コラム

食品業界シンガポールM&Aのススメ

白鳥 雄飛

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 シニアチーフ

業界別M&A
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日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は白鳥が「食品業界におけるシンガポールM&Aの状況と今後について」お伝えします。

シンガポールという国の基本情報

今回取り上げるシンガポールという国についてですが、M&Aに携わるものにとっては必ず押さえておくべき国でありますし、日本国の企業が進出すべきメリットが沢山あります。
そこで、今回は当社の食品業界支援室の白鳥が現地で感じたことも含めて、この国でM&Aをするのは実際どうなのか、記載したいと思います。

まず対象国の基礎情報です。赤道近くに位置しており、マレー半島の南端に存在する小さな国です。面積は720平方キロメートルと東京23区よりちょっと大きいサイズです。
人口は564万人(2022年時点、うち約4割は長期滞在や永住権を持った外国人)で中華系の人種が74%を占めます。

対象国の名目GDPは約70兆円、一人あたりGDPは約12,558千円(2022年)。
一方で日本は名目GDPは566兆円でありますが、一人当たりGDPは約6,181千円と一人あたりの差は約2倍です。
またひとりあたりGDPについては、世界において、ルクセンブルク、アイルランド、ノルウェー、スイスに並んで世界5位(日本は31位)ということで世界の中でも生産性が高い国となります。

このような少数精鋭の経済大国において、日本企業が約2,000社進出しております。私は対象国で日本企業が進出するメリットは以下3つあると考えております。

シンガポール進出の日本企業のメリット

  • 中華系が約75%と多いこと、治安・清潔感の高さ
  • 日本と比較してタッスクの恩恵を多く受けられる
  • ASEANやオセアニアに拠点の位置づけとして地政学的にも経済的にも都合が良い

上記を解説する前にシンガポールにおけるM&A事情はどうなのか。まず記載していきたいと思います。

シンガポールのM&Aの事例について

それでは、具体的にどのような事例で過去日本国の企業がシンガポールのM&Aを取り組んできたのか、代表事例を記載致します。
日本企業がASEANで行うM&Aのうち、シンガポール絡みの案件は約4割程度と言われるほど多くの事例があります。その中でも食品企業に特化して、代表例を以下記載します。

上記のような大表的な食品に関わる企業によるシンガポール案件になります。
やはりシンガポールをゲートウェイ拠点として、ASEANへ打って出る戦略が多くあることが見てとれます。

また売手企業の平均の売上高は約50億円、中央値としては25億円となることから、これくらいの規模の企業を買収できる体力が前提にはなるかと思います。

現地の肌感覚を通して日本国企業が安心してM&Aで進出可能なマーケットである。

先に記載させていただいた、メリットをひとつひとつ解説していきます。

中華系が約75%と多いこと、安心・清潔である。

こちらについては、言わずもがな中華系の人種が75%ということで、街を歩いていても肌の色が近く、居心地の悪さを大きく感じられないでしょう。
実際に日本の買手企業と一緒にシンガポールの譲渡企業のオーナーとTOP会談を同席した経験がありましたが、非常に人種の親和性は高いなと感じました。

また中華系の英語、現地ではシングリッシュと言われることもありますが、欧米の流暢な英語でなくとも会話が可能という点は、羞恥心が強い日本人にも合っていると思います。
またシンガポールは外国人を流入させる施策の一環で、圧倒的な治安の良さと清潔さを保てる街となっています。

外には何千台レベルの監視カメラが存在しており、条例で夜10時以降お酒は購入できなかったり、ゴミのポイ捨てに対する厳しい罰則もあります。
女性が夜中安全に一人で出歩けるアジアで唯一の都市ではないでしょうか。日本と比較してもこの衛生面、治安の良さは引けを取らないと思います。

日本と比較してtaxの恩恵を多く受けられる

これは多く語られるところではありますが、具体的になにがどうメリットあるか正確に把握している方は意外と少ないのではないでしょうか。

まず法人税は17%で、日本の約半分です。
ただ他にも各種優遇施策があるので、実行税率は10%くらいになる企業も多いといいます。

またシンガポールの企業を買収した親会社が仮に日本企業であった際、非常に大きな税務メリットがあります。
日本での法人税を計算する際に一定の要件を満たす統括会社ならばシンガポールの会社からの配当金の95%を益金算入しなくてよいのです。

たとえばシンガポールの企業から1億円の配当を日本の親会社へ配当しようとすると95,000千円が益金不算入ですので、5,000千円仮に益金になると税金はこの5,000千円にしかかからない(約1,700千円)ということになります。これは大きなメリットであります。
参考:外国子会社配当益金不算入制度について

ASEANやオセアニアに拠点の位置づけとして地政学的にも経済的にも都合が良い

まずシンガポールからマレーシア(国境境のジョホール)までは車で1~2時間で越境可能ですし、同国のクアラルンプールまでは飛行で1.5時間ほど。
またインドネシアのジャカルタまでは飛行で2時間、フィリピンのマニラまでは約4時間、タイのバンコクは約2.5時間、ベトナムのホーチミンは約2時間、インドのチェンナイは4時間、ブルネイまでは2時間。とASEAN諸国の地理的に中心地と言っても過言ではなく各国へのアクセスが抜群に良いです。

よってこの地理的環境と経済的合理性を掛け合わせるには親会社は日本企業にしてシンガポールに純粋持ち株会社を設立する。
その下へASEAN各国の企業をぶら下げる形が、最も効率がよい企業グループの運営の仕方かと思います。
シンガポールが根付いてくれば、もともと親会社だった日本企業もこちらのホールディングスの傘下に変更した方が税効果的に最もよいかもしれません。

上記の通り、新型コロナウイルスが落ち着いた今、各国のヒトモノカネの移動は以前よりも活発になってきています。
そして気が付けば日本以外のASEANがGDPの生産性を高め、物価の上昇率も順調です。
私も先日(23年12月上旬)シンガポールへ渡航しましたが、物価の高さを痛感しました。

こういった中、海外から仕入れをして、日本国内でビジネスを展開し続けているだけでは本当に良いのでしょうか。
一方で、シンガポールにも課題があります。対象国は食料品を95%以上輸入でまかなっています。
港を飛行機から見下ろすと、大きなタンカー級の船がディズニーランドかというばかりに入港待ちで長蛇の列をなしています。

よって輸入のディレイが発生し、物流面に課題が残ります。
よって、国内で食品を輸入して販売する事業だけではなくシンガポールから輸出するビジネスも現地の経営者は非常に関心を持っています。
ここで日本食とのコラボレーションが図れると思います。

大きな視点では5年~10年後を見据えたとき、ASEANの各国の国力の勢力図はまた変わっているはずです。
まずは、小さくてもM&Aでシンガポールへ拠点を設けていくことは非常に有効であることは上述した通りです。M&Aを駆使して海外進出をしていきましょう!

いかがでしたでしょうか?
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

白鳥 雄飛

白鳥しらとり 雄飛ゆうと

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 シニアチーフ

1985年、宮城県仙台市生まれ東京工業大学卒業後、㈱リクルートにて、法人営業を経験。その後、㈱日本М&Aセンターに入社。食品業界支援室にて、食品業界を中心に上場企業から中堅・中小企業まで幅広くM&Aの支援を行っている。事業承継、成長戦略型のM&A、海外M&A、ファンドへのM&Aなど携わった経験があるが特に売手買手ともに40代の若い経営者のM&A支援に多く実績を持つ。

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