事業再生とは?企業が行うべき手法や、成功のポイントを解説
経営不振に陥った企業でも、適切な事業再生の取り組みによって、再び競争力を取り戻し、持続的な成長を実現できる可能性があります。資金繰りの悪化や収益性の低下に悩む経営者にとって、事業再生は企業の価値と雇用を守る重要な選択肢といえるでしょう。
本記事では、事業再生の基本的な概念から法的再生・私的再生・再生型M&Aといった具体的な手法、さらには事業再生を成功させるためのポイントまで、わかりやすく解説します。
この記事のポイント
- 事業再生は、倒産の危機にある企業の事業を再構築し、持続的に事業を続けられる状態にする取り組みのこと。
- 事業再生の手法には、法的な保護のもと行う「法的再生」、債務者と債権者で協議する「私的再生」、スポンサー企業などの支援を受けて行う「再生型M&A」がある。
- 事業再生するには、自社の現状を把握し、早期に専門家に相談した上で手法を選択する。あわせて資金調達の必要もある。
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事業再生とは、経営不振の企業の事業を支援して存続をはかること
事業再生とは、経営不振に陥った企業の事業を再構築し、収益性を回復させる取り組みのことです。倒産を防ぎ、企業の価値や雇用を守りながら、持続的に事業を続けられる状態にすることを目指します。
事業再生の具体的な手段としては、不採算部門の縮小や撤退、収益モデルの改善、債務の圧縮、返済条件の変更のほか、外部からの資金調達やスポンサー支援などがあり、これらを組み合わせることで、財務状況を改善し、事業の継続を可能にします。
事業再生は単なる経営改善にとどまらず、金融機関や取引先、従業員といった関係者との信頼関係の再構築や企業価値の向上を目指すことも目的の一つです。
事業再生と企業再生の違い
事業再生と企業再生の違いは、対象範囲とアプローチです。事業再生は、特定の事業部門の立て直しに焦点を当てるのに対し、企業再生は企業の維持を前提に、企業全体の経営戦略や組織体制を見直す包括的な取り組みを指します。
ただし、実務においては同義語として使われることも少なくありません。企業全体を再建する場合でも事業再生という表現が用いられたり、特定事業の再生を企業再生と呼んだりすることもあります。
いずれにしても経営危機を乗り越え、企業や事業の存続を実現するという点では、重要な経営手法といえます。
事業再生するための条件とポイント
事業再生を行うにあたって、法的な条件は特に定められていません。しかし、事業再生を成功させるためには、以下のようなポイントを押さえておくことが大切です。
・市場での競争力から将来性を評価する
・負債をなくすことでキャッシュフローが正常化できる
・経営者自身が覚悟を決める
・自社の現状を正確かつ客観的に把握する
市場での競争力から将来性を評価する
事業再生するには、再生対象の事業が市場で競争力を持ち、将来性が見込めるかを評価することが不可欠です。資金を投入しても、市場ニーズが乏しく、事業や競争力を欠く事業の再生は困難です。客観的な市場調査や事業性評価を踏まえ、再生に投資すべきか、撤退すべきかを合理的に判断することが求められます。
負債をなくすことでキャッシュフローを正常化する
事業再生では、負債を圧縮しキャッシュフローを正常化できるかが重要な判断基準となります。過剰債務を解消し、返済条件を見直すことで事業が黒字化し、継続的に資金を創出できるかを慎重に検討する必要があります。
このプロセスには財務、法務、税務を含む高度な専門知識が不可欠です。そのため、経営コンサルタントや弁護士といった専門家の支援を受け、実効性のある再生計画にすることが推奨されます。
経営者自身が覚悟を決める
事業再生においては、経営者自身の覚悟も重要なポイントの一つです。自社の厳しい現状から目を背けず、事業再生に取り組む強い意志を持つことが求められます。事業再生の過程では、不採算事業の撤退や人員削減などの痛みを伴う決断を下す局面も多く、経営者の強いリーダーシップが事業再生の成否を左右する要素となります。
自社の現状を正確かつ客観的に把握する
事業再生を進めるには、自社の現状をデータで正確かつ客観的に把握することも欠かせません。具体的には、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表、資金繰りの推移、金融機関ごとの借入残高と担保の状況のほか、経営が悪化した原因分析などを整理する必要があります。こうした現状把握が、適切な再生計画の策定につながります。
事業再生の手法

事業再生の手法は大きく分けて、法的再生(法的整理)と私的再生(私的整理)の2つがあります。それぞれの手法はさらに細分化されるため、企業の状況や規模に応じて適切な方法を選択することが重要です。ここでは、事業再生の手法について見ていきましょう。
法的再生
