コラム

コロナ収束目前!最新の製菓製パン業界のM&A動向

江藤  恭輔

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 部長

業界別M&A
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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界専門グループの江藤です。
当コラムは日本М&Aセンターの外食・食品専門チームの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
本日は江藤が「コロナ収束目前!最新の製菓製パン業界のM&A動向」についてお伝えします。

2021年から2022年前半にかけての製菓製パン業界のM&A動向

2021年、2022年前半の主な製菓製パン業界のM&A成約事例

2021年については、公表ベースで食品業界全体で134件のM&Aが実施され、その内、食品製造業が68件、更に菓子パン製造販売事業者のM&Aが11件成約しています。

コロナ禍でM&Aマーケット全体が低迷する中、食領域においては特に中食需要に対応している食品製造業のM&Aが件数を増やしており、全体の約50%を占めています。また、菓子・パン製造事業者のM&Aは、引き続き高い水準で進捗しており、食品業界M&A全体の中でも、毎年10%程度を占めています。

出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成

2021年の代表的な成約事例

2021年1月【売】亀屋万年堂×【買】シャトレーゼホールディングス

山梨県甲府市で菓子製造シャトレーぜホールディングスは、創業80年を超える老舗和菓子メーカーである亀谷万年堂の全株式を取得しました。亀谷万年堂は東京・神奈川に29店舗の直営店を持ち、シャトレーゼが展開する手ごろな和菓子と、亀谷万年堂の贈答用和菓子などを組み合わせた新たな業態を開発し、全国でフランチャイズ展開を目指します。

2021年2月【売】アルヘイムフードサービス×【買】万代

関西圏でスーパーマーケットを155店舗展開する万代は、ハークスレイ子会社でフレッシュベーカリー、ベーカリーカフェを展開するアルヘイムが会社分割して設立したアルヘイムフードサービスの全株式を取得しました。万代は今後成長が見込まれえるベーカリー事業に経営資源を投入し、事業の選択と集中を進めることが狙いです。

2021年3月【売】トアヴァルト×【買】庫や

栃木県宇都宮市で洋菓子店「グリンデルベルグ」2店舗を展開するトアヴァルトの門林オーナーは、PEファンドであるアドバンテッジパートナーズの投資先で、洋菓子の製造販売を行う庫やに株式の100%を譲渡しました。庫やは同県那須塩原市に本社を置き、「チーズガーデン」を中心に18店舗を展開しています。栃木県の洋菓子グループとして確固たる基盤を築きます。

2021年6月【売】シロクマ北海食品×【買】WONDERCREW

札幌市に本社を置く飲食店経営のWONDERCREWは、同地域のパン工房、シロクマ北海食品の全株式を取得しました。同グループとしては初めてのベーカリー業態の取得となります。70年以上の歴史を持つシロクマ北海食品のブランド力と、WONDERCREWの持つ商品開発力などを融合させて、事業領域の拡大、収益力の向上を目指します。

2021年7月【売】木村ピーナッツ×【買】京葉ガスエナジーソリューション

京葉ガスグループ会社である京葉ガスエナジーソリューションは、落花生加工商品の製造販売や、落花生ソフトクリームで高い知名度を誇る木村ピーナッツの全株式を取得しました。京葉ガスエナジーソリューションは、落花生の栽培から手掛ける木村ピーナッツをグループ化し、農業6次産業化を進めます。

2021年10月【売】五洋食品産業×【買】三井物産

三井物産は、TOKYO PRO Marketに上場する冷凍ケーキ製造の五洋食品産業をTOBにより買収しました。五洋食品産業は三井物産の協力のもと、海外事業展開を含めた国内外の事業、収益力の拡大発展を図ります。

2021年12月【売】清水屋食品×【買】竹下製菓

創業60年、まちのパン屋として事業を展開し、2012年から「生クリームパン」を首都圏などで展開し急激に事業規模を拡大して来た清水屋食品は、後継者不在による事業承継問題を解決するため、九州で「ブラックモンブラン」などのアイス菓子を展開し圧倒的な知名度を誇る竹下製菓に、発行済株式の全てを譲渡しました。竹下製菓は現在関東での販促を拡大しており、首都圏で高い人気を誇る清水屋食品を傘下に収めることで、更なる関東での事業拡大と、冷凍商材である生クリームパンの配送コストの削減やコラボ商品の開発など、様々なシナジーを創出していきます。

