給食業界の動向とM&A戦略

伊東 勇一

日本M&Aセンター食品業界専門グループ

業界別M&A
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いつも当コラムを楽しみにしていただいている皆様、ありがとうございます。 日本M&Aセンターの伊東と申します。2025年もよろしくお願いいたします。 当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが、業界の最新情報を分析し執筆しております。今回は「給食業界の動向とM&A戦略」について解説いたします。

給食業界の動向

給食サービスは、学校や企業の社員食堂や病院食堂、有料老人ホームなど高齢者福祉施設への食事供給が主な業務です。

受託先の厨房施設を借りて、献立構成から調理、栄養バランスの取れた食事提供を手掛けており、特性として、栄養管理、品質管理、衛生管理、コスト管理、環境配慮、デジタル化など多岐にわたります。

ビジネスモデルとして、調理業務の運営の委託を受け、調理師などの人材を雇い入れ、食材を卸売市場から仕入れ、調理現場にて調理し提供することが一般的です。

受託先を増加することが事業拡大に直結します。 また、契約更新時には入札で選ぶのが一般的で、各対象者のニーズに合わせたサービスを提供し、利用者の健康維持と生活の質向上をサポートしています。

日本フードサービス協会の外食産業市場規模累計によると、*2023年の「集団給食」の市場規模は3兆1,741億円(前年比6.2%増)*となっており、「集団給食」のうち「事業所給食」は1兆5,884億円(同10.3%増)、「保育所給食」は3,512億円(同0.7%減)、「病院給食」は7,513億円(同2.8%増)、「学校給食」は4,832億円(同4%増)でした。

当社のグループ企業である矢野経済研究所によると、2023年度の給食市場(事業所対面給食、弁当給食、病院給食、高齢者施設給食、学校給食、幼稚園・保育所等給食の6分野)は前年度比3.9%増の4兆7,915億円となりました。(2024年10月調査)

近年の給食業界には、異業種からの参入も少なくありません。 新規参入の障壁もそれほど高くないことから、多くの企業がひしめき合う業界となっております。

市場規模は伸びているものの、売上が伸びず厳しい経営を強いられている企業も多いです。給食業界は売上高上位5社で約40%のシェアを占めており、大手による寡占、業界再編も徐々に進みつつあります。今後は更に、原材料調達・セントラルキッチンの効率化を図る等、M&Aが進む傾向にあると考えられます。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

給食業界の課題

1.食材コスト増や食材供給不安定

食材費の高騰が続き、従来の価格で販売し続けられる食材や供給量を確保することが難しい状況が続いています。

食材を変更することや供給を止めることが難しい場面も多く、供給や価格が不安定な状況でも、供給先である学校給食や介護施設は、栄養バランスや調理状況など、細かな要素を考慮した献立管理が必要となっています。利用者の健康維持は重要な役割であり、食事の質が低下することは大きな問題です。

また、原材料の調達において、代替品にて対応することは容易ですが、原材料の価格変動リスクがあるため注意が必要です。

2.多様化するニーズへの対応

今後も高齢化は進みますが、高齢者向けに対応したサービスが増加しています。

本来であれば献立やサービスで競合との差別化を図るべきですが、栄養バランスやコストが厳密に定められており、提供サービスの自由度が低く、差別化が難しいのが現状です。 その中で価格でしか差別化をできない企業が増えています。

3.長期化する人材不足

給食業界はまだまだアナログな部分が多く、従業員にとっては、労働基準法の改正や最低賃金の改定など労働者を守るための政策がありますが、経営者の観点からはとても厳しい状況です。 業界の給与水準が高くないこともあり、栄養士や調理師などの有資格者が離職してしまうなど、人材の確保だけでなく定着が難しい状況にあります。 更に後継者不足も深刻です。

現場の業務過多により後継者育成ができていないことや、業績不振から承継の意思が低いことが原因と考えられます。

M&Aによる戦略

これらを解決するために、ひとつの選択肢としてM&Aを検討する企業が増加しています。

譲渡企業としては、食材原価の高騰、安全管理の徹底、生産性の向上などの経営課題を解決することが主な狙いです。 給食事業はスケールメリットが働きやすく、大量の仕入、配送網の集約、基幹システムの統合などにより、原価の低減や効率化を図りやすいという特徴があります。

過当な価格競争による収益力の低下、膨大な設備投資と債務、深刻化する人材不足など、厳しい状況を打破するとともに、生き残りをかけて、単独での経営からより大きな資本での成長を目指す企業が増加しています。以下では3つの事例をもとに具体的な教職業界のМ&A戦略を解説させて頂きます。

給食M&A事例:ソシオフードサービス

譲渡:ソシオフードサービス

譲受:コロワイド

目的:病院・介護給食事業のノウハウ取り込み、給食事業の拡大

ソシオフードサービスは年商80億円、病院や福祉施設、保育園など340カ所以上の給食を受託運営していますが、コロワイドはこのM&Aにより、グループの食材調達機能や工場を活用して給食事業運営の効率性を高めることが狙いです。 コロワイドは2020年より給食事業に参入していますが、大学や企業などに受託先を広げ、高齢化で堅調な伸びが期待できる病院・介護施設給食を中心に積極的なM&Aで規模を拡大しています。

給食M&A事例:三給

譲渡:三給株式会社

譲受:株式会社トーカン

目的:給食市場への参入、企業価値向上

セントラルフォレストグループの子会社であるトーカンは三給の全株式を取得しました。 これにより、三給株式会社が全株式を保有する株式会社ヒカリもグループとなりました。

このM&Aにより、セントラルフォレストグループは三給が給食市場及び中食・総菜市場に強みを有することから、トーカンおよび三給の両社にてシナジー効果を発揮するとともに、グループ全体においてさらなる企業価値向上を目指しています。

給食M&A事例:東京割烹

譲渡:東京割烹株式会社

譲受:株式会社レパスト

目的:事業拡大、優秀な人材の育成及び活用による経営の効率化

東京割烹株式会社は、創業以来60年以上の経験を持ち、学校給食および社員食堂に特化した給食受託授業を行っていましたが、株式会社レパストに全株式を譲渡しました。

レパストは給食の受託運営をメインとして、全国にフードサービス事業を展開し学校や企業、医療機関、官公庁などの施設で各種サービスを提供しています。

レパストは、2020年にもコロナ渦による食ビジネス環境の変化を踏まえ、寿司・弁当等の製造・販売を行う株式会社マシモから食品工場を全事業譲渡により取得しています。

最後に

給食業界は、新型コロナウイルスの影響での需要減少から回復を取り戻している傾向にあります。

今後もプラス成長が予測され、2026年度に総市場は5兆円を超え、2028年度の市場規模は2023年度比107%の5兆1,254億円と予測されています。(矢野経済研究所調べ)。

近年の社会構造の変化に伴い、給食の提供方法が従来のスタイルと変わりつつあり、超高齢化社会に対応したサービスの提供が必要になってきます。 少子高齢化が進むことにより高齢者施設は増加傾向になります。業界全体の成長となるよう、サービスの多様化と効率化を追求し続けることが重要で、経営課題に対しての解決策のひとつとしてM&Aを活用する機会が増加すると考えています。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

伊東 勇一

伊東いとう勇一ゆういち

日本M&Aセンター食品業界専門グループ

大阪府出身。10年間、飲料メーカーでの流通営業・法人営業・マネージャーを経て、日本M&Aセンターへ入社。ヘルスケア領域でのM&A・事業承継の支援業務に取り組み、現在は食品業界を専門に企業の存続と発展に向けたM&A支援に取り組んでいる。

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