法的再生は、裁判所の管理下で債務整理や再建計画を進める手法で、法的な保護を受けながら企業の立て直しを図ることができます。主な手法として、民事再生や会社更生のほか、特定調停、破産、特別清算などがあります。この中で事業を継続することを目的にした再建型と呼ばれるのが、以下の民事再生と会社更生です。特定調停、破産、特別清算は、資産などを解体・清算する清算型となります。
■再建型の法的再生の手法
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 民事再生 | 経済的な困難に直面している現経営陣が主導し、破産を回避しながら事業継続と経営再建を目指す法的手続き。主に中小企業や個人事業主が活用する手法 |
| 会社更生 | 会社更生法に基づき、裁判所が選任する更生管財人が主導して企業再建を進める手続きで、法人(株式会社)のみが適用対象 |
なお、法的再生の特徴は、法的強制力により債権者全員の同意が得られない場合でも事業の再生を図ることができる点です。ただし、時間とコストがかかるというデメリットもあります。
私的再生
私的再生は、裁判所を介さず、債務者と債権者が直接協議して再建計画を進める手法です。手続きが迅速で費用を抑えられるほか、情報漏洩のリスクも低いというメリットがあります。ただし、全債権者の同意が必要となるため、合意形成が難しい場合もあります。
私的再生の主な手法は、「私的整理ガイドラインの利用」「中小企業活性化協議会の活用」「事業再生ADR」など以下の表のとおりです。
■私的再生の手法
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 私的整理ガイドライン | 裁判所を通さずに、債務者と金融機関等の債権者が自主的に債務整理や再建策を協議するためのルールをまとめた指針。法的拘束力はない |
| 中小企業活性化協議会 | 中小企業庁が設置した公的機関で、ルールに則り中小企業の収益力改善から再チャレンジまでを幅広く支援する |
| 事業再生ADR | 中立的な第三者機関が債務者と金融機関等の債権者の間に入り、早期の合意形成を支援する制度。税負担の軽減、つなぎ融資の円滑化をはかるなどのメリットがある |
※私的整理に関するガイドライン研究会「私的整理に関するガイドライン」
※中小企業庁「中小企業活性化協議会(収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援)」
※経済産業省「事業再生ADR制度について」
法的再生と私的再生のメリットと注意点
法的再生のメリットは、「債権者全員の同意がなくても手続きを開始できる点」や「公平性が高いこと」です。一方、注意点としては、「手続きが複雑で時間がかかり、相応の費用も必要となること」が挙げられます。
私的再生のメリットは、「開始までの時間が短く柔軟性があること」や「民事再生よりも費用を抑えられる可能性があること」です。また、裁判所の関与がないため、「情報が外部に漏れにくく、会社の信用を失いにくい」という利点もあります。注意点としては、「全債権者の同意が必須となるため、合意形成が難しい場合があること」です。
それぞれにメリットと注意点があるため、企業の状況や規模に応じて、適切な手法を選択することが重要です。
再生型M&Aの特徴と活用方法
再生型M&Aは、スポンサー企業や金融機関の支援を受けながら、M&Aを活用して企業や事業を再建する手法です。倒産回避や雇用維持、債権回収の早期化など、社会的利益が大きいという特徴があります。そのため、再生型M&Aは主に経営危機に直面している企業が活用するもので、事業承継型M&Aや成長戦略型M&Aなどのように成長を加速化させるM&Aとは異なります。
ただし、どのようなM&Aであっても、M&A仲介会社など専門家に相談して進めることが大切です。
再生型M&Aには、主に以下4つの手法があります。
■再生型M&Aの手法と内容
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 企業再生方式 | 法人格を維持しつつ、スポンサー企業の子会社として再建する。中小企業は規模的に難しいことがある |
| 事業譲渡方式 | 優良事業のみをスポンサー企業へ譲渡し、既存法人は譲渡によって得た資金で債務整理や清算をする。中小企業でも多く活用されている |
| 会社分割方式 | 採算事業と不採算事業を分割し、採算事業は新会社に移転させる。不採算事業が残った既存法人は債権者の協力を得ながら再建を目指す |
| 会社分割方式 | 新たに設立した会社に採算事業のみを会社分割や事業譲渡によって分離させ、それ以外の事業は既存法人に残して清算する |
事業再生の流れ
事業再生を行うには、主に4つのステップがあります。ここでは事業再生の流れについて解説します。

1. 現状把握と専門家への相談
事業再生を進めるにあたって、まず財務状況や資金繰り、銀行からの借入状況を詳細に調査し、経営危機の原因を把握します。
また、現状を把握するためにも、事業再生に特化した経営コンサルタントや事業再生士などの専門家に相談し、適切な助言を得ることが大切です。財務面であれば会計士、法的措置であれば弁護士、M&Aの場合はM&A仲介会社など、専門家によって相談内容は異なります。
