【地方発 世界に誇るブランド企業】千代の亀酒造株式会社

広報室だより
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1716年に創業し、愛媛県で江戸時代から300年以上にわたり日本酒造りを行う千代の亀酒造。2024年にはM&Aで同じく麹を扱う大手発酵食品メーカー・マルコメ(長野県)の一員となりました。伝統的な酒造りのもとで目指す“新しい景色”について、話を聞きました。

※本記事は、2026年3月末発行の日本M&Aセンター広報誌「MAVITA」VOL.7からの転載です。

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愛媛県喜多郡内子町
千代の亀酒造が酒造りを行うのは、喜多郡内子町の五十崎地域。棚田による米づくりや林業が盛んで、酒造りの原料となる米と水はすべて地元のものを用いる。もともと旧五十崎町には10軒の地酒屋があったが、統廃合によって1970年に同社1軒のみとなり、現在に至る。地元産原料の活用を通じて地域経済の活性化に貢献し、地域社会からの信頼も厚い。

地元の原料を使って個性ある酒造りを展開

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愛媛県には、世にも珍しい日本酒があります。その名は「銀河鉄道」。日本酒を氷結させた逸品で、口に含めばシャーベット状の粒が舌でほどけるように溶け、長期熟成酒ならではの甘く深い香りが鼻を抜ける──。なんとも個性的で、一度飲んだら忘れられない味わいです。

この銀河鉄道を手掛けるのが、愛媛県は内子町で300年超の歴史を持つ、千代の亀酒造。原料の米と水はすべて地元産で、伝統の製法を大切にしながら、個性ある酒造りを行っています。

いわゆる製造責任者である杜氏を務めるのは、髙山知大氏。“麹一筋”の仕事人生を送ってきた人物です。

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千代の亀酒造株式会社
杜氏(生産本部長) 髙山 知大さん

大学で醸造学を学んだ後、長野の酒造メーカーを経て、マルコメに入社。以降、麹事業に携わり、世界最大級の米麹工場、魚沼醸造の立ち上げにも参画。現在は、2024年にマルコメグループとなった千代の亀酒造に出向し杜氏を務める

酵母の”魔法”に魅入られ酒造りの世界に進む

髙山氏が、その道に入る大きなきっかけの一つとなったのが、高校時代に目にしたある光景でした。

「同居していた祖父が、畑仕事から帰るとよく日本酒を飲んでいたのですが、疲れているはずなのに、お酒を飲むと表情がほっとほころぶんです。米と水だけで造ったものに、なぜそんな力があるのかと興味を持ちました」

こうして髙山氏は、大学で醸造学を学び、長野の酒造メーカーに就職。その後、日本酒造りの要となる麹をより突き詰めようと、味噌や麹製品を造るマルコメに入社。以降は長く、麹事業に携わってきました。

キャリアの転機となったのが、2024年のこと。マルコメが、千代の亀酒造をM&Aで譲り受けることになったのです。千代の亀酒造では、酒造りという地場産業の存続と発展を目的に数年前から譲渡先を探していて、マルコメの事業基盤を活かすことを見込んでのM&Aでした。そして、マルコメから千代の亀酒造の新社長に選任された小川浩司氏から「グループ内にこれ以上の適任はいない」と杜氏に指名されたのが、髙山氏でした。

「まさか、また日本酒造りに関わるとは、それも愛媛に赴任するとは思っておらず、本当に驚きました。ただ、いつか瀬戸内の辺りで暮らせたらいいなと漠然と思っていたので、不思議なご縁を感じました」

長く受け継がれてきた「微生物に寄り添う」酒造り

新体制となった千代の亀酒造が始めた一つが、試飲も可能な直売所を、社屋の一角に設けたことです。また、マルコメの味噌造りにおける衛生管理手法も採り入れ、製造設備からスタッフの身だしなみに至るまで、衛生管理のレベルが数段アップしたといいます。

一方で、酒造りの核となる手法は、そのまま踏襲しています。たとえば「槽しぼり」という工程。酒となる一歩手前の「もろみ」をしぼる際は、機械で効率的にしぼるのではなく、あえて昔ながらの道具を使って時間をかけてしぼることで、雑味のない酒に仕上げています。また、蒸した米を冷ます作業も、機械ではなく昔ながらの自然放冷を守っています。

「生産規模が大きいと工程ごとに担当を分ける必要も出てきますが、うちは小さい蔵なので、各工程をみんなでやっています。おかげで1本1本を手造りしている感覚があり、どの社員も『自分たちが造った』と言い切れる点が強みです」

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新旧のスタッフが”なめらかに”融合

とはいえ、決してアナログ一辺倒ではありません。

「感覚だけに頼ると、属人化が進んでしまいます。ただ、データだけにとらわれると、微生物の微妙な変化などデータに表れない部分に気づけなくなる。だからこそ、データと感覚の融合を大切にしていて、それにはデータと感覚のギャップを知ることも重要になります」

社員は、髙山氏を含めて5名。加えて、日本酒造りの知見をグループの麹事業に活かすことを目的に、マルコメから出向した社員2名が一緒に酒造りを行っています。

「私が赴任する際は、みなさんに受け入れていただけるか不安でしたが、初日のお茶タイムの時から『こっちに来いや、一緒に飲もや』と声をかけていただいて大変助かりました。今では、自然に冗談を言い合える関係性です。社員の年代が上は75歳、下は25歳と幅広く、多様な意見が出るところも強みです。お茶タイムでは、他愛もない話をしているところから急に戦略会議や反省会になることもあって、面白いコミュニケーションの場となっています」

M&Aを契機に目指す伝統産業の新しい地平

300年超の伝統と地元に根ざした酒造りという得がたい個性はそのままに、親会社の強みをなめらかに融合しつつある、千代の亀酒造。同社ではこの先、どんな未来を描いているのでしょうか。

「人口減や若者の酒離れなどで国内市場は厳しい状況ですが、ほぼ県内のみだった販路をマルコメのリソースも活かして県外に広めるなど、やれることはいろいろあります。また、近年は欧米だけでなく東南アジアでも日本酒が飲まれるなど海外での注目が高まっているので、国外にもきちんとアプローチしていければなと。当社グループは、日本酒造りを含む『伝統的酒造り』と、味噌を含む『和食』という二つの世界遺産に関わる事業を行っており、その強みも活かしていきたいです」

その先に見据えるのが、こんな光景です。

「たとえば飲み会にうちのお酒を持っていって、参加者の何人かが『あ、それ知ってる!』と話題になるような、知る人ぞ知る銘酒として認知されるようになる。そうしてうちの蔵や、日本酒そのものが盛り上がることで、地元の一次産業が元気になって、若者たちが家業を継ぎに戻ってくる。そんな未来に、いい酒造りを通して貢献できれば何よりです」

その光景が現実のものになったとき──。今回のM&Aは、伝統産業が新しい地平にたどりつく契機となった事例として、あらためて注目されることになるはずです。

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自然の豊かな恵みを活かして、江戸時代から酒造りを行う。2013年に亀岡酒造から現在の社名となった

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2025年に設けられた、自社製品の直売所。
各銘柄を試し飲みでき、外国人観光客が訪れることもある

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直売所では、地元の木材を活用したオリジナルチャームも販売。ボトルと米をかたどったデザインが愛らしい

写真:富本 真之 文:田嶋 章博

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