考えているようで実は考えられていない?!事業承継の「Why」「What」―その2

長坂 道広

日本M&Aセンター 事業承継エグゼクティブアドバイザー 株式会社ネクストナビ 取締役 / 株式会社青山財産ネットワークス 取締役 

事業承継
更新日:

⽬次

[非表示]

まずは前回のコラムのおさらいです。 納得する事業承継のためには、「どうやって(How)」事業承継をするか?を出発点とするのではなく、「何のために(Why)、何を(What)考えていくことなのか?」を起点にすることが必要であることをまず確認しました。 そして、事業承継を狭く考えるか広く考えるかで目的(Why)も変化し、どの選択肢<親族承継/社員承継/外部への第三者承継(M&A)/IPO>が自分にとって有効なのかが変わってくることもあわせて紹介しました。 今回は、事業承継の「何を(What)」考えていくのかについて、掘り下げていきたいと思います。

「何を(What)考えていくのか?」という整理を行う

事業承継の「何を(What)」考えていくのかの部分に関しては、「何のために(Why)」事業承継をするのかを考えて出た“自分にとって有力な事業承継の選択肢”について、この選択肢を実現するために最低限必要な条件は何かを整理することからスタートします。 自分の事業承継の目的は、「何のために(Why)」の整理で明確になっていますから、その目的からぶれないように思いつく条件を整理していくことが重要です。 このステップの難しいところは、自社での実現可能性を一度度外視して考えるべき点です。 「自社ではこれはできそうもないな」と考えてしまって条件を妥協してしまうと、本来目 指すべき事業承継の実現はその時点で不可能になります。 Whyのステップで確認した“自分の事業承継の目的”をしっかりと認識しながら、一度客観的に条件を挙げていく必要があります。

ゴールは事業承継 目的と達成条件を整理して臨もう

例:社員承継の場合

仮に、Whyのステップで『社員承継を目指したい』という結論が出たことにします。 社員承継を実現するために最低限叶えるべき条件はどのようなものがあるでしょうか? ざっと考えても以下の6つがあげられると思います。

  1. 1. 長期的に次代の会社を経営していける若手や中堅の後継者候補が存在していること
  2. 2. この後継者候補が会社の歴史、経営理念、事業構造に関して十分に理解していること
  3. 3. この後継者候補に会社を承継していく意思と覚悟が十分にあること
  4. 4. 現経営者が納得できる創業者利潤が想定できること
  5. 5. 株式の承継資金の返済が可能な利益や財務体質を有している会社であること
  6. 6. 社員承継という選択を親族及び家族の理解と合意が十分に得ていること

さて、これは果たして自社で実現可能なのでしょうか? ここまで考えて初めて、事業承継のスタートラインに立ったことになります。

試行錯誤ができないからこそ・・・

事業承継は、一朝一夕で答えが出せるテーマではありません。 “やってダメなら元に戻そう”では、時間だけが過ぎ、社員に不安や混乱を招き、会社は衰退していってしまいます。 事業承継は、試行錯誤やチャレンジが不可能な、一回限りの真剣勝負のテーマなのです。 だからこそ私たちは、セミナーなどを通じて、経営者のみなさまに「納得できる事業承継をじっくりと考えていくためのきっかけと動機」を提供していきたいと思っています。 私たちが開催する「『今考える!』事業承継セミナー」では、「何のために(Why)、何を(What)考えていくことなのか?」についてじっくり検討するきっかけを提供しています。 ※セミナーお申し込みは終了いたしました。

関連レポート:【創業30年超の老舗中堅・中小企業1,000社対象】事業承継に関する意識調査

著者

長坂 道広

長坂ながさか道広みちひろ

日本M&Aセンター 事業承継エグゼクティブアドバイザー 株式会社ネクストナビ 取締役 / 株式会社青山財産ネットワークス 取締役 

事業承継に約30年間携わっている、「事業承継のプロ」。M&A仲介に長年従事。その中で、M&Aだけでなく関係者が喜べるあらゆる承継手法を提供できるよう、日本M&Aセンターと総合財産コンサルティンググループである青山財産ネットワークスの協力により、「事業承継ナビゲーター」(現:ネクストナビ)を設立、初代代表取締役副社長に就任。現在、事業承継に悩む現役の経営者向けに幅広くコンサルティングを行っている。

この記事に関連するタグ

「事業承継・社員承継・親族内承継・親族外承継」に関連するコラム

事業承継を考えるとき、何から準備すればいい?

事業承継
事業承継を考えるとき、何から準備すればいい?

