シェア7割のニッチトップ企業。会社の永続と人生設計を考え55歳で決断
譲渡企業情報
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- 社名:
- 高木ゴム工業株式会社(千葉県)
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- 事業内容:
- 食品用機械のゴムパッキン、靴底用ゴム等の工業用ゴム製品の製造販売
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- 売上高:
- 約8億円(2024年7月期)
- 従業員数:
- 60名
譲受け企業情報
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- 社名:
- 株式会社GWE(大阪府)
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- 事業内容:
- 工業用ゴム・樹脂製品の製造販売、金型販売
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- 売上高:
- 約20億円(2024年6月期)(グループ全体)
- 従業員数:
- 130名(グループ全体)
※M&A実行当時の情報
食品飲料プラント向けのゴムパッキンで国内シェア7割を誇る高木ゴム工業(千葉県習志野市)。創業70年を超える同社を牽引してきた3代目の松﨑 隆一社長は、55歳を迎えた2024年11月、自動車向けゴム製品を製造するGWE(大阪府堺市)に会社を譲渡しました。現在も取締役社長として経営に携わる松﨑社長と、GWEの毛利 直彦社長になぜM&Aを進めようと考え、両社でどんな未来を描いているのか伺いました。(取材日:2025年5月13日)
市場喪失にリコール。危機を乗り越える、家業を継いだ者としての覚悟
――事業内容と強みを教えてください。
譲渡企業 高木ゴム工業 松﨑社長: 千葉県で創業70年を超える工業用ゴム製品メーカーとして、主に、ペットボトルや紙パック飲料の殺菌工程で使用される特殊パッキンを製造しています。食品飲料プラント向けのゴムパッキンでは7割のシェアを持っており、コンビニの冷蔵庫に並ぶ大手飲料メーカーの飲料の6割程度が当社のゴムパッキンを使って出来上がっています。
譲受け企業 GWE 毛利社長: 当社も同じくゴム製品の製造を行っており、主力は自動車向けのゴム製品です。1年前にはM&Aにより新たに半導体領域にも事業を拡大しています。カメラ検査や生産ラインの自動化を進め、企業規模に対して高い技術力と生産効率を実現している点が強みです。中国、タイ、インドネシアに海外拠点も持っています。
――おふたりとも家業を継いで経営者になられたという共通点があります。これまでさまざまなご苦労もあったことと思いますが、厳しいときに支えになった指針のようなものはありますか?
松﨑社長: 私は3代目で家業を継ぐのは当然だと思って育ちましたが、いざ父から社長のバトンを受け継ぐと決めた時は、会社の存続が危ぶまれるほど厳しい経営状況でした。それでも命に関わる食品事業を下支えしているからには製品の供給責任がある。何としてでも会社を守らねば、という強い使命感で走り続けてきました。
一番厳しかったのは、大手企業が新規参入し、食品飲料プラント向けの仕事を根こそぎ持っていかれたときです。その時は打ちひしがれましたが、支えになったのは『まじめなモノ作りと開発力』という会社のスローガンです。この言葉を信じて諦めずに新たな材料開発を進め、5年かけて再び市場を奪還して今があります。
毛利社長: 私は2代目ですが、次男だったので家業を継ぐつもりはなく、設計事務所で働いていました。父から声がかかり初めて工場を見に行ったとき、IT化とは程遠いローテクな製造現場にカルチャーショックを受けました。これまでの設計技術を活かしてもっとハイテク化を進めよう。そう考えて入社を決断しました。
一番苦しかったのはリコール問題が起きたときです。市場回収からリペア部品の供給、損害賠償、裁判まで、3年近く暗闇の中をさまよいました。私は『利益は副産物』という考えでずっとやってきたので、最後までそれを指針に、経営者として進むべき道を正しく判断することに集中しました。絶望の中にわずかな光を探し続けるような毎日でしたが、あの経験を通じて経営者に本当に必要なことを学ぶことができたと思っています。
ものづくりへの姿勢に意気投合。トップ面談から3カ月で成約へ
――どのようなきっかけでM&Aを考え始めたのでしょうか?
松﨑社長:
食品飲料事業に関わる企業として、未来永劫続いていく会社でなければなりません。私は、30代の頃から「今は問題なくても、50代、60代になったときに会社をどうするか?」を常に考えてきました。娘が3人いますが、継いだ後の苦労を考えて一切関わらせてきませんでしたし、やはり経営はプロが担うべきだ、というのが私の出した結論です。
40代に入ってからM&Aを意識するようになり、55歳を目途に検討を始める人生設計を立てました。譲渡先に求めていたのは、事業内容と雇用の維持、そして経営者として価値観が合う相手であることです。
毛利社長:
長年、自動車業界向けのゴム製品を主力としてきましたが、第2の柱を半導体と位置づけて設備投資を進めつつ、半導体事業のM&Aも行いました。
続く第3の柱としてライフライン事業への進出を掲げM&Aによる譲受けを検討していましたが、半導体事業の立ち上げに専念していたところなので、正直急いではいませんでした。
そこに日本M&Aセンターから高木ゴム工業の紹介があり、非常に魅力的な企業でしたので一気に話が進みました。中小企業は経営者の人柄が会社そのものに強く反映されると思っていて、私が求めていたのは社長の人柄の良さです。
――トップ面談から3カ月で契約に至ったとのことですが、スムーズに進んだ理由、決め手を教えてください。
松﨑社長: 55歳を迎えたタイミングでメインバンクを通じて日本M&Aセンターを紹介してもらい、業績も好調だったのでGWEへの譲渡の話を進めました。経営者は孤独だと言われますが、これまで経営のことは一人で決断するしかありませんでした。ところが、M&Aのために担当コンサルタントとさまざまなデータをもとに話をしていくと、これまで誰にも相談できずにいた経営の悩みが整理され、自社を客観的に見つめ直す機会になったんです。これは大きなことでした。一方で、こんなにトントン拍子に話が進んでよいのかと不安や葛藤もありました。
いざGWEとのトップ面談に挑むと、ものづくりへのこだわりや考え方が近く「安心して任せられる」と確信できたのが決め手です。知識の豊富さや海外展開のスケール感も魅力で、年齢や境遇も近く、これ以上の相手はいないと思いました。もう1社とトップ面談をしたのですが、気持ちはすでに固まっていました。
毛利社長: 第3の柱のライフラインビジネスであることは大前提で、一番の決め手は松﨑社長のお人柄です。二人とも技術畑でとにかく話が合って、何よりもものづくりに真摯に向き合う姿勢に感銘を受けました。それは提示いただいた企業概要書からもにじみ出ていて、本当にクリアな経営をされていると確信できたのも大きかったです。
経営のパートナーを得て、提案されるアイデアにワクワクする日々
――M&Aから6カ月が経ちましたが、PMI(M&A後の統合プロセス)はどのようなことに取り組んでおられますか?
