コラム

薬価制度と日本の財政について

業界別M&A
更新日:

⽬次

[表示]

改定によって見直しが続く薬価

薬局を経営していく中で重要な経営指標の一つに「薬価」があります。薬価、すなわち薬価基準制度とは、保険医療機関等の扱う医薬品の価格を公的に定めているシステムです。

厚生労働大臣を通じて国が決定する薬価ですが、最近の薬価改定では医療費抑制のため薬価の引き下げが顕著となっています。さらに二年に一回であった薬価改定が2021年度から中間年も薬価の見直しを行うようになり、毎年改定に変更になりました。

当然薬局経営において薬価の引き下げは大きなインパクトとなります。
しかしながら薬価改定について引き下げる傾向が変わる可能性は非常に低いと考えています。

その理由は医療費増加の抑制が急務であるからです。
財政状況が悪化している日本において薬価削減は避けられない道となります。人口減少と高齢化が同時進行していく日本において、今後も医療費や薬価が抑制されていくことが想定されます。


出典:薬価改定のイメージ図参照 令和4年度薬価基準改定の概要 厚生労働省

日本の財政と薬剤費

薬価引き下げの主な原因とされている日本の財政の状況は、直近のコロナ禍もありさらに厳しい状況となっています。コロナ禍による緊急的な支援もありましたが、2020年度は戦後過去最高額の歳出となり財源となる国債の発行額も過去最高となっています。日本の財政においては歳出が税収を上回る状況が常態化していましたが、コロナ禍での非常事態もありさらに財政赤字が拡大してしまっているのが現状です。

また1990年度の財政状況と比較をすると、社会保障関係費の伸びが顕著となっています。社会保障費の中には医療分野も含まれています。国民医療費でみると2019年度は約44.4兆円で、そのうち薬剤費は約9.6兆円となっています。2019年度の国全体の歳出額が約100兆円であることを考えると、薬剤費の9.6兆円という金額がいかに大きな金額か理解できるかと思います。
昨今話題となっている防衛費は2019年度で約5兆円であり、岸田文雄総理大臣が2022年11月に発言していたGDPの2%を目標とするとなると10兆円前後の金額になり、現在の薬剤費と同水準となります。(日本の名目GDPは2021年度で約540兆円)

このように日本の財政の中でも薬剤費の存在は大きく、その価格を決定する薬価改定というのは日本の財政政策と密に関係していることがわかります。


出典:一般会計における歳出・歳入の状況 財務省


出典:国民医療費、薬剤費等の推移 厚生労働省 薬剤費等の年次推移について

持続可能な医療制度構築のために

上記のような日本の財政問題を考えると、医療費の抑制が今後の政策における課題となることは明白です。特に医療費の中でも大きな金額を占めかつ毎年価格の改定が行われる薬価は今後も厳しい引き下げの対象となることでしょう。

薬局経営に関して言えば、これまでのような薬価差益が計上できる時代は終わり、他の部分で収益を上げていけるかどうかが大きな課題となります。

しかし薬価制度の成り立ちを考えると、薬局経営が成り立たなくなるような薬価の設定にはならないと考えています。安定した医療制度の維持が大きな目的のはずの薬価制度において、公的保険で運営されている医療機関や薬局、医薬品卸の経営状況を鑑み、国は薬価を決定していくはずです。ただこのような厳しい財政状況のなかでは国からは経営合理化を求められる可能性があります。

そのような状況下でも生き残り日本の医療を支えていくためにも、業界の中で反目せず各社のリソースを合わせて一丸となり経営していくような支店を持つことが、より求められていくのではないかと考えています。そしてその一つの選択肢としてM&Aや業務提携といったダイナミックな経営戦略も大切になっていくのではないでしょうか。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

この記事に関連するタグ

「調剤薬局」に関連するコラム

調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

業界別M&A
調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

日本M&Aセンター業界再編部調剤薬局業界専門グループの伊東勇一と申します。経営者として事業を長く続けていくこと。これは地域医療の一端を担う調剤薬局としても長く地域に貢献し続けることであり、多くの経営者が望まれていることかと思います。@cv_buttonただし、様々な苦境を乗り越えてきた経営者であっても、年齢の壁は乗り越えることはできず、いずれ事業承継が必要になります。事業承継は一般的に、親族承継・

