【ITソフトウェア業界M&A】ITソフトウェア経営者意識調査レポート

瀬谷 祐介

日本M&Aセンター 営業本部 メガバンクチャネル

業界別M&A
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ソフトウェア業界とは

ソフトウェア業界定義

「ソフトウェア」とは、コンピューター上で計算処理やデータ処理など、多様な処理を行うためのプログラムのことである。
「IT・ソフトウェア業界」は、パソコンにインストールして使用する各種ソフトウェアや自動車・家電など、ハードウェアとソフトウェアが一体となった製品の設計・開発・運用・保守業務を行う業界である。

ソフトウェア事業特性

IT・ソフトウェア業界の事業特性として、真っ先に挙げられるのが「技術者の重要さ」だろう。プログラミング能力や知識の専門性はもちろんのこと、急速に進歩する技術や世の中の要請に合わせて日々知識をアップデートすることのできる技術者が求められている。

さらに、IT・ソフトウェア業界は新規参入が容易なため、零細企業や中小企業が多く、大手が受注して中小零細に外注を行う「多重下請け構造」に陥りやすいことも特徴のひとつである。

大手だけでなく中小企業も、繁忙期や自社の専門外業務を行う際には他社への外注を行うが、技術流出・守秘義務・派遣法など、留意しなければならない項目が多いため、適切な外注管理も求められている。

さらに、ソフトウェアの開発を行った場合の取引長期化も、IT・ソフトウェア業界の特性と言えるだろう。ソフトウェアの開発に携わった企業は、一般的にその後の保守業務まで担当することが多い。これは、他社へのシステム引き継ぎが容易でないことや、顧客との関係性によるものが大きい。

ソフトウェア業界のM&Aが増加している要因とは

IoTや人工知能(AI)といったかつてないスケールの技術革新が産業界を大きく変えようとしているなか、国内のIT・ソフトウェア産業は業界再編の真っ只中にある。その証左として、2017年のIT・ソフトウェア業界のM&A件数は過去最高を記録した。

IT・ソフトウェア業界は、大型の設備投資を必要とせず比較的小資本で起業が可能であることから、企業数が多く、競争激化のためM&Aが起こりやすい状況である。それに加えて、ソフトウェア開発事業は多数のビジネスパートナーを有しており、一部では緩やかな資本提携にまで踏み込んだアライアンスが浸透しており、潜在的にM&Aが起きやすい構造を有しているのである。

より具体的な要因としては、IT・ソフトウェア業界独特の「多重下請け構造」が挙げられるだろう。この業界は労働集約型の中小企業が多く、一部の元請けからの非効率的で丸投げに近いような仕事の流れを見直す時期に差し掛かっているのだ。国も、生産性や競争力の向上を図るために、独占禁止法・下請法などの法制度のなかでITシステム取引に関する必要事項を検討している。

技術者不足

1つ目の要因は、技術者不足である。「IT人材白書2017」によると、人材不足問題は非常に深刻で、9割近い企業が何らかの形で人材の不足感を訴えている。

また、改正労働者派遣法の施行も大きな要因となっている。ある一定以上の事業規模がないと業界内で淘汰されてしまう可能性が高くなったため、中小企業の多い同業界内でので再編やM&Aが増えているのだ。

具体的に近年のM&A成約事例をご紹介しよう。

電子カルテや介護ソフトの開発・販売を行っている株式会社ワイズマン(岩手)は、クラウド型メール配信サービスのバイザー株式会社(愛知)をM&Aにより譲り受けた。これは、サービス領域の拡張によるさらなる成長を見込んだM&Aである。

また、アプリケーションソフトやパッケージソフト開発のジャパンシステム株式会社(東京)と監視用ネットワークカメラや医療用機器ソフト開発の株式会社ネットカムシステムズ(東京)のM&Aでは、両社の技術・得意業種の融合により新たなビジネスモデルへの展開目指した。

IT・ソフトウェア業界の企業は、戦略的な買収・積極的な子会社化を真剣に考える時期に差し掛かっている。自前主義を改め、外部のリソースを積極かつ有効的に活用できるかどうかが、今後の成長のポイントとなるだろう。事業環境が良いうちに次世代に向けて先手を打つことが肝要である。

