生産性向上とは?メリットや取り組み例を解説
少子高齢化による労働力人口の減少に直面する中、企業が継続的な成長を遂げるには、限られた資源で成果を最大化する「生産性向上」が必須の課題となっています。本記事では、生産性向上の概要、企業が直面している背景や具体的な取り組み、生産性向上によるメリットなどについて紹介します。
生産性向上とは?
生産性向上とは、時間、労働力、資金、設備といった限られた資源を最大限に活用し、生産物やサービスの量や質を向上させることを指します。
これは単なる業務の効率化にとどまらず、企業全体の競争力を高め、持続的な成長を実現するための戦略的な取り組みといえます。
特に少子高齢化による労働力不足が深刻化する現代においては、少ないリソースで高い成果を出すことが、企業の存続と発展のために不可欠です。生産性向上は、このような状況下において企業が直面する課題を解決し、新たな成長の機会を創出するための鍵といえるでしょう。
この記事のポイント
- 日本は少子高齢化に直面し、企業は限られた資源で生産性向上を図る必要がある。特に中小企業は従来のやり方では競争力を維持できない。
- 生産性向上は資源を最大限に活用し、企業全体の競争力を高める戦略的取り組みであり、業務効率化だけでなく価値の創出も含む。
- 労働力不足、国際競争力低下、働き方改革の進展が生産性向上を求める背景であり、企業は具体的な施策を通じて持続的な成長を目指すべきである。
⽬次
業務効率化との違い
「業務効率化」とは、業務の無駄を省き、よりスムーズに仕事を進めるための取り組みです。例えば不要な手順を省いたり、新しいツールを導入したりすることで、同じ仕事でもより短い時間で終わらせられるようになります。
一方で生産性向上とは業務効率化も含んだ、より広範な概念のことです。限られた資源(時間、人材、お金など)を使って、より大きな成果を出すことが目的です。つまり単に仕事を早く終わらせるだけでなく、その成果にはどれほどの価値があるのかという視点も重要になってきます。
、ある会社が新しい商品を開発するために、業務効率化によって開発期間を短縮したとします。開発時間が短縮できたのであれば業務効率化には成功したといえますが、その商品が市場で売れないのであれば、それは生産性向上とはいえません。生産性向上を実現するためには効率化だけでなく、顧客のニーズに合った商品を開発したり新しい市場を開拓したりするような、より戦略的な取り組みが必要なのです。
業務効率化は、生産性向上のための取り組みのひとつといえます。しかし真の生産性向上を目指すためには業務効率化にとどまらず、付加価値の創出や資源の最適な配分といった、より広い視点をもつことが重要です。
生産性向上はなぜ重要か
企業が持続的に成長し、競争力を維持・強化するためには、生産性の向上が不可欠です。現代のビジネス環境ではグローバルな市場競争が激化しているため、企業が生き残るためには限られたリソースで、より多くの成果を出さなければなりません。
さらに少子高齢化や労働力不足などの社会的課題に対応するためにも、生産性向上は企業の経営戦略において極めて重要な役割を果たします。生産性が向上すれば従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上するため、結果的に企業全体の収益力が強化されるでしょう。
したがって経営者や業務管理者は、生産性向上を全社的な目標として位置づけ、計画的に取り組むことが求められます。
生産性向上が求められる背景
日本の企業を取り巻く環境は、近年大きく変化しています。生産性向上が喫緊の課題となっている背景には、主に以下の3つの要因が考えられます。
1. 労働力人口の減少と高齢化
少子高齢化の進展により、労働可能な人口が減少の一途を辿っています。特に高度な専門知識や経験をもつ中高年層の退職が進むことで、企業のノウハウ継承は難しくなっており、このまま続けば生産性の低下を招きかねません。また若年層の労働力不足は、人材の確保と育成のコスト増につながり、企業の経営を圧迫しています。
2. 国際競争力の低下
グローバル化が進展し、新興国の台頭や技術革新が加速するなかで、日本の国際競争力は低下しています。特に製造業においては、自動化やAIの導入による生産性向上を図る海外企業との競争が激化しているため、日本企業はさらなる効率化を進めていかなければなりません。またサービス業においても、顧客のニーズが多様化しており、高品質なサービスを提供するための生産性向上が不可欠となっています。
3. 働き方改革の進展
多様な働き方が求められるようになり、労働時間の短縮やワークライフバランスを重視する動きが労働者全体に浸透しています。したがって労働時間の削減は、従業員の生活の質向上につながるだけでなく、企業にとっても生産性を維持しながら業務を遂行するために必要となる重要な取り組みです。またリモートワークやフレックスタイム制の導入などといった働き方の多様化は、企業の管理体制やコミュニケーションのあり方にも大きな変化をもたらしています。