日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

業界別M&A
日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

いつもコラムをご愛読いただきありがとうございます。日本M&Aセンター業種特化事業部の岡田拓海です。今回は「日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き」についてお伝えします。@cv_button日医工の上場廃止が及ぼす医薬品卸業界への影響2022年12月28日、日医工株式会社は業績不振を理由に申請していた事業再生ADRが成立したことを発表しました。事業再生案として、国内投資ファンドの

2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

業界別M&A
2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

日本M&Aセンターの田島聡士と申します。2022年は、一部メーカーの製造不正を発端に生じたジェネリック医薬品の供給不足が、先発品も含めた医薬品の供給不足にまで発展し、地域に関わらず全国の薬局に大きな影響を与えました。この未曾有の医薬品不足に加え、毎年の薬価改定と2年に1度の報酬改定、近隣での競合店舗の出現など多種多様な問題に頭を抱える薬局経営者も増えています。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源

Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

業界別M&A
Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

電子処方箋の導入で変わる、薬局のビジネスモデルいつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンターの調剤薬局専門グループです。先日ニュースをみて衝撃を受けた方も多いかと思われますが、2023年Amazonが日本の処方薬販売への進出を検討しているとの報道がありました。確定した情報ではないにも関わらず、同業界の上場企業株価は急落し、競争激化への懸念が強まる形となっています。@cv_butt

ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

業界別M&A
ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

はじめに2022年5月9日、多くの調剤薬局業界関係者が驚いたのではないでしょうか。業界最大手のアインホールディングスが、中国地方を中心に100店の調剤薬局を持つファーマシィホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化することを発表したのです。@cv_button取得額は非公表ですが、ファーマシィホールディングスの2021年3月期の売上高は約215億円で、アインホールディングスのM&Aとしても、過

【2020年5月】Withコロナ時代の調剤薬局業界

業界別M&A
【2020年5月】Withコロナ時代の調剤薬局業界

常に感染の危険と隣り合わせの状況全国で緊急事態宣言が発令され、2か月近くが経過しようとしております。薬局経営者の方から「従業員の方の危険を最小限に抑えるため、自身がほぼ毎日現場に出ている。」というお話をよく聞きます。STAYHOMEで人との接触を避ける重要性が叫ばれるなか、皆様に置かれましては、常に感染の危険性と隣り合わせの状況で、患者さんのため・地域医療のために働いて頂いているか思います。大変な

「調剤薬局」に関連するM&Aニュース

地域ヘルスケア連携基盤、調剤薬局運営のエムエム薬局・エムアペックス・ももたろう薬局の株式取得

株式会社地域ヘルスケア連携基盤(東京都千代田区、以下「CHCP」)は、グループ会社を通じて、調剤薬局4店舗を運営する有限会社エムエム薬局、有限会社エムアペックス、有限会社ももたろう薬局(岡山県岡山市)の株式を取得した。株式取得の背景現在、日本の医療・介護費は約55兆円と日本のGDPの10%の規模に達しており、今後も高齢化の進展に伴い増加が見込まれている。社会保障費の抑制はわが国喫緊の課題であり、医

地域ヘルスケア連携基盤、調剤薬局運営のメディカルケミストの株式を取得

株式会社地域ヘルスケア連携基盤(東京都千代田区、以下「CHCP」)は、グループ会社を通じて、調剤薬局10店舗を運営する株式会社メディカルケミスト(東京都大田区)の株式を取得した。株式取得の背景現在、日本の医療・介護費は約55兆円と日本のGDPの10%の規模に達しており、今後も高齢化の進展に伴い増加が見込まれている。社会保障費の抑制はわが国喫緊の課題であり、医療機関・調剤薬局・在宅系サービスの各領域

イオン、ツルハHD、ウエルシアHDと経営統合を目指し協議開始

株式会社ツルハホールディングス(3391)、イオン株式会社(8267)及びウエルシアホールディングス株式会社(3141)は、経営統合の協議を開始することに合意し、資本業務提携契約を締結することを決定した。ツルハグループ(ツルハHD並びにその連結子会社14社及び非連結子会社1社(2023年11月15日現在)で構成される企業グループを)は、医薬品や化粧品だけでなく、食品や日用雑貨等の多種多彩な商品を取

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース