株式分割とは?メリット・デメリット、流れをわかりやすく解説

熊谷 秀幸

監修

熊谷秀幸

経営・ビジネス
更新日:

近年、株式分割を実施する企業が増加しています。この背景には、投資家層の拡大や市場の流動性向上を狙う企業の戦略があります。また、2024年からの新NISA制度の導入により、非課税での投資機会が増えることも、株式分割の動きを後押ししています。本記事ではこうした背景を踏まえ、株式分割の仕組み、メリットやデメリットについて紹介します。

この記事のポイント

  • 株式分割は、企業が発行済み株式を分割し、株式の数量を増やして価格を下げる制度で、投資家の参加を促進する。
  • メリットには流動性向上、配当の代替、上場市場区分の昇格などがある。
  • デメリットには短期投資家の増加や管理コストの増加などがある。

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⽬次

株式分割とは?

株式分割は、企業が発行済みの株式を細分化して株式数を増やし、1株あたりの価格を低くする手法です。分割することで、より多くの投資家が参加しやすくなるという効果があります。

例えば、1株1000円の銘柄を1対2で株式分割を行うと、理論的には1株500円になります。分割によって増えた株式は、既存の株主に割り当てられ、株主が保有する株式数は倍になります。

株式分割は、企業が株主の利益を追求し、株式市場での取引を活性化させるための手段です。また、より多くの投資家が参加しやすくなることで、企業の資金調達や株式の流動性の向上にも役立ちます。

株式併合との違い

株式併合とは、複数の株を1株に統合して、発行済株式数を減らす手法です。例えば2株を1株に併合すると、理論上株価は単純に2倍になると考えられます。

株式分割が、投資単位の引き下げや流動性向上を目的とするのに対し、株式併合は株価の適正化、管理コストの削減、上場維持基準を満たすことが目的に挙げられます。

株式分割を行う企業が増えている背景

東京証券取引所は2025年4月24日、株式の最低投資金額を10万円程度に引き下げるよう上場会社に求める方針を正式発表しました。投資単位の大幅な引下げで若年層、個人投資家が株式を購入しやすい環境を整える狙いが背景にあります。

また、2024年から始まった新NISA導入を契機に、個人投資家がより株式を買いやすくなるよう株式分割に踏み切る企業が増え、新NISA導入後もその傾向は続いています。これらの動きが企業の株式分割を加速化し、さらなる投資の活性化が期待されています。

株式分割のメリット(企業)

株式分割のメリットを、分割を行う企業側、投資家側それぞれの観点でご紹介します。
分割を行う企業側の株式分割の主なメリットは、次の通りです。

株式の流動性を高められる

株式分割で得られる最大のメリットは、株式の流動性を高められることです。つまり分割比率に応じて株価も下がるため、より多くの投資家が株式購入のチャンスを獲得できます。新たに株主となる投資家が増えるため、株主数の増加も期待できます。

配当の代替にできる

株式分割後も1株あたりの配当を変更しなければ、株主は株式分割によって新たに取得した株式数分だけ、受け取る配当が増えることになります。この方法を活用すれば、1株あたりの配当金額を変更することなく配当増額の代替として株主に利益を還元することができます。

市場区分の昇格を狙える

上場するためには、株主数や流通株式数などに関する一定の基準をクリアしなければなりません。株式分割を行うと、株主数や流通している株式数が増えるため、上位市場への昇格が狙いやすくなります。

株式分割のメリット(投資家)

続いて、投資家側のメリットについてご紹介します。

株式を購入しやすくなる

株式分割が行われると投資単位(最低投資金額)が小さくなるため、株式を購入しやすくなる点が挙げられます。
また、少額での分散投資が行いやすくなるというメリットもあります。

例えば、X社の株式が2万円の場合、1単元(100株)購入するには200万円が必要です。

しかし、X社の株式が1:5の割合で株式分割が行われると、理論上株価は5分の1、1単元40万円(4千円×100株)で購入することが可能になります。

また、X社以外の株式など投資の選択肢が広まるため、少額での分散投資が行いやすくなるというメリットもあります。

NISAを活用しやすくなる

株式分割が行われると、投資単位(最低投資金額)が小さくなるため、新NISAなどの年間投資枠を活用しやすくなる点もメリットです。
税制上の優遇措置があるNISAで活用しやすくなる点は、個人投資家にとって大きな魅力になります。

株式の売買単価が下がると、「少しだけ買い増す」ことや「値が上がっているうちに少しだけ売却する」など、株式の売買の自由度が上がり、市場での取引が活発になることが期待できます。

これらのメリットを通じて、企業は株式の市場での需給状況を改善し、より広い層の投資家から支持を集めることができるようになります。
ただし、株式分割は企業の実質的な価値を変えるものではないため、その効果は企業の基本的な健全性や成長性に依存する、という点も理解しておくことが重要です。

株式を希望のタイミングで売買しやすくなる

株式の流動性が高まると、「少しだけ買い増した」「値が上がっているうちに少しだけ売却したい」など、売りたい時に売る、買いたい時に買うなど希望するタイミングで売買しやすくなります。

株式分割のデメリット(企業)