多重下請け構造

一般的に、ユーザー企業が自社のシステム構築をする場合、元請け企業に発注する。発注を受けた元請け企業は、開発するシステムの規模や技術レベルの違いなどに応じて、下請け企業に再発注する。

ITソフトウェア業界においても建設業界と同様に元請企業を頂点にした「二次請け・三次請け」といったいわばピラミッド構造を形成しているのである(図4)。これが「多重下請け構造」だ。

元請け企業と二次請け企業、三次請け企業のそれぞれの階層間で、契約上、立場の弱い下請け企業の利幅が圧縮され、その結果大きな給与格差が生じる構図になっている。

さらに多重下請け構造の弊害として、情報リスク管理の不徹底・偽装請負や「階層下位企業では人月単位で売上が決まるため高付加価値の提案がしにくい」、「下請けの技術者が付加価値の低い領域に固定されてしまう」といった問題が挙げられる。

こうした多重下請け構造を是正すべく、国は法律・指針の整備を進めており、外注を利用した取引は適正化される流れになっている。結果、二次請け以下の企業において「単独で付加価値を生み出せない企業は今のうちに将来を展望できる他社と戦略的な提携を検討すべきである」という風潮が生まれた。ここでは詳細な説明は省くが、2015年に改正された派遣法も、この再編の流れに拍車をかける要因になっただろう。

ITソフトウェア業界の更なる発展のためには

これまで、ユーザー企業のIT投資は業務の効率化やコスト削減を目的としていた。しかし今後は、ビジネスモデルの変革・新たな価値創造・競争力の強化によって「稼ぐ基盤をつくること」を目的とする投資へとシフトしていくことになる。

その中にあってITソフトウェア企業は、ユーザー企業とこれまで以上に深い繋がりを持ち、戦略的パートナーとして全く新しい事業を創出する意識と覚悟が求められる。既存ビジネスの延長線上のアプローチではなく、異業種も含めた様々な企業間連携、積極的なM&Aによる外部リソースの取り込みといったダイナミックかつスピーディーな企業活動が必要なのだ。

IT・ソフトウェア業界の未来予想、1位は「再編促進・企業数減少」

では、今後のIT・ソフトウェア業界は具体的にはどのような未来を歩むのだろうか?

ここからは、アンケート調査結果を紹介する。

まず、「今後のITソフトウェア業界はどのようになるか?」という質問に対しては、「業界再編が進み企業数が減る」と予想する割合が57%と最も多い結果となった。

今後注力したい事業戦略、1位は「自社製品・サービス開発」

また、今後注力して行きたい事業戦略の1位は、「自社製品・サービスの開発」で64%、2位が「他社との連携、協業の強化」で50%という結果となった。

一方、「SES事業の強化」を掲げたのは、最も少ない17%であり、他社との連携も視野に、労働集約型のビジネスモデルからの脱却を目指す経営者が多いことが伺える。

事業承継の際、最も重視するポイントは、事業の成長性

事業承継の方法を検討する際、重視するポイントとして、最も多い回答だったのが「事業を成長させることができる」ことで、64%だった。

経営課題は、技術者不足と営業力不足

経営課題については、技術者不足が72%で最も多く、次いで営業力不足が54%という結果で、人材不足が業界全体の課題であることが見てとれる。

過去に資本提携、譲渡の打診を受けたことがある経営者は62%

M&Aの提案を受けた機関としてM&A仲介会社が86%と突出して多い結果となった。

M&Aの妥当な株価条件は、「5年以内」で回収ができること

M&Aで会社を譲り受ける場合、妥当と考える株価条件については、95%の経営者が「5年以内」に回収ができる条件と回答している。

新型コロナウィルスの影響で、約半数の企業が既に業績が悪化

新型コロナウィルスの影響に関して、既に業績が悪化している企業が47%、今後悪影響が想定される企業を含めると、自社の経営に危機感を持っている企業が約90%という結果だった。

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著者

瀬谷 祐介

瀬谷せや  祐介ゆうすけ

日本M&Aセンター 営業本部 メガバンクチャネル

外資系金融機関を経て、日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げメンバーであり、2012年から、調剤薬局業界・IT業界を中心に、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として70件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。顧客満足度評価は、日本M&Aセンターのコンサルタント約500名中1位。

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