非上場IT企業経営者のM&Aによる事業成長における考え方の矛盾

青井 雅宏

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青井雅宏

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IT企業の社長が高齢化。後継者不在企業が増加

このような状況になっている事をご存じでしょうか。1995年~2001年に起きたと言われているITバブル。日本では、ヤフージャパンやソフトバンク、楽天、サイバーエージェント、ライブドアなどが急成長を遂げ、同時に多くのITベンチャーが誕生しました。

総務省が発表している情報通信業基本調査の結果によると、2020年度売上高は53兆4498億円です。1位は電気通信業で17兆8321億(33.4%)、2位にソフトウェア業で16兆6619億円(31.2%)がランクインしています。また、企業数はソフトウェア業が最多であり、全体の50.9%を占めています。ここで言うソフトウェア業とは、受託開発ソフトウェア業や組込みソフトウェア業、パッケージソフトウェア業に代表される、いわゆるIT業界のモノづくり企業の総称です。

帝国データバンクが発表している【全国「社長年齢」分析調査(2021年)】にある社長の平均年齢と年代構成比(業種別)を見てみると、サービス業の平均年齢は58.8歳であり、50代、60代、70代で全体の72.3%を占めます。

そして、同じく帝国データバンクが発表している【全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)】におけるサービス業の後継者不在率は66.5%に上ります。これは、全業種で建設業(67.4%)についで2番目に多い数値となっています。

この背景には、現在のIT企業において、後継者の育成が難しいことがあげられます。正確には、執行における後継者育成は多くの企業で進んでいますが、経営における後継者育成が進んでいない現状があるためだと考えられます。

IT業界でM&Aが盛んな理由

ここからは、実際に年間一人当たり300名強のIT企業オーナー経営者と面談を実施しており、M&Aによる事業承継及び事業成長を支援している日本M&Aセンター 業界再編部 IT業界専属チームの知見から述べさせて頂きます。

そもそも、IT企業はM&Aによって、事業規模が大きくなりにくい業界です。なぜなら、各社の決算書を見て頂ければ一目瞭然ですが、IT企業にとっての資産は「人」であるためです。建設業や製造業のように巨額な設備を導入し、その設備を稼働させるオペレーターがいるような業界とは異なる課題があるといえます。

その課題とは人材不足です。特にIT人材は全くと言って良いほど足りていない現状があります。実際に総務省が2022年に公表した「DX人材白書」では、日本企業の7割がDXのためのIT人材が不足していると回答しています。

現在、国内のIT人材約130万人は取り合いになっています。130万人の人材では全く足りていない背景の一つとして、日本の多くのIT企業は労働集約型のビジネスを行っている事があげられます。ビジネスを拡大するためには人材が必要であるものの、経験者採用において、優秀な人材を多く獲得できるのは限られた上場企業だけであるためです。

一般的にIT人材を獲得するために、どのような戦略が用いられることが多いのでしょうか。

1点目は経験者採用

しかし、この方法には、巨額な広告費がかかるだけでなく、良い転職条件の提示、エンジニアが求める職場環境や開発案件の整備などが必要になります。

2点目は、新卒採用

新卒採用は経験者採用と比較すると、中小企業にも比較的取り組みやすい手法ではあるものの、教育環境の整備が必須条件となります。経験者採用と同じく、優秀な大学出身者(いわゆるエリートエンジニア)は、大企業や先端開発のベンチャーに進むことが多いと言われています。そのため、全くの未経験者を育てる事が出来る教育環境やOJTの制度確立が必須条件になります。また、新卒が一人前になるまで3~5年ほど平均的にかかると言われているため、そこまで育てることが出来る金銭的な会社の体力も必要になります。

3点目は、未経験採用

昨今増えてきているのが、いわゆるIT系のBPO業務を行うセンターを地方に創設し、地方人材の獲得を目指す方法です。全くの未経験者や、ITに興味はあるものの、まだコードを書けるほどではない人材をターゲットとし、教育とアウトソーシングをセットで行う事で、人材を早期に獲得していく方法です。

ただし、仮に上記をクリアできたとしても、何より大きな問題点は、人材が流動的であるという点です。多くの中小企業オーナーの悩みとして、「せっかく育成したエンジニアが転職してしまう」という課題があります。リモート勤務が進んだ昨今では、IT人材の転職市場は非常に活況です。そのため、リモート勤務や客先常駐によって帰属意識が低下してしまうと、今よりも良い条件を見つけたらすぐに転職してしまう可能性を常に経営者は意識していかなければなりません。

上記3点が難しい場合、ビジネスパートナーとして、外注に仕事を依頼することが一般的ですが、昨今では日本全体として、IT業界の多重下請け構造に「待った」がかかっている状況です。多くの大企業において、内製化を行う目的のためにM&Aや組織再編を加速させていることは、様々な報道や文献で目にする機会も増えてきているかと思います。