2. 事業再生方法の決定と事業再生計画の策定
事業の収益性や負債状況などの現状を踏まえ、専門家と相談した上で、法的再生、私的再生、再生型M&Aなど、自社にとって適切な事業再生の手法を選択します。
さらに、3年程度の改善計画を示す事業再生計画書を作成し、財務改善や資金繰り方針など具体的な施策を記載します。金融機関からの融資やスポンサー企業からの出資を得るためには、説得力のある事業再生計画書が必要です。
3. 資金調達
事業再生には資金が必要となるため、金融機関からの融資やスポンサー企業からの出資により資金を調達します。
民事再生の場合は金融機関からの融資を受けにくくなるため、スポンサー企業を探さなくてはなりません。スポンサー企業は単なる資金提供者にとどまらず、さまざまな役割を担います。具体的な役割としては、スポンサー企業の信用力を背景に金融機関や取引先との関係を再構築する信用補完、スポンサーが持つ経営ノウハウや管理手法の導入による経営改革の推進、スポンサー企業の販路を活用した売上拡大支援などです。
なお、主なスポンサー企業には、シナジー効果が期待できる事業会社や、再生後のリターンを目的とする投資ファンドなどが該当します。
4. 事業再生手続きの準備と実行
事業再生に必要な資金が確保できたら、事業再生手続きを進めます。法的再生の場合は、裁判所の許可や債権者の同意を得て手続きを進めます。一方、私的再生の場合は、主要債権者との協議と合意形成が不可欠です。
計画実行中に生じる問題には柔軟に対応し、目標達成に向けて着実に進めていくようにしましょう。
事業再生を成功させるためのポイント
事業再生を成功させるためにも、押さえておきたいポイントがあります。ここでは2つの重要なポイントを見ていきましょう。
冷静に現状を受け止め、将来性のある事業を見極める
事業再生を成功させるためには、市場調査などを行って将来性のある事業を見極め、事業の選択と集中を図ることが大切です。将来性の乏しい事業は撤退し、人員削減など痛みを伴う決断を下す覚悟が経営者には求められます。
さらに、金融機関やスポンサー企業に対しても、将来性を具体的に示せる説得力のある再生計画を提示し、経営者自身の強い意思と熱意を示すことが信頼獲得につながります。
専門家のサポートを早期に受ける
事業再生には複数の方法があり、自社に最適な方法を選択するには、専門家のサポートを早期に受けることが大切です。
経営者が一人で抱え込んでしまうと、適切な意思決定が難しくなり、対応が遅れることで事業再生の可能性を狭めてしまうかもしれません。特に、危機的な状況では迅速な対応が求められるため、中小企業活性化協議会などの公的機関が提供する無料相談窓口を利用するなど、あらゆる可能性を探っていくことが必要です。まずは無料相談窓口を活用し、知見を取り入れることから始めてみましょう。
事業再生するならまずは専門家に相談する
事業再生は、経営不振の企業が倒産を回避し、持続的な成長を目指すための重要な手段です。事業再生には法的再生や私的再生、再生型M&Aなどの種類があり、自社にとって最適な手法を選択することが重要です。具体的な計画策定と資金調達を行い、まずは専門家に相談してみましょう。
事業再生の中でも再生型M&AであればM&A仲介会社でも対応しているところもあります。日本M&Aセンターは、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録された支援機関です。豊富な実績を持つ専門チームがワンストップでサポートします。組織再編やM&Aをご検討の際は、ぜひ日本M&Aセンターの無料相談をご活用ください。
よくある質問(FAQ)
法人の事業再生とは何ですか?
事業再生とは、経営不振に陥った企業の事業を再構築し、収益性を回復させる取り組みのことです。主な手段に、不採算部門の縮小や撤退、収益モデルの改善、債務の圧縮や返済条件の変更、外部からの資金調達やスポンサー支援などが挙げられます。
詳しくは「事業再生とは、経営不振の企業の事業を支援して存続をはかること」をご確認ください。
事業再生ADRとは何ですか?
事業再生ADRは、裁判所を介さず、債務者と債権者が直接協議して再建計画を進める私的再生の手法の一つです。具体的には、中立的な第三者機関が債務者と金融機関等の債権者の間に入り、早期の合意形成を支援する制度で、税負担の軽減、つなぎ融資の円滑化をはかるなどのメリットがあります。
詳しくは「私的再生」をご確認ください。
事業再生の手順は?
事業再生を進めるには、主に以下4つの手順があります。
1. 現状把握と専門家への相談
2. 事業再生方法の決定と事業再生計画の策定
3. 資金調達
4. 事業再生手続きの準備と実行
事業再生を進める経営者は、専門家と連携し、企業の現状把握と事業再生方法の決定を行います。さらに事業再生にかかる費用の資金調達を行い、手続きの実行を進めていくことが大切です。
詳しくは「事業再生の流れ」をご確認ください。









