[M&A事例]Vol.137 心血を注いで開発した製品と事業を存続させるため決断した成長戦略型M&A事例
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売業を展開する株式会社エクラは、抱えていた3つの課題を解決するために2020年に資本提携を決断しました。その決断の背景、現在の様子についてお話を伺いました。
譲渡企業情報
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※M&A実行当時の情報
兵庫県神戸市に本社を置くエム・ヴイ・エム商事は、2023年12月に、有機野菜販売業であるポランオーガニックフーズデリバリを譲り受けました。垂直統合によりWIN-WINを目指す取り組みについて、石田 希世士社長にお話を伺いました。(取材日:2024年2月26日)
――エム・ヴィ・エム商事は、前身の企業から数えると55年近く、独自技術で業績を伸ばして来られましたね。
譲受け企業 エム・ヴイ・エム商事 石田様: エム・ヴイ・エム商事としての設立は1975年でした。母体となる株式会社清浄野菜普及研究所が1970年10月に日本で初めてのカット野菜専門工場を設立し、その技術を今も受け継いでいます。
現在は青果物の販売・マーケティング会社であり、メーカーでもあります。国内外の産地から買い付けた農作物を自社工場で加工し、付加価値をつけて小売店等へ販売するというのが基本的なビジネスモデルです。
カットしたフルーツや野菜の鮮度を保ち、10日間以上変色せずに賞味期限を保つことができる独自の技術を開発したことで、安定した販路を獲得しています。
現在、グループ企業は8社。青果物や苗の生産、食品の加工、販売、食品関連器具の輸出など、各社の強みを活かして、流通全体を網羅する事業運営を目指しています。
――堅調な経営の中で、今回、M&Aを選択した目的をお聞かせいただけますか?
石田様:
グループの企業成長が目的です。中長期で企業を成長させていくには時間がかかりますが、M&Aは相手企業と互いの強みを活かして時間効率を上げることができます。
同時に、マーケットのニーズが徐々に拡大している波を受けて、オーガニックがひとつの成長市場となるだろうと予測し、3年ほど前から事業化を想定した検討を重ねておりました。
そこに、日本M&Aセンターの下平 健正さんから、有機野菜の販売業の先駆けである、ポランオーガニックフーズデリバリ(以下、ポラン)を提案いただいて、良いタイミングで成約できたという流れです。
ポランは全国の有機野菜農家とつながっていることから、年間の仕入れも安定していました。40年以上の実績とノウハウ、4,000品目を超える商品の取り扱いがあり、当社の求める方向とマッチしていました。
――今回のM&Aの決め手はどこにありましたか?
石田様:相手企業に求めていたポイントは3つありました。1つ目は「成長しているマーケット、もしくは商品をもっている」こと。2つ目は「シナジー効果が見込める」こと。そして3つ目が「独自の強みを持つ会社」で、ポランはその全てを満たしていました。
ゼロからオーガニックを事業化する困難さや、そもそも生産者が少ないという課題を、ポランのノウハウで補うことができます。今回の垂直統合によって、付加価値が付きづらい一次産品の価値を高め、生産や品質管理、流通、価格決定から販売まで、全てのセグメントを一元管理ができるようになりました。内製化し、利益を外に逃がさない仕組みを実現できたことは非常に大きいですね。
――3年前に、オーガニックに注力しようと思われた理由を詳しくお聞かせください。
石田様:ヨーロッパを始めとした先進国では急成長している市場であり、日本もスローながら、規模拡大の推移が見られます。Z世代やシニア層に食の安全を求める傾向が強くなってきたこともあって、ロイヤリティーの高さを感じる局面が増えました。また、メインクライアントであるGMS(総合スーパー)でも、オーガニック食品のプライベートブランド化に向けた積極的な動きがあり、当社にも商品展開の要請があったのです。
消費者の食のニーズに、価格よりも良品質を求める流れが見えてきたことを受けて、一般に言われてきた日本の小売業のデフレマインドも変容を見せており、今後、十分に勝負できる市場だと判断しました。
同時に、有機農法は地球環境にも生産者にも優しく、サステナブルです。SDGsの観点からも有益で、環境保全への貢献も実現できると考えました。
――トップ面談の印象をお聞かせください。
石田様:神足 義博社長の考え方なども事前に聞いており、どんな方なのかイメージできていたので、違和感等はありませんでした。
M&Aの検討を進めるにあたって、財務状況や文化の違いなどに対する不安は当然ありました。しかし、今回は下平さんが運営の状況や経営哲学など、深い部分についても事前にブリーフィングをしっかりしてくれていました。
――M&A成立直後の従業員の反応はいかがでしたか?
