[M&A事例]Vol.143 静岡で有名なお弁当チェーン「どんどん」が投資会社の支援を受け取り組む新たな挑戦
東京都で中小企業投資・経営支援事業などを行うunlock.ly(アンロックリー)の三島 徹平社長に、M&Aの経緯とハンズオン支援のポイントを伺いました。
譲渡企業情報
※M&A実行当時の情報
2018年11月、当社の成長戦略セミナーにてミニメイド・サービス株式会社の取締役会長、山田長司様に、“成長戦略”をテーマに実行されたご自身のM&A体験を講演していただきました。その講演内容についてご紹介します。
ミニメイド・サービスは、1983年に山田様が創業。日本の家事代行サービスのパイオニアとして、30年にわたり経営を続けてこられました。この度、「自身の事業承継」と「自社の成長戦略」というふたつの観点からM&Aを検討され、2018年8月に自社を譲渡されました。譲受け企業となられたのは、人材派遣サービス最大手のフルキャストホールディングス(以下、フルキャストHD)です。
家事代行サービスを始めたきっかけは学生時代の起業とその後のアメリカ視察
山田様は学園紛争が盛んだった大学生の頃、友人7名とともにビル清掃の会社を立ち上げました。当時は「常識にしばられずやってみよう」と、固定概念にしばられずに行動を起こしたのだそうです。その後も事業は続き、山田様が29歳の時、その会社の2代目社長となりました。
あるとき、ビルの清掃で屋上から街を眺めていたときに、「ビルの数より、住宅の数の方が多いな」と感じて住宅サービスに興味を持ちます。当時は個人の住宅に入ってサービスすることは普及していませんでしたが、アメリカで家庭のサービスが流行しているということを知り、その3カ月後、現状を知るために実際にアメリカ視察に向かうことになりました。
アメリカ滞在中は、現場を見てまわり、家庭に出向いてサービスを提供している会社の経営者にインタビューをしていきました。そのなかで、山田様は働いている人が明るく元気なことに気づきます。“こういう明るい人たちによる家事代行サービスを日本でも展開したい”と考えた山田様。帰国後に、30~40代の明るく元気な主婦を集めてミニメイド・サービス株式会社を創業しました。
創業当初の課題は日本の「恥」の文化
しかし、創業して間もなくは、人は採用できても仕事を取ることが出来なかったといいます。日本にまだ、他人を家にあげて家庭の仕事をしてもらうという概念がなく、家事代行業にお金を支払うということに抵抗感があった時代だったのです。それでも、富裕層向けの雑誌「家庭画報」で紹介されたことで仕事が徐々に増えていきました。
山田様はこのとき誰に何をいくらで売るのか、得意分野を決めてサービス展開したことが、事業成長のカギになったと話します。富裕層をターゲットにしたため競合がおらず、優位性があったことも勝因のひとつです。その後リピーターが増え、大手百貨店や不動産会社などの富裕層向けのサービスを展開している企業から指名をもらい、さらに事業を加速させていきました。ミニメイド・サービス株式会社のコーポレートメッセージは“いつもピカピカ”です。「仕事を通して心の質を高めることを大切にしてきた」と山田様はいいます。
順調に事業を経営されてきた山田様ですが、数年前にご家族の不幸を経験。それ以来、会社の後継者について考えるようになりました。
内部承継か外部承継か
山田様には娘様がいらっしゃいました。後継者として社内で働かれていましたが、急逝されたことで親族継承の道が絶たれてしまいます。山田様は深い悲しみのなかにいましたが、66歳当時、「70歳までに後継者を何とかしなければならない」と思ったそうです。
はじめは、社員に事業承継を実施し、ご自身は会長として残ることを考えていました。当時の専務と常務を後継ぎの候補としていましたが、知人の社長の紹介で、事業承継・財産活用に関する総合コンサルティングを行う事業承継ナビゲーター(現 ネクストナビ)が主催するマネジメントミーティングに参加することに。山田様がご参加されたミーティングは、「幸せな事業承継の実現のためにあらゆる選択肢を検討する」ことをテーマにした小規模セミナーでした。
セミナーでは他の経営者たちとの交流を通して、お互いに共感しあえるコミュニティーに出会うことができたと山田様。この時、それまでイメージしていた“M&Aに対するハードルが下がった“と感じたそうです。また、ミニメイド・サービスに欠けている視点、今後やらなければいけない事、事業承継の方法を、セミナーに参加したことで整理できたといいます。
「従業員持株会、MBO等の手法を知りました。また、社内承継する場合の銀行の保証などの問題点を知り、今後どのようにするのかを、M&Aを含め検討し始めました」。その後、山田様はミニメイド・サービスの企業評価と候補先の提案を当社から受けることになりました。
自分で育ててきた会社を本当にM&Aしてよいのか
しかし、当初は順調に進んだわけではありません。M&Aを進めると決めたものの、自社の企業評価の算定結果が思ったほど高くなかったため、やはり外部承継すべきではないかもしれないと山田様は葛藤しました。「自分が一生懸命育ててきた会社。やはり社員承継のほうががよいかもしれないと悩み、答えを出せなくなってしまったのです」。