事業承継の準備は、まず家族と話し合うことから始める会社の将来を真剣に考える中で、事業承継について経営者の方がまず行うべきは「将来についてできるだけ早く家族と話し合う」ことです。これは顧問税理士や公認会計士、取引のある金融機関など第三者への相談よりも、優先した方が良いでしょう。驚くべきことに「子どもが事業を継ぎたいのか、継ぎたくないのか」という基本的な意識確認、「親として継がせたいのか、継がせたくな

事業承継は会社にとって第二の創業

事業承継
事業承継は会社にとって第二の創業

中小企業の経営者の多くは、自身が引退した後の会社をどうするか答えがないまま、経営を続けてこられたのではないでしょうか。特に、自身も健康で経営も順調であればなおさら、会社の後継者問題に向き合う機会は少ないといえるでしょう。真剣に考えるタイミングを逃しがちになります。事業承継は後継者の人生にかかわる重要な事ですが、だからこそ後継者をはじめとしたご家族と十分なコミュニケーションがとれていない場合がほとん

後継者は大学で育てる時代!?「事業承継科目」が人気

事業承継
後継者は大学で育てる時代!?「事業承継科目」が人気

家業の後継者といえば、かつては自社で育てるのが主流だった。今は後継者自らが、経営者になるために必要なことを学ぶため大学に通う例が増えているという。早くから事業承継科目を開講し、ビジネススクールとして世界的に高い評価を受けている名古屋商科大学ビジネススクール栗本博行教授にインタビューした。名古屋商科大学ビジネススクール栗本博行教授父親である経営者と後継ぎの息子が親子で通うという例も―名古屋商科大学ビ

社長の殻を脱いでじっくり考えられる場所―『事業承継プロフェッショナルミーティング』レポート

事業承継
社長の殻を脱いでじっくり考えられる場所―『事業承継プロフェッショナルミーティング』レポート

「多段階の人生、まさにそれです」秋雨が包み込む会議室は、季節と反対に温かい空気で満ちていました。会議室には6名、円座になって話しています。「引退後、大学に通って学び直しましたね」「わかります!学生時代は勉強が嫌なのに、いざ立場が遠くなると学び欲がでますよね」和やかな会話が続いています。ここは事業承継プロフェッショナルミーティング(以下、プロミ)の会場。とても今日が初対面とは思えない雰囲気で、各々が

考えているようで実は考えられていない?!事業承継の「Why」「What」―その1

事業承継
考えているようで実は考えられていない?!事業承継の「Why」「What」―その1

「事業承継については頭の片隅にずっとあったんだけど、社長業をしていると本気で考える時間がなくて・・・」私たちが開催しているセミナーに参加された、とあるオーナーの言葉です。“自分が永遠に社長をすることはできない”とわかっているからこそ、頭の片隅では考えている事業承継。しかし、それでは事業承継の本質を理解できずに時間だけが過ぎていってしまいます。“事業承継”はわかっているようでわからない、とっても厄介

本当の意味での事業承継サービスとは?

事業承継
本当の意味での事業承継サービスとは?

「“当社はM&Aで売却できる可能性がある”とわかったので、心置きなく経営も事業承継も検討できるようになりました」これは私が開催している座談会でいただいたお客様からの言葉です。このオーナー経営者は、座談会に参加する前までは、経営においても事業承継においても、いつもアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状況にあったそうです。どちらにも振り切ることができず悶々としている状況では、事業承継の判断も遅く

「事業承継・社員承継・親族内承継・親族外承継」に関連するM&Aニュース

栗田工業、一部事業を子会社のクリタ東日本に承継へ

栗田工業株式会社(6370)は、同社の東北地方における水処理薬品、水処理装置、メンテナンス・サービスの製品・技術・サービスを駆使したソリューションの提案活動・契約ビジネス推進、同地方の販売特約店支援事業(以下:当該事業)を、完全子会社であるクリタ東日本株式会社(東京都渋谷区)に承継させる会社分割を実施することを決定した。栗田工業を分割会社、クリタ東日本を承継会社とする吸収分割方式。栗田工業は、水処

アルファドライブ高知、土佐町で100年続く「清水屋旅館」を承継

株式会社アルファドライブ(東京都千代田区)の子会社である株式会社アルファドライブ高知(高知県土佐郡)は、高知県土佐町田井地区で100年以上続く旅館「清水屋旅館」の事業承継を行い、新たに宿泊事業をスタートすることを発表した。アルファドライブ高知は、企業・行政向けの新規事業開発、創業支援、人材育成プログラムの開発・展開、高知県産業振興のための事業開発を行っている。背景・目的清水屋旅館は、土佐町田井地区

ジェイアール西日本デイリーサービスネット、ホテル事業をJR西日本ヴィアインへ承継

株式会社ジェイアール西日本デイリーサービスネット(兵庫県尼崎市、以下:DSN社)は、株式会社JR西日本ヴィアイン(大阪府大阪市、以下:VI社)に、会社分割(吸収分割)により、DSN社の宿泊特化型ホテル事業を承継することを決定した。DSN社を吸収分割会社とし、VI社を吸収分割承継会社とする会社分割(吸収分割)方式。DSN社は、全国で宿泊特化型ホテル事業を運営している。VI社は、ビジネスホテル運営事業

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース