シンガポール投資における2024年のキーワード

長谷川 悠介

著者

長谷川悠介

海外M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

日本M&Aセンター海外事業部にて東南アジアを中心に、クロスボーダー案件を担当している長谷川です。

今年、20年ぶりの首相交代を控えるシンガポール。
本コラムでは、2024年のシンガポール投資を考えるうえで注目したいキーワードについてお話ししていきます。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

2023年のシンガポール投資とクロスボーダーM&A

国土は非常に狭く東京23区ほどの面積しかない国ながら、東南アジアの中心に位置し、貿易と金融で発展を遂げたシンガポール。
シンガポール貿易産業省が1月2日に発表したGDPは前年比1.2%増加とのことで、当初予測されていた数値には至らなかったようですが、常に東南アジアを牽引する様々な取り組みを行っているのがシンガポールです。2024年はどういった成長を遂げるのか、考えてみましょう。

半導体工場への投資が進んだ2023年

コロナによる影響で世界的な半導体不足から、シンガポールにも工場建設や工場設備増設のラッシュが起こった2023年前半でした。
ところが、欧米諸国の金融引き締めの影響もあり、シリコンサイクルの波で世界的なエレクトロニクス部門の不況となり経済は停滞しました。

2024年は米国の政策金利は利下げの予想もあり、シンガポール貿易産業省(MTI)も2024年後半にはエレクトロニクス部門への需要回復が進み、シンガポールの製造業・貿易関連産業では成長が加速すると見込んでいるようです。

2023年はクロスボーダーM&Aも盛んに行われた

日本企業によるシンガポール企業のM&A件数は2022年で東南アジアでも最多の48件で、コロナ渦の件数から1.5倍のペースで推移してきました。

2023年は円安の影響や戦争などによる外的要因で海外への投資がまた足踏み状態になると危惧されていましたが、2023年も1月から9月までで約35件と、成長国として注目されているベトナムやインドネシアの約3倍の件数のM&Aが行われており、日本企業のシンガポール進出は引き続き盛んと言えます。
出典:クロスボーダーM&Aマーケット情報(RECOF)

日本企業によるシンガポール企業の買収事例

ワタミ、シンガポールの食品加工会社 LEADER FOOD グループを買収へ(日本M&Aセンター M&Aマガジン)
ワタミ株式会社が年末にシンガポール企業のシーフード及び肉類の輸入、保管、加工、包装、供給を手掛けるリーダー・フード・グループの株式の80%を取得するとのリリースを出しました。
2023年12月29日付の日本経済新聞では「渡辺美樹会長兼社長はリーダー・フードを傘下に入れることで『アジア全体の店舗に向けた調達力強化につながる』と今回のM&Aの意義を強調した。」と報じられました。

シンガポール企業を買収する目的の一つに、アジア全体の海外戦略を将来的に見据えていることが多くあります。
今回の同社の買収の目的はまさにアジアを見据えての成長戦略だと言えるでしょう。
また、同社が海外企業をM&Aするのは初めてとのこと。シンガポールは世界でも屈指のビジネス環境を有しており、安定したインフラと整備された法制度、安定した政治と社会情勢もあります。さらに、M&Aにおいて重要な財務情報についても、ASEAN他国と比較してもシンガポールは財務の透明性は高いのが特徴です。

シンガポールの特徴については過去の記事を参照ください⇒「ASEAN進出への道はシンガポールから!?投資先としてのシンガポールの魅力とは」

シンガポール投資における2024年のキーワード

ここからは、2024年以降、シンガポール企業への投資やクロスボーダーM&Aを検討する際に注目したい4つのキーワードについて解説していきたいと思います。

4つのキーワードは、それぞれ「物流網の拡大」「自動化」「サイバーセキュリティ」「再生可能エネルギー」です。

「物流網の拡大」と「自動化」

先述したように2024年後半にはエレクトロニクス部門への需要回復が進むとされていることから、シンガポールの製造業・貿易関連産業では成長の加速が見込まれており、その成長の柱となるのが物流網と言えます。