これらの3つの要因が複合的に作用し、日本の企業は生産性向上を迫られている状況にあります。
生産性の指標と計算方法
企業の生産性を評価する上で、「付加価値労働生産性」と「物的労働生産性」という2つの指標が特に重要です。それぞれの指標が何を表し、どのように計算されるのかを、具体的な例とともに解説します。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、企業が生み出す「付加価値額」を労働量(労働時間や従業員数)で割った指標のことです。具体的な計算式は以下のようになります。
付加価値労働生産性 = 付加価値額 ÷ 労働量
「付加価値額」とは、企業の売上高から原材料費や経費などを差し引いた利益部分を指します。この付加価値労働生産性は、特にサービス業や情報産業など、無形商材を取り扱う業種で広く用いられています。
企業が効率的に付加価値を生み出しているかどうかを測るこの指標は、企業の競争力を評価するための重要なツールです。さらに「労働者1人あたりの生産性」や「1時間あたりの生産性」など、企業のパフォーマンスを細かく分析する際に活用されることもあります。
付加価値労働生産性は、単に売上高ではなく利益に焦点を当てているため、コスト管理の視点からも非常に有用です。この指標を高めることは、企業の成長戦略を効果的に進める上で欠かせない要素となります。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、製造業や農業のように、物理的な製品を生産する産業で主に使用されている指標です。具体的な計算式は以下のとおりです。
物的労働生産性 = 生産量(または販売金額) ÷ 労働量
この指標は、生産ラインの効率性や従業員の働きぶりを数値化する際に、その効力を発揮します。例えば、同じ労働時間で以前より多くの製品を生産できるようになれば、物的労働生産性が向上したことを意味します。また製造現場での作業効率化や技術革新によって、この指標を大きく改善することも可能です。
効率的な生産体制の構築やコスト削減のためには、この物的労働生産性の指標を活用し、現状を把握しながら改善策を講じることが必要となります。特に製造業においては、物的労働生産性を向上させることで製品の品質や生産速度を向上させ、競争力を高めることが求められています。
生産性向上を図るメリット
生産性向上には、企業活動の効率化や利益の拡大につながるさまざまなメリットがあります。特に労働力不足の解消や競争力の強化といった点は、企業にとって大きな利点といえるでしょう。本章では、これらの具体的なメリットについて、対策とともに詳しく解説していきます。
労働力不足が解消される
生産性向上は、企業にとって労働力不足の解消に大きく寄与します。少子高齢化が進む現代社会では、働き手の数が減少し続けているため、企業にとって人材確保は大きな課題です。しかし人材確保が思うように進まなくても、生産性を向上させられれば、限られた人員でも効率的に多くの業務をこなせるようになります。
例えば業務プロセスの見直しや自動化ツールなどを導入することで、従業員一人ひとりの作業負担を軽減し、より戦略的な業務に集中させることが可能です。さらに業務の効率化には従業員のスキルアップが伴うため、より高度な作業を行う余裕が生み出されます。これにより組織全体のパフォーマンスが向上し、結果として少人数であっても企業の成長を維持できることが望めるでしょう。
こうした取り組みによって、人材不足という経営上のリスクに柔軟に対応できるだけでなく、企業全体の競争力を強化できるのです。
働き方改革を推進し、従業員満足度を向上できる
生産性向上の取り組みは、働き方改革の推進と従業員満足度の向上にもつながります。業務効率化を図ることで、従業員一人ひとりの作業負担が軽減され、残業時間の削減やフレキシブルな働き方の実現が可能となります。
例えば業務プロセスの見直しやデジタルツールを導入することで、無駄な作業を省けるため、業務時間が効率的に使えることが望めるでしょう。また労働時間の短縮により従業員はワークライフバランスを取りやすくなるため、心身のリフレッシュやスキル向上のための時間を確保することが期待できます。さらに従業員のストレスが軽減されることで、働く意欲やモチベーションの向上も期待できるでしょう。
こうした職場環境が整うと、従業員の離職率は低下していくため、企業にとっても人材の安定確保が可能となります。さらに従業員満足度の向上は、企業全体の生産性にもプラスの影響を与えます。意欲的に業務に取り組む従業員が増えることでチーム全体のパフォーマンスが向上し、結果的に企業の競争力を強化することが期待できるのです。
コスト削減につながる