そのため、IT企業で早期に成長するためにM&Aが必要であるという事は、多くの経営者の共通認識となっています。IT業界において、M&Aによる買収目的の1位は長らく「人材確保の為」という理由が続いていました。これからもその理由が継続される事が想定されます。ここまでが、IT業界でM&Aの買収が盛んな理由です。

非上場IT企業経営者のM&Aによる事業成長における考え方の矛盾

では、今回のコラムの題名にもある「非上場IT企業経営者のM&Aによる事業成長における考え方の矛盾」という事に触れていきます。

’’IT業界のM&Aは上場企業だけが考えており、上場企業同士で人材確保のために行われているのか?’’

答えは否です。ソフトウェア業の企業の9割は非上場企業です。そして、人材確保に課題を感じているのは、非上場企業も全く同様であり、上場企業よりも採用に苦労をしている企業も珍しくありません。

そのため、事業成長のためにM&Aによって人材確保を行いたいと考える中小企業経営者は多くいらっしゃいます。そして、大企業を含め、全体的な買収のターゲットとなるのは、売上高1億~20億円未満程度の非上場企業である事が多くなっています。

ここからは、譲渡企業側の立場に立って考えます。前述した通り、現在多くのIT企業は後継者不在の問題に直面しています。社長の年齢が60歳を超え、70歳となり、社内を見渡してみると、取引先との関係を上手く構築出来、かつ社内での人望もある有力なNo.2は存在しているかもしれません。しかし、そのNo.2にCEOという役割は務まるとしても、代表取締役は務まるだろうか?とふと思い立つこともあるかと思います。

IT企業経営者は創業者であることが多いです。そのため、一から起業する楽しさ、やりがいを知っている一方で、経営の難しさも熟知されています。リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など、様々な問題が生じ、社員を守るために自身の個人資産を犠牲にした社長も少なくありません。それもすべて事業を成長させるためにご決断されています。

私が過去3回にわたり実施したIT企業経営者へのアンケートでは、「事業承継をする際に何を最も重要視するか」という問いに対し、6割の経営者が「事業が成長する事」と回答されていました。

「No.2が、これから目まぐるしく変化していくIT業界で、苦しい時には自分の全てを投げうってでも社員を守ってくれるだろうか、事業を成長させてくれるだろうか、引き継ぎの際に連帯保証が適応され、株式の承継には費用もかかってしまう」そう考えたとき、多くの社長は「自社に後継者はいない」と回答されるのです。

これまでの話から、IT業界のおいては、譲受け側も譲渡側もどちらも理由は「事業成長」のためにM&Aを検討されていることがお分かり頂けるかと思います。では、実際に上述した通りの理由でM&Aが加速しているのかというと疑問が残ります。

同じくIT企業経営者へのアンケートにて、「事業承継はいつ頃を検討しているのか」という問いに対しては、「5年より先、若しくは予定無し」と回答された経営者が6割を超えています。また、「誰への事業承継を考えているのか」という問いに対しては「息子・娘」と「社内役員」の2項目で6割を超えています。「外部への承継(M&A)を考えている」と回答したのは、全体のわずか2割以下です。

なぜ、このような問題が日本で生じているのか、はっきりした答えは見つかっておりませんが、そのヒントとしては、日本においてIT業界に特化し、専門性を持ったM&Aコンサルタントが少なすぎる点が原因の一つとしてあげられるのではと考えています。
実際に、約7割の経営者が「M&A仲介企業は似た名前が多く、違いがわからない」と回答しています。

日本M&Aセンターがこれから成し遂げなければならない事としては、M&A業務を通じて企業の存続と発展に貢献し、最高のM&Aをより身近にする事です。

IT業界は日本において数少ない成長産業です。後継者不在が理由で黒字企業が休廃業してしまったり、倒産を選択してしまったりする経営者を1社でも多く救わなければならないと考えています。日本を支える中小企業経営者が、事業成長の為の最良の選択肢として、M&Aを選択できる事が一般的になる未来を作り出す、この支援をする事こそが真のM&A仲介企業の役目だと私は考えています。

M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

著者

青井 雅宏

青井あおい雅宏まさひろ

1990年生まれ、大阪府出身。同志社大学社会学部卒業。在学中に売上高1000億円企業の創業オーナーの秘書として2年間経営ノウハウを学んだ後、株式会社キーエンスへ入社。事業部売上ランキング2015年、2016年1位を達成した後、日本M&Aセンターへ入社。現在、IT業界の多くのオーナーに寄り添い、最良の提案を行っている。

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