秋葉原のメイドカフェが総合エンタメグループへ参入。M&Aから10年で売上5倍、客数30万人から80万人に
譲受企業情報
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- 社名:
- インフィニア株式会社(東京都)
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- 事業内容:
- メイドコンセプトカフェ運営
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- 売上高:
- 約6億円
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- 従業員数:
- 245名(社員22名、アルバイト233名)
譲受企業情報
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- 社名:
- 株式会社スペースシャワーネットワーク(東京都)
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- 事業内容:
- コンテンツ事業
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- 売上高:
- 約105億円
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- 従業員数:
- 181名、臨時従業員40名
※情報はM&A実行当時
※本記事は、2026年3月末発行の日本M&Aセンター広報誌「MAVITA」VOL.7からの転載です。
「MAVITA」へのご感想をお寄せください。アンケートにご回答いただいた方の中から抽選でご希望の商品をプレゼントいたします。(応募締切:2026年6月30日まで)
2004年に生まれたメイドカフェ『あっとほぉーむカフェ』。今や秋葉原・大阪・名古屋に13店舗、650名ものメイドを有し日本最大規模を誇ります。運営会社・インフィニアの躍進の陰には、2016年にM&Aで親会社となったスペースシャワーネットワークの存在がありました。M&Aから10年で約5倍もの売上増を果たした軌跡とは?
子どもからインバウンドまで。メイドカフェ文化の発信地
写真左:譲渡企業 インフィニア株式会社 代表取締役社長 深沢 孝樹さん
(総務職から転じ、実務の全貌を掌握。厚い信頼を得て事業を率いる)
写真中:譲渡企業 インフィニア株式会社 レジェンドメイドhitomiさん
(代表と共に会社を支えるキャリア20年以上のレジェンドメイド)
写真右:譲受企業 株式会社スペースシャワーネットワーク 代表取締役会長
スペースシャワーSKIYAKIホールディングス株式会社 代表取締役共同社長
林 吉人さん(音楽を軸として、サブカルチャー等へ多角的に事業を展開)
「おかえりなさいませ!ご主人様♡」
独特のあいさつに迎えられてカラフルな店内へ。飲食を楽しみながらメイドたちの振る舞いに“萌え”る―。
2000年代初頭、東京・秋葉原で花開いたメイドカフェは日本を代表するユニークな飲食店です。日々老若男女が訪れるのはもちろん、インバウンドの観光スポットとしても定番になっています。
中でも秋葉原だけで8店舗持つ『あっとほぉーむカフェ』は老舗中の老舗。2004年に不動産や飲食を展開するリンクアップが新規事業として立ち上げ、のちに子会社のインフィニアが運営を手掛けるようになりました。
そして2016年、日本最大級の音楽専門チャンネル「スペースシャワーTV」で有名なスペースシャワーネットワークとM&A。今は同グループの一員です。スペースシャワーネットワーク代表取締役会長・林吉人氏は「当初、日本M&Aセンターから『あっとほぉーむカフェ』の運営会社を勧められたとき、すぐにはピンとこなかったんですよ」と言います。同社は「スペースシャワーTV」の他、大型音楽フェスの企画運営など音楽・コンテンツ関連が事業の柱。メイドカフェは遠く離れた全くの異業種だったからです。
「ですが実際に店舗やイベントに足を運んで、すぐに認識が変わりました。ものすごくポテンシャルのある会社。我々が経営に入ることで、大きく伸びるお手伝いができるのではないかと考えたのです」(林氏)
予想は的中しました。
M&A前、『あっとほぉーむカフェ』の来店客数は年間30万人ほどでしたが、現在では80万人に増加。売上高に至っては約5倍にまで増えています。
インフィニア現社長で、以前から『あっとほぉーむカフェ』の代表として運営を担っていた深沢孝樹氏は振り返ります。
「最初は漠然とした不安がありましたが、運営方針やスタイルを尊重していただけたおかげで、全くと言っていいほど混乱が起きませんでした。むしろM&Aで経営基盤が盤石になり、事業に集中できたことは推進力になりましたね」(深沢氏)
相談相手ができたことで意思決定の自由度も格段に上がった
うなずきながら話を続けるのは前インフィニア社長で現CBO(チーフブランディングオフィサー)、そしてレジェンドメイドでもあるhitomi氏です。
「私たちを信用して任せてくれたスペースシャワーネットワークに“恩返ししたい”思いすらもありましたね」(hitomi氏)
不安もあったけど昔と今で変化は歴然恩返しがしたい
まったく違う業界だからこそ、「口出ししない」と決めていた
そもそもスペースシャワーネットワークがM&Aを検討していた狙いは「多角化」でした。
約30年の歴史を持ち、東証スタンダードにも上場していますが、事業は音楽関連の「一本足打法」。事業のフィールドを広げることを狙い「エンタメ領域で、現業の音楽業界とは隣接しない“飛び地”のような事業でもいいので“面白い会社”」の譲受を考えていました。
「インバウンド市場も視野にあった。だから日本M&Aセンターにはクールジャパン、ポップカルチャー、アニメ、ファッションなどのキーワードから良い企業があれば紹介をとお願いしていたのです」(林氏)
同じころ、インフィニアの元親会社・リンクアップはメイドカフェ以外の事業に重きを置く経営判断を進めていました。そこで日本M&Aセンターを介してM&Aが成立した、というわけです。
当時、スペースシャワーネットワークの役員だった林氏は、インフィニアの社長として経営に参画(現在は取締役会長)。加えて2名ほどコーポレート部門の人材がインフィニアに入りましたが、経営の先頭に立っていた深沢氏とhitomi氏は、そのまま残りました。
「親会社とはいえ、畑の違う異業種。そんな人間が土足で入ってきて口出ししたら腹立たしいだけですから。現場は2人に任せようと決めていました」(林氏)
事業会社同士のM&Aだからこその細やかな判断もあったに違いありません。
業界をリードする強い競争力と発展するポテンシャルがあった
メイドの質まであげた親会社の「信用力」と「安心感」
一方の深沢氏たちは「ものすごい安心感を得られました」と振り返ります。
「当時は30代前半。経営判断が重く、悩むことも多かったときに、経営者として実績のある林さんが週一度は経営会議に参加してくれた。ずいぶんと気持ちがラクになったし、意思決定がうんと早まった気がします」(深沢氏)
ことさら安心感を強めた理由は、資金面で余裕が出てきたこともあります。メイドカフェという稀な業態だったこともあり、常連客も売上も多かったにもかかわらず融資には苦労していたそうです。
しかし、上場企業へのグループインで得たブランド力・信用力が状況を一変させます。手狭だった本社オフィスの移転や新店舗開発などの投資資金をM&A後は親会社からスムーズに借り入れられるようになったのです。それまで秋葉原のみでの多店舗展開だったところから、大阪、名古屋などにも開店。攻めの経営に転じました。
「資金面もありますが、林さんに背中を押されたところもあります。お金と時間をかけて地方からお越しいただくお客様にもっと身近に楽しんでいただきたかった思いもありましたしね」(深沢氏)
また信用力は、メイド採用の底上げにもつながります。メイド志望者はもともと多かったのですが、同時に「いかがわしい店では?」と親御さんの一声で採用中止になるケースもままあったそうです。
「しかし、親会社の社名を伝えると、そのネームバリューから『ならば安心だな』と親御さんの印象が大きく変わりました」(hitomi氏)
もちろん他の社員も同様で優秀な人材を集めやすくなり、サービス含め、業務全般のレベル向上にもつながりました。
こうしてM&Aによって、業務の規模と質、その両輪を大きく回すことに成功。『あっとほぉーむカフェ』は売上と利益、そして存在感を高めていきました。
「経営方針としてグループ企業とのシナジー創出を無理強いはしていませんが、広い意味で同じエンタメ領域で事業をしているので、自然発生的に事業連携が生まれています。それらもさることながら、深沢さんやhitomiさんのような若い経営者が日々前を向いて突き進んでいる姿は、グループの役員や従業員に大きな刺激を与えているのは間違いない。それこそ今回のM&Aで得られた最大の価値だったのかもしれないですね」(林氏)
一見、全く交わらなさそうな3人。しかし『あっとほぉーむカフェ』とメイドカフェカルチャーの可能性にかける思いは同じだ
世界観にこだわってきた店舗。洋館さながらの雰囲気が客をもてなす
写真:富本 真之 文:箱田 高樹