生産性向上は、業務の無駄を削減し、コスト効率の高い運営を実現するためにも重要です。業務プロセスの見直しや効率化を進めれば、人件費や時間、資材の浪費を減らすことが可能となります。
例えばITツールの導入や業務の自動化を行うことで、従来の手作業や重複した工程が削減できるため、業務全体のコストを効果的に抑えることが望めるでしょう。また削減されたコストは、新規事業の立ち上げや製品開発、研究開発への再投資などに活用できます。こうした再投資によって新たな収益源を生み出したり、設備を改善して生産性を向上させたりすることも期待できます。
さらにコスト削減は企業の競争力強化にもつながります。同じ品質の製品やサービスを他社よりも低コストで提供できるようになれば、市場での価格競争力が向上し、より多くの顧客を獲得することが可能です。
生産性向上のために必要な取り組み
生産性向上を実現するためには、具体的な施策の取り組みが不可欠です。単に業務を効率化するだけでなく、企業全体のプロセスや資源の使い方を見直し、持続的に成果を生み出す環境を整えることが重要となります。
ここでは、効果的な生産性向上のために取り組むべき主な施策をいくつか紹介します。
業務における無駄の洗い出し
業務における無駄の洗い出しは、生産性向上の第一歩です。まずは業務プロセスを細かく見直し、現状の作業にどれだけの無駄があるかを把握してみましょう。
無駄の洗い出しをするためには業務の可視化を進めることが大切ですが、その際にフローチャートや作業手順書などを活用すれば、効率化の余地が見つけやすくなるでしょう。また不要な業務や重複する作業を排除していけば、限られたリソースを効果的に活用し、生産性向上につなげていくことが可能になります。
業務の効率化・標準化
業務の効率化・標準化は、生産性向上において非常に重要な要素です。まず業務の流れを整理し、標準化することで、作業の効率を向上させることが可能になります。標準化とは特定の業務プロセスにおける手順や方法を統一することで、これにより作業のバラツキを減らし、安定した成果を生み出すことが望めます。したがって業務の標準化を進めれば、誰が担当しても一定のクオリティが保てるようになるため、トラブルやミスの発生を最小限に抑えられるでしょう。
手順書やマニュアルの整備も重要なポイントです。業務の属人化が進めば、特定の従業員が不在になった際に業務が停滞するリスクが高まってしまいます。したがって業務の属人化を防止するためには、ノウハウをドキュメント化し、それらを共有しておかなければなりません。手順書やマニュアルを充実させられれば、新しいメンバーでも迅速に業務を習得できるだけでなく、既存のメンバーも業務の再確認や見直しを行いやすくなります。
また業務の効率化を図るためには、自動化やシステム化の導入も欠かせません。例えば定型的なデータ入力や集計業務は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで自動化が可能になります。これにより従業員はルーティンワークから解放され、より創造的で付加価値の高い業務に集中できます。さらにERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理システム)などを活用することで、データの一元管理や業務プロセスの最適化が実現できるため、迅速な意思決定がしやすくなるでしょう。
人員配置の最適化
人員配置の最適化も、生産性向上において重要な施策です。各従業員のスキルや適性を把握し、適切なポジションに配置することで、個々の能力を最大限に発揮させます。これによりチーム全体のパフォーマンスが向上するため、業務の効率化が期待できるでしょう。
また業務負荷のバランスを調整すれば、過度な負担や業務の偏りが避けられるため、従業員のモチベーションを維持する効果も望めます。
ただし適材適所の配置を実現するためには、従業員への定期的なヒアリングやスキル評価を行い、組織全体で柔軟に対応できる体制を整えることが必要です。
アウトソーシングの活用
アウトソーシングの活用も、生産性向上を図る上で効果的な戦略のひとつです。業務の一部を外部の専門業者に委託すれば、企業のリソースを効率的に活用し、社内のコア業務に集中することが可能です。
またアウトソーシングを活用することで、専門知識や技術をもつ外部の力が借りられるため、短期間で業務の質が向上することが望めます。それ以外にも、すべてを社内で行うよりもコストが削減できる場合が多いため、固定費の変動費化も可能となります。
ただしアウトソーシングを活用する際には、事前に「どの業務をどこに依頼するのか」を十分に検討しておかなければなりません。もし検討が不十分なままで選定してしまうと、かえってマイナスの効果が生じてしまう場合があります。
テクノロジーの活用
