東南アジア企業4社を譲受。「顧客を買う」M&Aの成功要因

ダイナパック株式会社(愛知県)

譲受企業情報

  • 社名:
    ダイナパック株式会社(愛知県)
  • 事業内容:
    段ボール、紙器、軟包装材および紙製緩衝材などの包装資材の製造、販売
  • 従業員数:
    2,281名(2024年12月連結期)、653名(2024年12月期単体)

愛知県名古屋市を拠点に段ボール、紙器、軟包装材および紙製緩衝材などの包装資材の製造・販売を行うダイナパックは、2005年に設立された会社です。2006年から本格的に海外M&Aに乗り出し、これまでにベトナムを中心に東南アジアの企業4社を譲り受けました。齊藤光次社長(写真左)に海外M&Aの目的と勘所についてお話を伺いました。(取材日:2025年10月29日)

国内需要の減少を予測し、海外M&Aを成長ドライバーに位置づける

――はじめにダイナパックの業務内容や特徴を教えてください。

譲受企業 ダイナパック 齊藤様: 弊社は2005年、大日本紙業と日本ハイパックが合併して誕生した会社です。段ボール、紙器、軟包装材や紙製緩衝材といった包装資材の製造・販売を行っています。私どもの製品はどうしても価格競争に巻き込まれやすいのですが、それでは先がありません。そこで、製品の設計段階から参画する能動的なアプローチと、商品の特性に合わせた設計力によって、顧客との信頼関係を築くことを意識しています。2025年には合併から20年の節目を迎えました。地域密着で顧客と社会に貢献し、その地域で最も愛されるパッケージング企業となることを目指しています。

――海外でも事業を展開され、現在までに海外M&Aを4社経験されています。海外進出や海外M&Aを考え始めた経緯について教えていただけますでしょうか?

齊藤様: 主要顧客である日系企業が生産拠点を東南アジアに移したため、その事業をフォローすべく出て行ったのが海外進出の理由でした。ところが、顧客がさらに人件費の安い地域を求めて中国に移ってしまいました。私たちの事業は設備投資が大きいので簡単に拠点を移すわけにはいきません。そのような経験から日系企業一辺倒でなく、進出先のローカル企業や非日系企業も取引先として積極的に開拓していくべきだと方針転換したのです。

また、残念なことに国内企業に以前ほどの勢いがないことも海外進出に力を入れている理由の一つです。日本の少子高齢化や製造業の海外移転も考えると、国内の段ボールの需要もこれまでのように右肩上がりとはいかず、いずれ頭打ちになると予想しています。永続的に企業が発展するためには伸びる市場で戦うのが一番です。そこで、海外M&Aを成長ドライバーの一つとして位置付けています。

弊社は今後10年以内に「独立系段ボールメーカーとしてNo.1になる」という目標を掲げており、これを達成するためにはオーガニックによる成長だけでは不可能で、M&Aなどレバレッジによる成長が不可欠です。2024年〜2026年の中期経営計画でも「M&Aの積極的な実施」と「国内・海外の生産拠点を拡充」を掲げて取り組みを進めており、3年間で135億円のM&A資金予算枠を設定しています。

現地企業の開拓が苦手な日系企業にとって、M&Aは効率的に事業拡大できる手段

――M&Aのメリットとしてよく「時間を買う」という表現が使われますが、齊藤社長は「顧客を買う」とおっしゃっていますね。

齊藤様: ゼロから工場を建てて従業員を採用・育成し、顧客を一から開拓していては、時間も労力もかかり、事業が軌道に乗るまでは赤字も覚悟しなければなりません。しかし、M&Aなら時間を買うと同時に顧客も手に入れることができるので、効率的に事業を拡大できますし、成果が出るのも早くなります
ダイナパックも含め、日系企業は非日系企業を開拓するのは苦手です。たとえば、私どもが譲り受けたベトナムのローカル企業には、既にサイゴンビールやアメリカのペプシコ社といった顧客がありました。これらの企業を私たちが一から開拓するのは至難の業です。

――最初の海外M&Aは2006年、ベトナムの企業でした。どのような経緯で始まったのでしょうか?