続いて株式分割デメリットについて、企業側のデメリットから見ていきます。

短期的に株価が乱高下する可能性がある

1株あたりの価格が安くなるため、株を売買する際の心理的な障壁が低くなり、短期的な利益を追求する投資家がの取引が増えるケースも考えられます。この結果株価の乱高下につながる可能性も考えられます。

株主管理コストの増大

株式分割によって株式の数が増えると、株式の管理(株主名簿の管理、株主総会の運営等)にかかるコストが増加します。
また、株式分割の手続きには、時間とコストがかかります。これには、関連する法的手続きや、株主への通知、証券取引所への報告などが含まれます。

株式分割のデメリット(投資家)

続いて投資家側から見た株式分割のデメリットは、主に以下の通りです。

単元未満株(端株)が発生する場合がある

株式分割を行うと、比率によっては単元未満株(端株)が生じる場合があります。

例えば、100株持っている株式が1:1.1に株式分割された場合、1株が1.1株に分割されるため、保有株式数は「100株×1.1=110株」になります。

しかし、市場での売買単位は100株ですから、増えた10株に関しては市場で売れません。

そのため、この単元未満株を売却しようと思ったら、株式を発行している会社に対して買取請求を行わなければなりません。この際に、指値でなく成行注文するしかできず、場合によっては手数料負けしてしまうこともあります。

株価の安定性が損なわれる場合もある

一般的に株主が増えると、株価は安定する傾向にありますが、投機目的の投資家が増えることで、株価のボラティリティ(価格の変動幅)が大きくなる可能性があります。その結果、株価の安定性が損なわれる場合もあります。

これらのデメリットは、株式分割によって引き起こされる可能性のある問題をいくつか示しています。
したがって、企業は株式分割の実施を検討する際に、これらの点を慎重に評価し、全体としての利益がデメリットを上回る場合に、実施を決定することが重要です。

株式分割の流れ・手順


株式分割を行う場合の具体的な手順は、主に以下の4つです。

①取締役会での株式分割決議

株式分割を行うためには、取締役会設置会社においては取締役会での決議(非設置会社の場合は株主総会の普通決議)を行う必要があります。
決議では、以下の3点が決定されます。

- 株式分割の比率とその基準日
- 株式分割の効力発生日
- 株式分割する株式の種類

また決議の前に、定款で定められている「発行可能株式総数」を確認する必要があります。

株式分割の比率によっては、現在の定款で定められている「発行可能株式総数」を超えてしまう可能性があります。そのような場合は、株式分割の決議前に、取締役会の決議で定款の「発行可能株式総数」を変更しなければなりません(会社法184条2項)。

②株主への公告

取締役会で株式分割が決議されたら、どの時点で分割された株式が株主に割り当てられるのかを伝える必要があります。

株式分割により新株を割り当てられる株主を確定する日を「基準日」といい、基準日の2週間前までには株主に対して基準日公告を行わなければなりません(会社法124条)。

③株式分割の効力発生

株式分割の効力発生日を迎えると、株主には分割によって増えた株式が与えられます。またこの時、1株に満たない端数が生じた場合は、その端数を合計したものを競売等で売却した後に売却代金を株主に交付します。

④法務務局への変更登記申請

株式分割を行ってから2週間以内に、本店所在地を管轄している法務局で、株式分割に関する変更登記申請を行います。
なお、株式分割の変更登記申請を行う場合、分割する株式の比率や株式数に関係なく一律30,000円の登録免許税が必要となります。

株式分割に関する情報の取得方法

株式分割に関する情報を調べる方法はいくつかあります。まず、企業の公式ウェブサイトを訪れ、プレスリリースや投資家向け情報を確認することが基本です。
次に、証券取引所のウェブサイトや金融情報サイトで最新の発表やニュースをチェックします。また、株式分割に関する詳細な分析や意見を提供する金融アナリストのレポートも参考になります。

さらに、SNSや投資フォーラムでの投資家の意見や市場の反応を観察することも有益です。
最後に、関連するニュース記事や経済メディアをフォローし、株式分割の背景や影響についての情報を集めることで、より深い理解が得られるでしょう。

株式分割を発表した企業に対する投資判断のポイント

まず企業の業績や成長性を確認することが重要です。分割の目的を理解し、流動性向上や株価の手頃さを狙っているのかを考慮します。
また、市場の反応を観察し、投資家の期待が高まっているかを判断することも大切です。競合他社との比較を行い、業界内での位置づけを把握することも役立ちます。
さらに、短期的な価格変動に惑わされず、長期的な成長戦略を重視する姿勢が求められます。最後に、投資家心理に影響を与える要素も考慮し、総合的に分析することが成功する投資の鍵となります。

終わりに

株式分割は、株式の流動性を高めて個人の投資家を新たに呼び込めるなどのメリットがある一方で、管理コストなどのデメリットもあります。メリットとデメリットの双方を天秤にかけながら、最善策の選択を行う必要があります。

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監修

熊谷 秀幸

熊谷くまがい秀幸ひでゆき

大手監査法人で10年超に渡り、監査業務を中心にIPO、事業承継、M&Aに関するアドバイザリー業務等幅広い業務を経験してきた。 当社入社後は、主にコーポレートアドバイザー室において会計税務を中心とした専門領域の営業サポートを行っており、当社案件の中でもテクニカルな論点が多い案件に幅広く関わっている。 2025年4月より現職。

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