2022年3月【売】新・栄喜堂×【買】JFLAホールディングス

JFLAホールディングスは、パン菓子類製造販売事業を埼玉で展開する栄喜堂が新設分割により設立した新・栄喜堂の全株式を取得しました。栄喜堂は創業100年を超える老舗企業であり、関東圏のレストランチェーンや量販店向けにパンや洋菓子の製造卸売事業を営んでいました。

投資ファンドとの連携による菓子製造販売事業者の広域連合

上記2021年3月に実施されたトアヴァルト×庫やにも登場したPEファンドであるアドバンテッジパートナーは、更に2021年8月に、年間10万本売れる幻のチーズケーキで有名な洋菓子店「クオリロ」を都内で展開するエコール・クリオロ株式会社を、地域銘菓・名産品に係る事業承継の受け皿として設立された株式会社日本銘菓総本舗により株式取得を実行しました。これにより、日本銘菓総本舗には庫や(那須塩原市)、トアヴァルト(宇都宮市)、エコール・クリオロ(板橋区)の3社が参画し、経営ノウハウの共有化や生産機能の最適化等、広域での連携を強化し、更なる発展の基盤を構築していきます。

同様の取り組みが、日本政策投資銀行・日本M&Aセンターの共同出資により設立されたPEファンド、日本投資ファンドでも行われています。日本投資ファンドは、2018年2月に第一号ファンドが設立された以降、2018年7月には金沢県石川市に本社を置き、傘下に金澤やまぎし養蜂場株式会社(金沢市)、株式会社笹屋昌園(京都市)を傘下に持つたくみやホールディングス(金沢市)を、2018年9月には九州で絶大な知名度を誇る「黒糖ドーナツ棒」等の銘菓を製造販売するフジバンビグループ(熊本市)の株式を取得し、日本銘菓総本舗同様、製造工程の合理化や共同での新商品開発、各社販路を相互利用したグループ統括営業など、シナジー効果を発揮できる経営体制の構築を進めています。

日本国内においては、各地域にこのような銘菓を製造販売する老舗企業が数多く存在し、それらの企業が、その地域の食文化を創造してきました。また、それらの企業により雇用の創出や観光地としての地域の活性化も図られ、街全体を元気にする起爆剤としての役割も果たしてきました。しかし、昨今、日本全体の大きな社会問題となっている企業の後継者不足の煽りを受けて、業歴の長い老舗企業であっても単独での成長や生き残りが非常に難しい状況に陥っています。このような企業が廃業すれば、街全体の活力の源が絶たれ、地方創生を実現することが非常に難しくなってしまいます。上記のように広域で事業承継の受け皿となり、相互でシナジーを創出する経営スタイルは今後より活発となり、社会インフラとしてのPEファンドの存在価値が、より大きくなっていくことが想定されます。

今後もまだまだ続く、菓子業界のM&A

上述の通り、今後老舗菓子製造販売事業者を存続・発展させるためのM&Aという手法は、より社会にとって必要な手段として、多く実施されていくことが予想されます。2021年の成約事例内でも記載した竹下製菓×清水屋食品のように、普段何気なく食べているお菓子を作っている会社が、実はあの企業のグループ会社で、コラボ商品などもどんどん世にリリースしていた!などを想像すると、より素晴らしい食文化の発展を遂げている未来が描けて、M&Aの重要性を改めて認識することとなります。

昨今、原材料の高騰で多くの食品製造企業が、収益の圧迫や販売先への値上げ交渉などで四苦八苦し、より一層厳しい経営環境に陥っている状況の中で、仕入れのスケールメリットや経営ノウハウの獲得、高騰し続ける物流費の共同配送による効率化、経理・財務・人事などのバックオフィスの一元化など、様々なメリットを獲得できる他社との資本提携を、重要な経営の選択肢として是非前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界専門グループから最新の業界情報をお届けをさせて頂きます。
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

江藤  恭輔

江藤 えとう 恭輔きょうすけ

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 部長

青山学院大学法学部卒業後、埼玉りそな銀行にて法人営業を経て2015年に日本M&Aセンターに入社。食品業界を専門として製造業、小売業、外食業などのM&Aに取り組む。17年は丸亀製麺を展開するトリドールHDと「晩杯屋」のアクティブソース、「ラー麺ずんどう屋」を展開するZUNDのM&Aを手掛けた。

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