毛利社長:
PMIのため、日本PMIコンサルティング(日本M&Aセンターのグループ会社)に分析をお願いしたので、その分析結果をもとに松﨑社長と相談しながら未来に向けた環境構築を模索しているところです。事業の効率化や受注の拡大という面で相乗効果が実感できるよう、すでにグループのサプライチェーンを明確化し、両社の工場を有効活用すべく動き出しています。
また、GWEが得意とする量産体制や海外拠点を活かし、高木ゴム工業が製造する材料のグローバル展開も検討しています。経営の相談ができるパートナーができたことは心強く、グループとしての可能性が大きく広がっていると感じています。
松﨑社長: 当社ではOJTで教えることが中心でしたが、GWEでは自動化技術やノウハウを文書化して伝承する教育システムが存在します。毛利社長を講師に勉強会もスタートしており、新たなノウハウを共有してもらうことで社員の意識も確実に変わってきていると感じます。
私は現在も取締役社長として経営に携わっています。この先5年間は確実に関わっていきますし、必要であればその後も関わっていきます。毛利社長からは毎日のように案が出てきて、正直ワクワクして「やめられないな」と思ってしまいます。できれば健康な限りグループの成長に貢献していきたいです。
――日本M&Aセンターのサービスはいかがでしたか。
松﨑社長: 営業トークが巧みだと感じ、最初は少し警戒心もありました(笑)ただ、話をするととにかく真面目で、こちらの気持ちをきちんと考えて対応、発言してくれる、その真摯な態度に信頼できると確信がもてるようになりました。やんわりと肯定してくれる絶妙な距離感はすばらしかったです。
毛利社長: 私にとっては前回のM&Aに続く2回目でしたが、良いことや有利な条件だけを話すのではなく、相手企業の立場にも立って「どこまで譲歩できるか」という話もしっかりしてくれるので信頼できます。短期間で成約に至ったのは、担当者が優秀で信頼できたこと、そして戦略型M&Aの先駆者としてのノウハウを持っていたからこそだと思います。
会社の経営計画以上に自分の人生設計も大切に。悩んだら早めの相談を
――今後についてお考えをお聞かせください。
毛利社長: GWEは、自動車・半導体・ライフラインの3本柱と海外展開によりグループとしての骨格がほぼ整いました。これからはより“筋肉質な企業体”へと成長させていく段階です。松﨑社長と共にいかなる局面でもグループで乗り越えられる企業体を目指します。今は日々多くの新たなアイデアが生まれており、前向きな手応えを感じています。
GWEの経営理念は『継続』で、私の最大の責務は次の世代に“どんなバトン”を渡すかにあると思っています。5年後、10年後、経営のプロに来てもらえば機能する組織になっているか、製造業とゴムの専門性が必要な組織のままかでバトンを渡す相手は変わってきます。子どもはいますが親族承継にこだわらず、会社の成長に応じた最適な人材にバトンを託すつもりですし、できるだけ軽いバトンを渡すことが私の責任です。
――最後に松﨑社長から、M&Aを検討する企業へメッセージをお願いします。
松﨑社長:
55歳でM&Aを無事に終え、今は心底ほっとしています。会社の経営計画ももちろん大事ですが、私は人生設計が一番大事だと考えています。何歳までに何をしてどう生きていたいのか。会社を中心に考えるのではなく、もっと自分を中心に置いて考えるとよいと思います。
その中でM&Aという選択肢が出てきたなら、迷わず仲介会社に相談してみてください。
必ず成約まで進める必要はないですし、そもそも良い会社と出会える保証もない。5年、10年出会えない可能性もあります。まずは手を挙げなければ話は始まらないので、悩んでいるのならぜひ一歩踏み出してほしいです。
コンサルタント戦略営業部 マネージャー 河内 孝裕(高木ゴム工業株式会社担当)
松﨑社長は大変な状況で先代から事業を承継され、その後ライバル大手企業の脅威にさらされながらも、愚直な研究開発とものづくりの姿勢を貫き、高木ゴム工業を成長させました。一方、松﨑社長は、娘様に同じ苦労をさせたくないというお悩みや、技術的な承継で課題を感じていました。毛利社長と出会い、トップ面談や工場見学を重ねる中でお互いをリスペクトし、楽しそうにものづくりの話をされる姿を拝見し、企業同士のシナジーだけでなく社長同士という観点でもベストマッチだと確信致しました。
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※役職は取材時法人チャネル 東日本事業法人4部 吉村 拓馬(株式会社GWE担当)
本件は事業承継の課題解決のみならず、食品飲料業界にとっても、事業の存続と発展を目指す両社の成長戦略にとっても、非常に意味のある資本提携でした。
ものづくりに対する真摯な姿勢が共通しており、お相手を尊重する姿も同様で、本当にベストマッチな組み合わせでした。 GWEグループの経営理念である『継続』を実現するために新しい事業に挑戦され、自動車の事業に半導体・ライフライン事業を加えて「3本の矢」が揃いました。ご両社の益々の発展と永続を祈念しております。