テクノロジーの活用は、生産性向上に欠かせない要素です。最新のITツールやソフトウェアを導入することで、業務プロセスの自動化や効率化を実現できます。テクノロジーを活用すれば、クラウドサービスを利用して情報共有をスムーズにしたり、AIを活用したデータ分析で市場動向を迅速に把握したりすることが望めるでしょう。
またデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、これまでのアナログな業務手法を抜本的に見直し、業務フローを大幅に改善させることが望めます。事務作業の自動化やビッグデータを用いた戦略的な意思決定など、テクノロジーの力を最大限に活用すれば、スピードと正確性を兼ね備えた効率的な業務運営が可能となるでしょう。
ただし導入に際しては、コストや従業員のスキル習得のための教育が必要なため、自社の状況に合わせた戦略的な計画を立案しなければなりません。
国による生産性向上支援の施策
厚生労働省は、生産性向上を支援するためにさまざまな施策を打ち出しています。ここでは、以下に述べる3つの支援策に関する具体的な内容について解説します。
①働き方改革の推進
少子高齢化が進み、労働力人口が減少するなか、日本政府は働き方改革を推進しています。内閣官房働き方改革実現推進室が中心となり、厚生労働省が法律の整備や監督を行うことで、働き方の見直しを図っています。
具体的な施策として挙げられるのが、長時間労働の是正です。労働基準法の改正により時間外労働の上限が設定され、過度な労働が制限されました。
また従業員が働きやすい環境づくりも進められています。テレワークやフレックスタイム制の導入が促進された結果、従業員は時間や場所にとらわれず、柔軟に働けるようになりました。
さらに同一労働同一賃金の原則に基づき、企業向けのガイドラインが策定されました。これにより、仕事の内容が同じであれば、正社員と非正規社員の間で賃金格差を是正することが求められています。
②デジタル化・技術革新の推進
少子高齢化や国際競争が激化するなかで、経済産業省とデジタル庁が中心となって行われているのが、企業のDXの支援です。
経済産業省は、中小企業を中心に補助金や助成金を提供することで、企業が新しい技術を導入しやすくしています。一方でデジタル庁は、高速通信ネットワーク5Gの整備や行政サービスのオンライン化を進め、日本全体のデジタル基盤を強化しています。
なお経済産業省とデジタル庁の具体的な施策については、それぞれのホームページや公開資料で詳しく知ることが可能です。
③人材育成・教育支援の推進
文部科学省、厚生労働省、経済産業省は、少子高齢化が進みデジタル技術が急速に進化するなかで、人材育成に力を入れています。労働力人口の減少は深刻なため、既存の労働者のスキルアップによる生産性向上は必要不可欠です。特にデジタル技術に対応できる人材の育成は、産業競争力の強化には欠かせません。
また労働者が雇用の安定と職業の流動性を保てるように、学び直しやキャリアチェンジを支援する取り組みも強化されています。さらに社会の多様化に対応するため、誰もが学び続けられる環境づくりが求められています。社会人の学び直しやオンライン学習の普及は、その一例といえるでしょう。
これらの取り組みにより個々の労働者の成長が促され、企業全体の生産性向上に大きく貢献することが期待されます。
M&Aで生産性向上を実現する
M&Aも、企業の生産性を向上させるための手段として非常に効果的です。
同業種の企業とのM&Aでは、事業規模の拡大や市場シェアの拡大により、生産効率の向上が期待できます。例えば重複する業務やリソースを統合することで、コスト削減と業務の効率化が図られ、結果として生産性の向上が実現します。さらに経営資源の共有や人材の最適配置を進めれば、組織全体の業務効率を高めることも可能になるでしょう。
一方で隣接業とのM&Aは、新たな技術やノウハウを獲得することで製品やサービスの高度化を実現できます。サプライチェーンの統合や効率化を進めれば、コスト削減と生産性向上の両方が達成できます。また隣接業とのM&Aを通じて顧客基盤の拡大や新市場の開拓を進めれば、生産性の向上と売上増加を同時に達成することが望めるでしょう。
このように同業種や隣接業とのM&Aを進めることで、事業のあらゆる側面で生産性向上が期待されます。企業の戦略的な成長と競争力の強化のためには、M&Aは重要な選択肢となり得るのです。
終わりに
この記事では、生産性向上の重要性やそのための具体的な取り組みを中心に解説しました。生産性向上は、企業の競争力を強化し、持続的な成長を実現するために欠かせない要素です。本記事で紹介した施策や事例を参考に、自社の生産性向上への取り組みに役立ててください。
また取り組みの成果は、企業全体の効率化や利益拡大につながります。そのため生産性向上に取り組む際には、専門家に相談することもひとつの方法です。生産性向上への継続的な取り組みが、企業の長期的な成功を導く鍵となるでしょう。