2023年に世界最高の空港に選ばれたチャンギ国際空港ですが、2024年はさらなる拡張で、2030年までに第5ターミナルを建設予定です。観光業はもちろんのこと、貿易関連での成長を後押しするのもチャンギ国際空港の役割と言えるでしょう。

注目される事業分野としては、メディカル関連は温度管理が必要でコンテナ輸送が難しいケースが多く、空輸がメインとなります。また、エレクトロニクス部門に加えて、高齢者社会へ進みつつあるシンガポールにとってヘルスケア部門も注目される可能性があります。

港湾においても新たに開港したトゥアス港は、人件費の高騰にいち早く対応すべく2040年ごろに世界最大級の完全自動化ターミナルとなる見通しです。こうした完全自動化を支えるテクノロジー分野も成長していくと言えるのではないでしょうか。

生成AIの脅威と「サイバーセキュリティ」

2023年は「生成AI元年」とも言うべき年でした。
一気に世間一般に広まったChat GPTをはじめとした生成AIの台頭で、これまで以上に職場や家庭でのIT化も加速しています。

こうなる以前より、サイバーセキュリティの重要性は認識されており、シンガポールのサイバーセキュリティ庁(Cybersecurity Agency of Singapore :CSA)も2018年にサイバーセキュリティ法案改正を行いました。しかし、2023年における生成AIの台頭により高度なディープフェイクをはじめとした脅威が増えており、一方でそれを防ぐためのAI活用も、セキュリティ対策には必須となる時代となりました。

テクノロジーでも常に東南アジアの先端を走るシンガポールにおいて、サイバーセキュリティ関連のM&Aの可能性も開拓していきたいと思います。

「再生可能エネルギー」の中心地

2023年にもさらに浮き彫りとなった日本のエネルギー問題ですが、シンガポールも日本同様に資源を持たない国です。そんなシンガポールがどのようにしてエネルギー問題を克服していくのでしょうか。昨今、SDGsと叫ばれる中、注目されるのは再生可能エネルギーです。シンガポールは再エネのトレーディングハブとしての機能を持つことを目指しています。

再エネの発電量が増加する中、シンガポールは再エネの取引や流通の中心地となり、アジア太平洋地域の再エネ市場において重要な役割を果たすことを目指していることから、再エネ関連も注目すべき分野といえるでしょう。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
 海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

【セミナー無料公開】M&A件数トップ戦略ハブ・シンガポールの最前事例と案件分析【東南アジアM&A最前線】



著者

長谷川 悠介

長谷川はせがわ悠介ゆうすけ

幼少期に米国在住、外資系ITコンサルティング会社、外資系金融機関を経て、2022年日本M&Aセンターセンターに入社。東南アジアを中心とした中堅・中小企業と日本企業のクロスボーダーM&A支援に従事。

この記事に関連するタグ

「クロスボーダーM&A」に関連するコラム

【M&A成約事例】兵庫とシンガポール企業のクロスボーダーM&Aを支援

広報室だより
【M&A成約事例】兵庫とシンガポール企業のクロスボーダーM&Aを支援

富永商事ホールディングス(青果卸)がFreshmartSingapore(青果輸入卸)の一部株式を譲受け青果卸の富永商事ホールディングス株式会社(本社:兵庫県南あわじ市/代表取締役社長:富永浩司)は、シンガポールの青果輸入卸「FreshmartSingaporePteLtd」(本社:PandanLoop,Singapore/ManagingDirector:KohChoonKiat)をクロスボーダ

クロスボーダーM&Aとは?手法やメリット・デメリット、流れを具体的に解説

海外M&A
クロスボーダーM&Aとは?手法やメリット・デメリット、流れを具体的に解説

新しい市場への進出や事業の拡大を目指し、多くの企業がクロスボーダーM&A(海外M&A)に取り組んでいます。クロスボーダーM&A活況の流れは、近年中堅・中小企業にも幅広く及んでおり、新たな市場を目指してあらゆる企業がチャレンジしています。特にASEAN地域の企業とのM&Aの増加傾向は顕著です。しかし、海外とのM&Aについては経験やノウハウが少ない、あるいは全くない企業が大多数であるのが実態です。そこ

