「買う」から「売る」へ──。30代社長が選んだ“逆転の決断”が会社を5年早く成長させた

有限会社タイガー安全(山口県)

譲受企業情報

  • 社名:
    有限会社タイガー安全(山口県)
  • 事業内容:
    安全保安用品の制作・販売事業
  • 売上高:
    約5億円
  • 従業員数:
    55名

譲受企業情報

  • 社名:
    企業警備保障株式会社(島根県)
  • 事業内容:
    警備事業・施設管理事業
  • 売上高:
    約26億円
  • 従業員数:
    190名

※情報はM&A実行当時

※本記事は、2026年3月末発行の日本M&Aセンター広報誌「MAVITA」VOL.7からの転載です。

「MAVITA」へのご感想をお寄せください。アンケートにご回答いただいた方の中から抽選でご希望の商品をプレゼントいたします。(応募締切:2026年6月30日まで)

攻めの経営姿勢で過去最高業績をたたき出し、社長はまだ30代。さらなる飛躍を目指して他社の「譲受」を構想していたところから一転、社長が最後に選んだのは自社の「譲渡」でした。M&A後も、社長を続投し、親会社のアセットを活かすことで売上は3年で倍を見据える成長曲線を描いています。山口県の安全・防災用品会社、タイガー安全の中本大社長に、その決断の裏側と想いを聞きました。

経営者人生は突然に──廃業寸前から株式を買い取り32歳で社長に

写真:譲渡企業 有限会社タイガー安全 代表取締役 中本 大さん (先代の遺志を継ぎ、M&Aで売上を倍増させた30代若手社長)

写真:譲渡企業 有限会社タイガー安全 代表取締役 中本 大さん
(先代の遺志を継ぎ、M&Aで売上を倍増させた30代若手社長)

中本氏の経営者人生が突如動き出したのは、2019年のことでした。タイガー安全の前社長が病気により、60代の若さで急逝したのです。

山口県防府市に拠点を置くタイガー安全は、道路工事や建設の現場で使われる安全用品を販売する会社です。中本氏は高校卒業後に同社へ入社し、11年勤務。親族外ながら前社長からの信頼は厚く、『将来は会社を継いでもらいたい。視野を広げるためにも、一度他社で経験を積んでみてはどうか』と提案され転職します。そうして3年が経った頃の出来事でした。
「前社長の訃報とあわせ、奥様から『会社をたたもうと思っている』と知らされました。ただ、夫妻には大変よくしていただき、会社にも愛着があったので、なんとかタイガー安全を残したいという想いが強くあって。そこで奥様に、会社を引き継がせていただきたいと申し出たんです」

このとき中本氏は32歳で、株式の買い取り価格は1000万円。売上は年々下がっていて、廃業に向けて従業員もすでに去った後でしたが、タイガー安全を残したいという一心で譲り受けることを決断。資金の一部は、身内からも支援を受けたといいます。

そうして新社長となった中本氏は、新たに従業員を集め、営業体制の強化や警備事業の新設など、さまざまな施策を実行します。その結果、社長就任から5年で売上は約5倍、営業利益は約12倍に拡大するなど、大きな成長を遂げました。

さまざまな工事現場に置かれる立て看板を制作。中本氏が社長になってから、特注看板の受注に力を入れるようになった

さまざまな工事現場に置かれる立て看板を制作。中本氏が社長になってから、特注看板の受注に力を入れるようになった

工事現場でおなじみの各種安全用品は、販売とあわせ、リース事業にも力を入れる

工事現場でおなじみの各種安全用品は、販売とあわせ、リース事業にも力を入れる

大手と手を組むことで得られた安定的な成長

順調に成長する中、あわせて模索したのが、自社とシナジーのある会社をM&Aで迎え入れ、成長をさらに加速させることでした。中本氏は2021年より、日本M&Aセンターを通して相手企業探しを始めます。

ところがある頃から、別の考えが浮かびます。「買い」ではなく、「売り」でもいいのではないか──。

「大手の資本やサービスと結びつくことで、より安定的な成長を得られるのではないかと考えました。また、私は当時ひたすら仕事に邁進しており、もし自分が倒れたら、会社と家族はどうなってしまうのか。ずっと漠然とした不安を抱えていました。もちろん、愛する会社を売ることに抵抗がなかったわけではありませんが、会社の将来を考えれば考えるほど売るという選択肢が最善だと思うようになったんです。前社長の奥様からも承諾いただいたうえで、検討を進めていきました」

中本氏から方向転換の申し出を受け、日本M&Aセンターでは譲受企業探しを開始。ほどなくして約5社から手が挙がり、うち3社とトップ面談が行われます。その中から選ばれたのが、島根県松江市で警備事業を展開する地域大手、企業警備保障でした。

「事業はもちろんですが、一番の決め手になったのは、『人』の部分です。お相手の社長は私と同い年で自然と仲良くなれ、警備業界や建設業界の地位と待遇を向上させたいという志も一致していました」

譲渡価額は6億円。1000万円で株式を買い取って、社長に就任してから5年。M&A当時の売上が約5億円だったことをふまえると、こちらも中本氏にとって満足のいく条件となりました。

シナジーが成長の原動力に。社員の待遇向上も推進

新体制となったタイガー安全のさらなる躍進が始まりました。中本氏は会社譲渡後もタイガー安全の社長を任され、親会社のアセットを活かした事業拡大を目指すことになります。

成長の大きな原動力となったのが、グループ内のシナジーでした。親会社の企業警備保障とタイガー安全は、ともに警備事業を手がけており、親会社が山口県で獲得した案件にタイガー安全が対応するといった連携が可能になりました。さらに、安全用品は警備事業と親和性が高く、グループ全般の警備現場で必要となる安全用品を、タイガー安全が一括で供給するという“内製化”も実現。

あわせて図られたのが、社員の待遇向上です。
「もともと社員には、地域の水準以上の待遇を実現していましたが、譲渡後は業績も伸び、資本も安定したことから、さらに推し進めることができました。親会社からは、『結果が出ているのであればそれが正解』というスタンスのもと、経営の舵取りを任せていただいています」

こうして、中本氏が大切にしてきた自社への想いや経営方針はそのままに、規模の拡大と進化を遂げたタイガー安全。売上は、グループ入り後の3年で約2倍となる、10億円超へと拡大しました。
「もし会社を譲渡せず自力で成長を目指していたら、10億円に到達するのに、もう5年はかかっていたと思います」

M&Aの経験で得た新たな「社会的役割」

一方で中本氏には、M&A後に担うようになった役割があります。親会社の取締役として、そしてM&Aの“当事者”として、親会社の企業譲受と事業譲渡に関する調査、交渉、戦略策定に携わることです。これまで2件の企業の譲受、1件の事業譲渡に関わりました。

地域においても、思わぬ役割を担うようになります。
「譲渡側・譲受側双方の立場でM&Aを経験している人は、この地域ではあまり多くないようで、講演会やテレビ番組などに呼ばれてお話しすることが増えました。M&Aへの関心は高いようで、個別に相談を受けることもあります。M&Aのニーズが高まる中、自身の経験を還元していくことも社会的な意義があると思っています」

M&Aを通じて、自らの経営者人生を主体的に切り開いてきた中本氏。その原動力は、どこにあるのでしょうか。

「建設や警備の現場が好きで、そこに自分たちの商品やサービスで貢献し、働く人たちや業界全体の地位を高めたい。そして何より、社員が可愛くて、うちの会社で働くことでいい思いをしてもらいたい。そうした想いが先立って、突っ走ってきました。これからも経営者として熱くなれる、『生きているぞ!』と実感できるような仕事に挑み続けたいです」

この選択は会社と社員を守り、さらに成長させるため

この選択は会社と社員を守り、さらに成長させるため

会社譲渡を決断した背景には、事業を長く存続させ、社員を守りたいという想いが強くあった

会社譲渡を決断した背景には、事業を長く存続させ、社員を守りたいという想いが強くあった

社名のタイガーは、工事現場でよく見られる黄と黒の縞模様に由来。トラのロゴは中本氏が社長になってから設けた

社名のタイガーは、工事現場でよく見られる黄と黒の縞模様に由来。トラのロゴは中本氏が社長になってから設けた

写真:富本 真之 文:田嶋 章博

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