[M&A事例]Vol.96 地域に愛される老舗洋菓子店。 労働環境を改善させて新商品開発に力を注ぐ
「プラチノ」は30年以上地域に愛されてきた老舗洋菓子店。60歳を目前に後継者不在に直面した田勢克也社長は、事業承継とさらなる成長のために譲渡を決意しました。50代から検討したことで時間をかけて納得のお相手と出会う事ができたとM&Aを振り返ります。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
佐賀県小城市にある竹下製菓株式会社は、有名アイスクリーム「ブラックモンブラン」の製造などを手掛ける会社です。同社は、2020年10月にアイス製造会社のスカイフーズ株式会社(埼玉県幸手市)を、2022年1月に主力商品「生クリームパン」をはじめとするパン製造の株式会社清水屋食品(岡山市)を譲り受けました。竹下製菓の5代目、竹下真由社長に、積極的に資本提携を進める理由をお聞きしました。
――竹下製菓の「ブラックモンブラン」は、特に九州エリアで大変有名なアイスクリームですね。すでに強いブランドをお持ちでしたが、どのような観点でスカイフーズ、清水屋食品という2社との資本提携を決められたのですか。
譲受け企業 竹下製菓株式会社 竹下様:
竹下製菓にない強みをもっているという点です。技術やブランドなど、自社に足りない部分を持っている会社と提携できればと考えていました。
スカイフーズは当社にない一口サイズの製造技術などを持っていたんです。加えて、埼玉県の会社という立地も魅力でした。竹下製菓は佐賀の会社で、他県に拠点を持っているわけではありません。九州に1社しかないというのは、何かあった場合に商品の供給を継続して行えなくなるというリスクを抱えているということでもあります。BCP(事業継続計画)の観点からも、スカイフーズとの資本提携は重要な意味を持つと考えました。
一方、清水屋食品の最大の魅力はブランドです。看板商品の「生クリームパン」は楽天市場等のECモールで人気があり、首都圏のコンビニやスーパーにも並んでいます。新商品開発には当社も積極的に取り組んでいますが、市場環境は厳しく、新商品を出せば必ずしも売れるとは限りません。そうしたなかで、ブラックモンブランに続く2本目、3本目の柱を、資金と時間をかけて一から開発するのは難しい。近しい領域でブランド力のある商品をもっている会社と一緒になることで、ブランドの柱を一つ増やしたいと思っていました。
――清水屋食品は製パン会社です。商品の領域が違うようにも感じられますが、その点はどう捉えていらっしゃいましたか。
竹下様:
当社の「ブラックモンブラン」と清水屋食品の主力商品である「生クリームパン」がコラボできそうな可能性を感じましたし、実は扱う商品の温度帯も同じ冷凍なので、共同で卸もできるなどシナジー効果が見込める要素は多くあると感じていました。
そしてなにより「生クリームパン」がおいしかった! 食品製造業は、やはり商品にほれ込めないと一緒にやっていくことは難しいと思います。味に感動し、こんな魅力的な商品を作れる会社とだったらぜひ一緒に商品開発をしてみたいと思いました。
竹下製菓の持つブランドや技術と掛け合わせたら、もっといろいろな商品を生み出していくことができるんじゃないか。そう思ったら非常に夢が膨らんで、一気にお話が進みました。
同じ製造業でしたし、清水屋食品の取引先に当社のお客様がいるなど共通する点も多かったので、それほど不安はありませんでした。
――M&A後は清水屋食品の社長が退任され、竹下様が社長に就任されました。PMI(M&A成立後の統合プロセス)はどのように進めていますか。
竹下様:
PMIの第一歩は働く皆さんの不安を取り除くことだと思います。ですからまずは清水屋食品の正社員の方と面談をしました。突然のことで、社員のなかには「会社が極端に変わってしまうのではないか」と思われた方もいたのではないでしょうか。実際に開示した際には、戸惑いを隠せないといった方もいらっしゃいました。そうした不安を取り除くためにも、私の口から「急に変えようとは思っていない」ということをちゃんと伝えたいと思いました。1人あたり1時間くらいでしょうか。直接お話しできたことで、今の率直な気持ちを聞くこともできましたし、私がどういう人間なのかということも知ってもらういい機会になりました。