インドネシア アンボン島出張記

海外M&A
インドネシア アンボン島出張記

皆さん、こんにちは。インドネシア駐在員事務所の河田です。先日、とあるインドネシア企業の現地視察にて、インドネシア東部マルク州の州都であるアンボンに出張してきました。約17,000以上の島で構成されているインドネシアですが、アンボン島もその1つであり、アンボンは、そのアンボン島の主要都市です。なかなか馴染みが無いという人も多いと思いますので、今回はアンボン島と、今回視察してきたインドネシア企業につい

インドネシアの2025年はどうなる? ~経済、外交、国家長期開発計画~

海外M&A
インドネシアの2025年はどうなる? ~経済、外交、国家長期開発計画~

こんにちは、ジャカルタの安丸です。2025年におけるインドネシアのマクロ的な展望につき、私見を交えて解説させていただきます。(今回のこのコラムは、2025年1月8日に作成しています。)2024年の振り返り最初に2024年にインドネシアで起こった重要なイベントを、簡単に振り返ってみたいと思います。2024年はインドネシアにとって、重要なイベントが目白押しの1年でした。新大統領の就任10年振りの大統領

大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

広報室だより
大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

2024年9月、日本M&Aセンターグループの一員として新たな一歩を踏み出した「株式会社AtoGCapital」。新たなファンドコンセプトを持つ会社ですが、どのようなコンセプトなのか、その取り組みや設立への想いをAtoGCapital代表取締役の大槻昌彦さんに聞きました。※会社設立は2023年12月、ファンドの1号ファンド設立は9月20日、出資実行完了は2024年10月23日AtoGCapital代

ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

ベトナムの成長企業が日本の業界大手企業と戦略的資本提携を実施日本M&AセンターInOut推進部の河田です。報道にもありましたように、河村電器産業株式会社(愛知県瀬戸市、以下「河村電器産業」)が、DuyHungTechnologicalCommercialJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DH社」)およびDHIndustrialDistributionJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DHID社」)の株

「クロスボーダーM&A」に関連するM&Aニュース

コクヨ、ベトナム文具大手Thien Long Group Corporationを約276億円で買収へ 

コクヨ株式会社(7984)は、ThienLongGroupCorporation(ベトナム、以下:TLG社)の普通株式を取得し、子会社化することを決定した。コクヨは、文房具の製造・仕入れ・販売、オフィス家具の製造・仕入れ・販売、空間デザイン・コンサルテーション等を行っている。TLG社は、ベトナムトップの文具製造・販売業者。文房具・事務用品の販売を行っている。概要TLG社の創業者及び関係者が発行済株

マルハニチロ、オランダ子会社SCHを完全子会社化

マルハニチロ株式会社(1333)は、連結子会社であるSeafoodConnectionHoldingB.V.(オランダ、以下:SCH)の株式を追加取得し、完全子会社とすることを決定した。マルハニチロは、漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、冷凍食品・レトルト食品・缶詰・練り製品・化成品・飲料の製造・加工・販売、食肉・飼料原料の輸入、食肉製造・加工・販売を行っている。SCHは、SeafoodCon

KADOKAWA、東南アジア最大級のアニメイベント興行のシンガポールSOZOを子会社化

株式会社KADOKAWA(9468)は、2025年11月、SOZOPteLtd(シンガポール)の株式を取得し、子会社化した。KADOKAWAは、総合エンターテインメント企業で、出版、アニメ・実写映像、ゲーム、Webサービス、教育・EdTechなどの事業を展開している。SOZOは、東南アジア最大級のアニメイベント「アニメ・フェスティバル・アジア」(以下:AFA)など大型イベントの企画・運営を中核に、

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース