コラム

M&A戦略実行における課題提起~クリアすべきM&A阻害要因とは~

皆己 秀樹

日本M&Aセンター M&Aサポート倶楽部責任者 

M&A全般
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これまで多くの大手企業・中堅企業のM&Aの支援をする中で、経営企画部のM&A担当者からM&A実行に関する悩みを聞いてきた。その悩みは千差万別であるが、おおよそ3つの要因からくることに気付く。なぜM&A戦略が進まないのか?本稿では、これらの要因を紹介し、大手企業の経営計画、M&A実行における課題提起の機会としたい。

要因1:M&A戦略における責任と権限が不明確

中期経営計画立案時からM&A戦略自体を消極的にとらえ、「内部資源活用のみでの成長ありき」という戦略スタンスがある。外部からM&A情報が入らず、情報面で孤立化し、機会損失をしている可能性がある。そのような企業の経営企画担当者は、M&A戦略に責任がないため、積極的にM&A機会を見出そうとしないのである。 一方、中期経営計画の立案段階からM&Aを積極的にとらえ、チャンスがあれば外部資源も取り込み、成長を目指す企業群がある。この場合、M&A担当者に正式にM&Aのノルマ、責任及び権限が与えられているケースが多く、M&A担当者は、社内で権限が明記されているおかげで、社内外で動きやすい。中期経営計画にM&A戦略を明記することがM&Aを成功させる第一歩であると考える。

要因2:M&Aのターゲットが不明確

M&Aのターゲット先について聞かれた時、最低限(1)ターゲットとすべき業種、(2)エリア、(3)1件あたりの投資限度額、の3項目については即答したいものだ。そのための出発点は、自社に合ったM&A戦略に関する仮説を持ち、「こういう案件は積極的に進めたい」というアイデアを持っておくことだ。M&A戦略の種類を理解してもらうために、図1を参照頂きたい。それぞれの戦略の概要について述べる。

図1:M&A戦略の概要

図1:M&A戦略の概要

要因3:売り案件の希少性

当社のようなM&A支援会社から、なかなか案件を紹介してもらえないと嘆いている企業がある。譲渡案件は希少である。下記4つの分析を確認して頂きたい。どれか1つでもゼロに近ければ、掛算の結果M&Aの実行可能性は難しくなる。

M&A実行可能性を見極めるための4つの分析

(1)市場社数分析 ターゲットとすべき企業数がどのくらい存在するか。企業数が多いほどM&Aが実行できる可能性は高まる。 (2)相性分析 ターゲット企業と自社に関して、事業内容、戦略面や企業文化の面でフィットしているかどうか。フィットしていなければM&Aの対象にはなりにくい。 (3)譲渡可能性分析 (1)・(2)を分析した後、そのターゲット企業について譲渡意思があるかどうか。例えば、ご子息が後継者として社内でバリバリ働いている場合、譲渡意思はないと考えられる。 過去のM&A事例等もよく調べ、ターゲットとする事業の買収意欲の高い企業が他に存在するかどうかを確認する。他に買収意欲の強い企業が多ければ自社にとってのチャンスは少なくなってしまう。 (4)競合他社分析 過去のM&A事例等もよく調べ、ターゲットとする事業の買収意欲の高い企業が他に存在するかどうかを確認する。他に買収意欲の強い企業が多ければ自社にとってのチャンスは少なくなってしまう。

以上は数多くのM&Aを支援する当社の経験則により抽出された問題点であり、各社が直面する壁である。M&Aを実行されている企業の経営計画・M&A担当の方々には、戦略に沿ったM&A実現のため、ぜひ参考にしていただきたい。

広報誌「Future」 vol.12

Future vol.12

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.12」に掲載されています。

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著者

皆己 秀樹

皆己みなみ 秀樹ひでき

日本M&Aセンター M&Aサポート倶楽部責任者 

一橋大学卒業後、大手金融機関及び大手外資系証券会社で法人営業。その後、大手外資系金融機関プライベートバンキング部の日本支社立ち上げプロジェクトに参画。現在は日本M&Aセンターにて、上場企業を中心に M&A戦略からクロージングに至るまで幅広いアドバイスを行う。戦略的M&Aをテーマに、研修・セミナー講師としても活躍。

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