過去最高の件数を記録した2024年上半期のM&A

室井 優太郎

日本M&Aセンター業種特化3部/IT業界専門グループ

業界別M&A
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はじめに

昨今、M&Aの話題を聞かない日はないほど、M&Aは経営オプションの一つとして確立し、世の中に広く浸透してきました。
本コラムでは、具体的な件数を追いながら直近のM&Aトレンドについて解説していきたいと思います。

M&A件数で見る2024年のM&Aのトレンド

早速ですが、今年の上半期(1月~6月)でのM&Aの件数を形態別にまとめましたのでご覧ください。

(出典:レコフ M&A データベースより当社作成、2024/1/1~2024/6/30、合併、買収、事業譲渡(営業譲渡)、資本参加、出資拡大、IN-IN、IN-OUT、OUT-IN)

2024年上半期は、「買収」の件数が大幅に増えたことにより、M&A全体の件数も過去最高を記録しました。

昨年は久しぶりに前年割れをした年でありましたが、2024年は上半期の勢いを見る限り、通年でも過去最高の件数を更新することは間違いないでしょう。
直近5年間のトレンドでは、常に「資本参加」が一番多く公表されておりましたが、今年に入ってからは買収が最多となりました。

これはすなわち、マイノリティ出資(資本参加)ではなく、マジョリティ(買収)をすることでより強固な連携を図り、シナジーを生み出そうと考える企業が多くなったと考えられます。より真剣な企業連携が増えてきたとも言えるでしょう。

2024年上半期 最も多くの買収を公表した企業は?

2024年上半期に公表された1009件(レコフデータ集計)のうち、一つの企業や企業グループが複数件のM&Aを発表した例も数多く存在しました。

事業会社(子会社・グループ会社が買収主体も含む)の中で、2024年上半期に5件以上のM&Aを発表した会社は6社あり、その中でM&A最多件数を記録したのは、株式会社宇佐美鉱油の8件(子会社のヒラオカ石油株式会社の1件と三和エナジー株式会社の4件を含む。)でした

以下、M&A公表件数が多かった6社の簡単な企業概要をまとめております。

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株式会社宇佐美鉱油

  • 買収件数:8件(子会社主体の5件を含む)
  • 売上高:9,405億(2023年9月期)
  • 上場区分:非上場

会社概要

愛知県に本社を置き、石油製品の販売を行う企業です。グループ17社を束ねており、全国に約500店舗の直営ガソリンスタンドの運営で知られています。

M&A戦略

宇佐美グループは非上場企業のため、対外的にM&A戦略を打ち出しているわけではありませんが、直近の買収先の傾向より、本業の石油関連事業以外の買収も戦略的に行っているように見受けられます。特に、2024年3月に発表した東証グロース上場企業である株式会社グッドスピードへのTOBは象徴的で、将来的に需要の減少が見込まれる石油販売だけではなく、自動車販売事業の拡大を狙っているものと思われます。

株式会社GENDA

  • 買収件数:6件(子会社主体の2件を含む)
  • 売上高:556億(2024年1月期)
  • 上場区分:東証グロース(証券コード:9166)

会社概要

2018年5月設立のアミューズメントを中心としたエンタメの総合企業です。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続け、売上高は5期目で556億円(1期目の139倍)に達しています。

M&A戦略

GENDA社は、IRで明確にM&Aを成長戦略の柱として打ち出しています。
これまで32件(2024年6月末時点)のM&Aを実行し、総合エンターテインメント企業として、ゲームセンターやカラオケなどの事業を拡大しております。
「2040年世界一のエンタメ企業に」というVisionを掲げている当社は、今後よりグローバルなM&Aを実行していくのではないかと予想しております。

センコーグループホールディングス株式会社

  • 買収件数:5件
  • 売上高:7,783億(2024年3月期)
  • 上場区分:東証プライム(証券コード:9069)

会社概要

創業は1916(大正5)年と100年以上の歴史を持つ老舗企業で、物流を中心に、商事・貿易、ライフサポート、ビジネスサポート、プロダクト事業の5つを主な事業としています。

M&A戦略

センコーグループ中期経営計画(2022年度~2026年度)において、M&Aを含む戦略投資に900億円を投下し、最終年度の売上目標を1兆円と発表しています。
興味深いのは、物流事業が売上全体70%を占め、物流企業として捉えられている同社ですが、売上構成比率が5%前後と小さいライフサポートやビジネスサポート領域でのM&Aも積極的な点です。

株式会社テイクオーバー

  • 買収件数:5件
  • 売上高:非公開
  • 上場区分:非上場

会社概要

2021年12月に静岡県焼津市で設立された企業です。ペット事業、飲食事業、食品製造事業の3つの事業を手掛けております。

M&A戦略

まだ創業して3年も経たない非常に若い企業ですが、2024年6月時点で13件のM&Aを実行しています。
「価値ある事業をなくさない」をコンセプトに、M&Aによる事業承継を通じて地域文化やノウハウを守ることを掲げています。

これからも後継者不在や事業承継に悩まれているオーナーの救い手として、多くのM&Aを実行していくことでしょう。

株式会社STPR

  • 買収件数:5件
  • 売上高:非公開
  • 上場区分:非上場

会社概要

2018年6月設立でエンタメ領域のコンテンツのプロデュース事業を営む企業です。
YouTubeやツイキャスなどの動画配信サイトを中心に活動するエンタメユニット「すとぷり」の所属事務所でもあります。

M&A戦略

2024年1月のリリースにて、M&Aやコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業を本格化すると発表しています。
実際に、2024年1月から6月で5件のM&Aを実行し、株式会社Origina1の買収によって国内最大規模のVライバー事務所となりました。
新時代のエンターテインメント領域をM&Aで開拓していく企業になることでしょう。

まとめ

2024年上半期のM&A件数上位6社から示唆される内容としては、M&A はどんなステージ・規模の会社であっても有効な経営オプションになっているという点です。

宇佐美鉱油やセンコーグループのような50年、100年企業もM&Aを活用し、GENDAやテイクオーバーなど創業5年前後の会社であっても企業の成長のために他社と手を組むことは当たり前になってきております。上場、非上場も関係ありません

IT・ソフトウェア業界では慢性的なエンジニア不足、物流業界においては2024年問題による輸送能力の低下、製造業では原材料費・人件費の高騰など全ての業種が課題を抱えています。

日本国内の人口が減っていき、日本の国力低下が叫ばれている中、どの業界においても「競争から共創」へがキーワードになっています。
共創の手段としてM&Aが注目・活用され、実際に件数の増加に表れているのが、ここ数年の傾向と言えるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。
M&Aに関するご相談、情報収集など気になることがございましたら、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

室井 優太郎

室井むろい 優太郎ゆうたろう

日本M&Aセンター業種特化3部/IT業界専門グループ

東京都出身。慶應義塾大学商学部卒業後、日本M&Aセンターに入社。入社以来、ITソフトウェア業界を専門として中堅・中小企業の事業承継及び成長戦略のM&A業務に従事。2020年はウィズ・ホールディングスとIDホールディングスのM&Aを担当。

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