石田様:当社の従業員は、オーガニック事業化の方針について理解していたこともあって、M&Aもすんなりと受け入れたようでした。 クライアントであるGMSは、オーガニック市場の成長を見越して売り上げを短期間で大きく伸ばす数値目標を立てています。数少ない国内のオーガニックファーマーとのつながりを確保できた今回のM&Aは非常に歓迎されました。「ポランの青果物は基本的に全部買い上げる」といった好反応をいただいており、今後の方向性が確たるものになっていく手応えを感じています。
嬉しかったのは、ポランの従業員アンケートで、今回のM&Aに期待しているという声が想像以上に多かったことでした。今後は毎月の全体ミーティングを通して、業績の向上を目指しながら互いの理解を深めたいと思います。統合直後の今は現状分析の最中で、具体的な成果はこれからですが、真摯に農業に向き合ってきた皆さんが、これからも、自身の仕事や会社にプライドを持って働けるような経営に取り組んでいきたいですね。
――PMI(M&A成約後の統合プロセス)ではどのような点に配慮していらっしゃいますか?
石田様:最初からエム・ヴイ・エム流を押し付けないことに留意しています。まずはビジネスを軌道に乗せることに注力するため、今は現状の分析をしっかりやろうという気構えでいます。
M&A後の半年なり1年なりのステージは非常に重要だと思います。企業文化やフィロソフィーが全く異なるもの同士ですから、融合させるための期間が絶対に必要です。
よくある話ですが、最初にボタンのかけ違いが起こって溝が埋まらないまま進んでしまうというようなことは避けたかった。そこで、日本M&AセンターグループのPMI専門会社である日本PMIコンサルティングに支援をお願いしました。専門家のサポートを受ける期間を活用し、互いの理解を深めることにも焦点を当てています。
今回はポラン側の承継問題もあり、スピード感が必要なM&Aでした。社長の高齢化と、経理のコア人材として長年経営に携わられていた奥様の体調不良により、銀行の融資のスケジュールにも影響が出ている状況だと説明を受けていました。後継者不在で早急な対応が求められていた背景から、成約後すぐに当社より財務担当者を送り、PMIを進めています。
――輸出入事業にも力を入れていらっしゃいますね。
石田様:為替相場が円安に振れ、海外でインフレーションの激しさが増す現在、海外生産でコスト削減する手法は難しくなりつつあります。
今後は、日本の生産地をきっちり抑える方向へ切り替えて、自分達で生産し加工して流通に乗せる、ローカルビジネスの優位性が高くなってくるでしょう。そのうえで、輸入に頼らざるを得ないオーガニック商品は海外で作る。生産地の利点を活かした展開へシフトします。
――オーガニック商品の販路拡大は、どのように進めて行かれますか?
石田様:今は日本の販路が95%程度と、国内市場との取引が圧倒的ですが、将来的には、海外の売上比率を伸ばすべきだと考えています。というのも、日本の食品市場全体に海外志向が顕著で、小売店も外食産業も、アジアを中心に活発な展開を見せていますから。
日本の人口動態を見ても、マーケットの縮小傾向は避けられないでしょう。日本のオーガニック商品の競争力は未知数ですが、サプライチェーンマネジメントを進め、海外へ向けた販路拡大の手掛かりも得たいところです。
――今後の展望についてお聞かせください。
石田様:会社のビジョンである「農産物業界のエクセレントカンパニー」を目指し、前進してまいります。玉石混交のこの業界で、キラリと光る存在であるために、環境に対する意識を持ち、最新のデジタルテクノロジーを活用して企業の競争力を高め、グローバルな展開を推進したい考えです。
今後もM&Aは当社の重要な成長戦略の一つです。最初にお話しした、M&Aに対して必要な3つの条件が揃えば、当社も経営努力で成功確率アップを目指すことができます。企業の成長戦略をプランニングするにあたって、短期間で互いのメリットを活かすことができるM&Aは非常に有効な手法です。
当社側の利潤を追求するだけの企業買収ではなく、ステークホルダー全体がWINNERになれるM&Aを、今後も実現させていきたいですね。
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2008年の設立以来、美しく機能性にも優れた猫のための商品作りに取り組んできた猫壱は、ブランドと人のエンパワーメントに取り組むMOON-Xと統合しました。統合から約半年、両社代表にお話を伺いました。
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東日本地域金融部 下平 健正(エム・ヴイ・エム商事株式会社担当)
神足社長は、創業以来全国を渡り歩き、250以上の有機野菜農家との取引を実現しました。経営者としての哲学を丁寧にヒアリングすることを意識し、会社の存続と発展に寄与できるよう努めた所存です。
エム・ヴイ・エム商事様の馬力の強さと譲渡企業に寄り添う温かい姿勢が相まって、業界のさらなる成長が期待できるのではないかと、非常に楽しみにしております。