そして、面談では皆さんが働くなかで感じている課題などを教えてほしいと聞いていきました。そこでお聞きした課題で解決できそうなことは、すぐ変えていきましたね。
――どんなところを変えていきましたか。
竹下様:
例えば、製造の管理体制は当社で使用しているシステムを導入しました。清水屋食品は「生クリームパン」の大ヒットによって急成長し、人員確保や製造キャパシティーに課題を抱えていました。そこで、当社と同じ基幹システムを入れて全体管理ができるようにしたり、開発技術の融合のため当社から人材を送り込むなどしたりして、一緒に新たな商品を開発する環境づくりに取り組んでいます。
まだ一緒になって半年ほどですが、お譲りいただいた清水前社長には清水屋食品の今後をずっと見守っていただきたいと思っています。会社から離れても、いろいろなところで清水屋食品の商品が売られているという話をお聞かせできるようにしたい。それが、私たちが会社をしっかり成長させられているということのご報告にもなると思っています。
――昨今はコロナ禍や原材料の高騰など、事業をする上で厳しい状況が続いています。こうした経営上の課題にM&Aのメリットを感じることはありますか。
竹下様: 原材料の仕入れについていえば、当然同じものは共同調達できるようになります。仕入れルート自体が増えましたし、検討材料が増えて交渉も有利になって非常に良かったです。
――最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
竹下様:
私は自社の商品が大好きです。それは、食には人を幸せにする力があると信じているからです。一時は地元を離れ、東京で働いた後に家業を継ぎましたが、このような魅力ある仕事を大好きな地元・佐賀ですることができている。人を幸せにできる仕事、誇りのもてる仕事を地元に残せているということは、経営者として幸せです。
今、地方に元気がない、地元に戻っても仕事がないと言われます。私は、地方の中小企業こそ手を組んでいくべきではないかと思っているんです。大企業に比べれば人員や資源の規模では差があるかもしれませんが、それぞれにその企業独自の強みをお持ちです。足りない部分は、もっている企業と手を取り合えばいいと考えています。競争環境が激化し規模の経済が働く世の中で、中小企業同士がタッグを組んで少しでも渡り合えるように知恵を出し合うのは本当に価値のあることだと思います。
当社は埼玉、岡山の会社と資本提携を結びましたが、今後も、新たな企業と手を組むことで一緒に地方を盛り上げていけたらいいなと思います。
「プラチノ」は30年以上地域に愛されてきた老舗洋菓子店。60歳を目前に後継者不在に直面した田勢克也社長は、事業承継とさらなる成長のために譲渡を決意しました。50代から検討したことで時間をかけて納得のお相手と出会う事ができたとM&Aを振り返ります。
社長を入れて従業員は6人という小さな会社ながらも、顧客視点に立ち、よりよい住宅を適正価格で提供することに徹し、地域に信頼を築いてきたM・G建装。創業者である松本昭文社長が、コープさっぽろとのM&Aを決意した、その思いといま————。
大阪の青果仲卸業の大手「泉州屋」は、約1,600㎞離れた沖縄県今帰仁村の「あけのフルーツ」をグループに迎えました。遠く離れたエリアから1次産業の会社を迎え入れるのは初めてのこと。同社の描く戦略、今回のM&Aの目的に迫ります。
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業種特化事業部 食品業界専門グループ グループリーダー 江藤 恭輔
(竹下製菓株式会社様担当)
清水社長は創業60年の老舗企業を受け継ぎ、経営が非常に苦しい中で新商品を開発、大ヒットさせました。そうした経営者としての背景や想いを丁寧にお聞きし、今後の会社の成長に大きく貢献できる可能性の高い企業とのマッチングが実現できたと思います。初回のトップ面談時に、竹下社長から経営者の家に生まれたことの責任と会社を継ぎたいという強い想い、そのためにしてこられた努力についてお聞きしながら、清水社長が深く共感されていたのが印象的でした。