そんなとき、山田様は当社取締役の竹内の著書『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』を読み、 “成長戦略型M&A”について知ることになります。迷いの中にいた山田様は、この本を読んだことで今後の成長を描けるM&Aならばやる価値があるかもしれないと、少しずつ気持ちに変化が生じてきたといいます。
「この本を読んで、自社の経営課題を突き詰めて考えることができました。教育する力は業界一だと思っていましたが、なかなか人材を採用できない点が自社の弱みだったのです。人財を確保できないため、仕事の依頼を断ることもあり、採用コストもかさんでいる。これが成長の足かせになっていると感じていたため、解消できるならばと、再びM&Aに意識を向けはじめました」。
仕切り直し後、奮起して「成長戦略型M&A」を視野に
その後、竹内と担当コンサルタントの大野とミニメイド・サービスをどのように成長させていくのかについて徹底的に話し合い、「成長戦略のレールを用意することが社員・スタッフに対する責任だ」と山田様は考えるように。
M&Aで会社を譲渡する際、自社の成長のビジョンやプランを紙に可視化し、明確に表すことができている企業様はほとんどありません。譲渡企業について詳しく書かれた資料である「企業概要書」には過去・現在の情報のみを記載します。しかし、“成長戦略型M&A”では、企業様の未来・成長性を徹底的に検討し、その成長戦略を実現できるパートナーと組む点が最大の特徴です。
成長戦略コンサルティングでは、担当した大野が事業の強み・弱み分析を行い、ミニメイド・サービスの成長戦略を山田様と作成しました。そして、その内容を提案資料にまとめ、買い手企業へマッチングの提案を実施しました。ミニメイド・サービスの成長を実現できるお相手として最終的に現れたのが、人材派遣サービス最大手であるフルキャストHDでした。同業ではありませんが、成長の足かせになっていた人材不足を解決できることと、フルキャストHDの事業戦略にミニメイド・サービスの事業がマッチしていたことで、トップ同士の面談をする運びになりました。
トップ面談では、山田様はフルキャストHDの平野会長、坂巻社長に、創業から今までの話と今後の成長戦略の話をされました。両名の人柄には惹かれるものがあり、フルキャストHDとのM&Aによって、センターピンを倒すように、本質的な課題をすべて解決するだけでなく、これまでの事業を大きく飛躍させられるチャンスになると感じたそうです。
相互に惹かれあって実現したトップ面談後は、フルキャストHDから意向表明書が提示されました。山田様は、「今後の成長戦略も加味した内容で非常にうれしかった」と振り返ります。その後、デューデリジェンス(企業調査)を実施し、最終契約を無事に終えました。
社内への開示後に辞めた社員はゼロ、採用面でM&Aの効果を早速実感
開示には一番神経を使ったと話す山田様。最初に開示を行ったのは、後継者候補と考えていた専務と常務でした。
「専務と常務ははじめ不安に思ったようですが、フルキャスト様の会長・社長と面談をしたことで安心したようです。従業員への開示の時も、『買収された』というメディアの表現をどう和らげるかを考え、『提携』という言葉を使って安心させました」。
M&A後、山田様は引き続き会長として会社に残り、専務が社長に就任、副社長にフルキャストHDの加藤様を迎えられました。「副社長としてエネルギッシュで理と情を併せ持っている加藤さんが来てくださって嬉しかったですね」と山田様は話します。
社内開示のとき、従業員に真摯に対応したことでM&A後の退職者はゼロ。従業員は活き活きと働いているそうです。また、山田様が頭を抱えていた人材の点でも、早速、高いシナジー効果が出ているといいます。M&A前は年間の採用実績が20名程度だったのに対し、M&A後は2カ月間で50名程を採用。フルキャストの知見を活かしたweb媒体からの集客と、フルキャストの社内インフラからの紹介が功を奏しているということです。
山田様は今までの単独オーナーとしてのmy company(マイカンパニー)からour company(アワカンパニー)になったと語ります。
「M&Aにより、私はオーナー経営者から卒業できた。企業の成長を考えたとき、慣れは怖い。良質な刺激が社内に生まれ、市場環境の変化を自ら起こしていく社風になってきたと感じます。M&Aを行ったことで世界を狙える会社になったと思いますので、これからは成長を見守っていきたいと思います」。
無事に成長戦略型M&Aを終えられたことで、山田様は次なる人生のステージへと進むのを楽しみにされているということでした。
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成長戦略室 大野智明 (ミニメイド・サービス様 担当)
ミニメイド・サービス様の成長戦略、そして山田様の事業承継のご支援をできたことを心より嬉しく感じております。本件を通じて、全く同じ状況下であるオーナー様・企業様はいらっしゃらないと思いますが、今後の成長戦略に対する課題は多くあると思います。M&Aを検討する前に、各企業様の本質的な成長戦略について、一社でも多くご支援できるよう今後とも取り組んでいきたいと思います。