半期におけるM&Aでの取得店舗数は、5社で127店舗となっている。一方、同5社の2022年度通期の実績は49件となっており、半期分の実績で、すでに前年度通期の実績を大幅に超過していることが判断できます。

2023年は、デジタル化の波や異業種参入の波が加速することは間違いないでしょう。その中で、患者に必要とされ選ばれる“患者のための薬局”が増えていくことに期待しています。

患者に寄り添う薬局や専門性の高い薬局、患者の健康サポートなど人にしか果たせない役割・機能を持つ薬局は、地域に必要と言われ続けていくことでしょう。むしろ、こうした役割・機能を充分に備えた薬局にとっては、主導権を握って医療圏をつくるチャンスがようやく到来したともいえます。

こうした環境変化の中で勢いを増しているのがドラッグストアです。2021年度のドラッグストアの調剤額は1兆1,738億円と公表されていますが、これは全体調剤額の約16%のシェアとなります。直近5年で見てみると全体の調剤額は7.5兆円前後で推移している一方で、ドラッグストアの調剤額は毎年10%程度伸び続けており、着実にその存在感を強めています。(図2)

これに続くように、スーパーマーケット、通信会社、印刷会社といった様々な業種・業態の企業も調剤薬局事業への参入を始めており、Amazonも近いうちに日本市場に参入するというメディア記事も最近増えてきました。事実、アメリカではすでに、Amazonと既存の大手薬局チェーンによる激しい覇権争いが始まっているので、日本においても近いうちに同じような競争が始まってもおかしくはないでしょう。消費者にとって身近なAmazonが、日本においても本格的に処方薬販売に参入することになれば、オンライン診療・服薬指導のニーズが高まり、遅れているデジタル化が加速し、調剤薬局業界に大きな影響を与えることは間違いありません。

私自身、日々の活動の中で、1店舗から10店舗を中心に、大手チェーンまで様々な規模の薬局経営者とお会いしています。
「この業界もこれからはDXに適応できない薬局は経営が立ちゆかなくなるだろう」
「数年後にはビジネスモデルが大きく変わる」
上記のような指摘をする薬局経営者が増えてきたことを実感しています。
調剤薬局業界はデジタル活用で他業界に大きく後れをとってきました。これまで調剤薬局業界は薬剤師や患者による極めて狭い接点と情報の中での属人的な意思決定や判断が中心となってきましたが、システムを活用したマスマーケティングなど、なかなか進まなかった改革が、いま少しずつ変わり始めようとしています。

これから後期高齢者となっていく50代、60代の方も、すでに大多数がインターネットに触れており、スマートフォンのビデオ通話機能も十分に使いこなすことができます。もはやインターネットは我々の生活に欠かせない存在であり、全産業デジタル化の流れが不可避として認識されています。単なるデジタルツール・インターネットへの置き換えではなく、業界構造自体が変わり、認識の変化に追いつけないプレイヤーは否応なく淘汰されてしまう時代なのです。

未来の薬局の役割を見据え、機能の拡充を図るためにM&Aで他社と組むという戦略をとる薬局が増えています。そして、今後もその傾向は強まっていくと予想しています。
調剤薬局業界では年々M&Aが浸透してきていますが、まだまだ、M&Aという経営戦略を知らない経営者も多いのが現状です。
いきなりM&Aを検討するのはハードルが高いかもしれません。そのような方は、まず、マーケットや他社がどのような動きをしているのか?を把握していくところから進めていただくことをお勧めしております。

日本M&Aセンター調剤薬局専門グループでは、経営者や企業の状況に合わせて様々な提案をさせていただき、一つでも多くの情報を提供すべく尽力しております。調剤薬局が地域医療をリードしていく未来を実現すべく、努めてまいります。

ご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸いです。お気軽にご相談ください。

著者

田島 聡士

田島たじま 聡士さとし

日本M&Aセンター業界再編部調剤チーム

明治大学理工学部卒業後、広告会社にて展示会の企画・立案。日本M&Aセンターに入社。調剤薬局業界の再編にかかるM&Aを専門とし、多くの案件を成約に導く。主に岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県・新潟県・茨城県・神奈川県・愛知県・岐阜県の調剤薬局を担当している。

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