齊藤様: 当時、「チャイナ・プラスワン」の受け皿として最も人気のある国がベトナムでした。ベトナムの人は勤勉で真面目です。また、ベトナムの成長スピードは他のASEAN諸国と比べても群を抜いていましたから、段ボールや包装材の市場としても非常に魅力がありました。そこで、弊社の顧客である日系企業の皆さんに現地企業の段ボールや包装材のクオリティについてヒアリングをさせていただいたところ、「NEW TOYO」という会社が群を抜いてレベルが高いことがわかりました。そこで「組むならここしかない」との思いでNEW TOYOのオーナーとお会いしたところ意気投合し、トントン拍子に話が進んだのです。

――直近のM&Aでも日本M&Aセンターの仲介でベトナムの2社を子会社化されています。

齊藤様: 2024年にラベルフィルムや食品用フィルムなど、軟包装材の製造・販売を行うVietnam TKT Plastic Packaging Joint Stock Company(以下、TKT社)を、2025年には段ボールケースの製造・販売を行うHoang Hai Vietnam Packaging Joint Stock Company(以下、Hoang Hai社)を子会社化しました。競合もいたのですが、弊社を選んでいただいた決め手は意思決定スピードの速さだったと伺っています。現地では日系企業は意思決定が非常に遅いというイメージが強いのですが、弊社は比較的速いので、その点を相手方が評価してくださったようです。スピードを高めるためには、交渉現場で即決できるように社内のコンセンサスを得ておくことが重要です。

――譲り受ける企業を決める上で重視していることは何でしょうか?

齊藤様: 譲り受ける企業の何が欲しいのかを明確にした上で、100%のオーナーシップを取るか、譲渡企業の元オーナーに一部株式を持ってもらうかの判断をすべき、ということです。個人的には合弁会社設立ではなく、100%子会社化するのが一番良いと考えています。最初の海外M&Aでは持株比率51:49のマイノリティ出資で、取締役の数を同数にしてスタートしたのですが、意見のすり合わせが非常に難しかったからです。

TKT社のケースでは、弊社が株式の90%を取得して子会社化し、創業者である譲渡オーナーにCEOになっていただきました。この方がいなければ仕事が回らないというほど能力のある方だったので10%は株を持っていただき、経営への関与をお願いしました。また、Hoang Hai社は段ボール製造・販売が主な事業ですが、それ以外にも興味深い事業を手掛けています。関係性が突然切れないように20%の株を持っていただき、さらに連携を進めていきたいと考えています。

――デューデリジェンス(監査、DD)のポイントはありますか?

齊藤様: 法務DDと財務DDは外部に委託し、事業と製造技術のDDについては自社で対応しています。簿外債務や法律違反がないのは当たり前のこととして、それ以外で特に注意しなくてはならないのがコンプライアンス違反です。たとえば、工場を造ったときには法律に適合していたのに、突然法律が厳しくなって不適合になるケースがあります。現在の環境規制を遵守しているかどうかを確認しないまま譲り受けると、M&A後に私たちがその負担を負うことになります。そのことを認知しているのと認知していないのとでは大違いです。環境DDは、法務DDをお願いしている法律事務所に依頼しています。現地にも拠点を持つ経験豊富な事務所なので安心していますが、自社でも注意して見ておかなければと思っています。

譲渡企業の良さを残すため日本人の派遣は最小限に

――海外M&Aの20年の経験からPMI(M&A後の統合プロセス)で注意していることはありますか?

齊藤様: 「ダイナパック流をそのまま持ち込まないこと」です。以前譲り受けたマレーシアの企業では、日本人をたくさん送り込んで「ダイナパック流」に変えてしまい、せっかくの良さをなくしてしまった苦い経験があります。譲渡企業はすでに現地のやり方で成功していますから、できるだけ現地のやり方を尊重して日本人の派遣も最小限にしています。その代わり、私どもは財務とコンプライアンスをしっかり押さえる「CFO経営」に徹することを心がけています。

また、私どもの海外事業の目的も日系企業のフォローから「顧客を買う」ことにシフトしていますから、日本人が出しゃばらないほうがうまくいくと考えています。たとえば、ベトナム企業の営業のインセンティブは相当高いので、営業担当は全力で新規開拓してくれます。ハノイの工場の最大の顧客はサムスン電子ですが、開拓したのはローカルの営業担当です。
ただ、TKT社は輸出入が多いので、複数の外貨での財務管理が必要です。外貨管理についてはもっと日本側がサポートしなければならないと考えています。また、生産技術は日本に一日の長がありますので、生産面を熟知した人を含めて2名の日本人を派遣して支援しています。

――今後の海外M&A戦略についてお聞かせいただけますでしょうか?

齊藤様: しばらくは「ベトナムでパッケージといえばダイナパック」と言われるようなドミナント的な立ち位置を築くことに集中していきます。経営資源が分散しすぎてロジスティクスが長くなりすぎると、自社のリソースが足りなくなって失敗する恐れがあるからです。
だからといってベトナム以外の情報をシャットアウトしているわけではありません。ベトナムに集中しつつ、複眼的に次の成長の一手となる国を見定めていきたいと思っています。

――海外M&Aを検討する経営者に向けてのアドバイスをお願いします。

齊藤様: 先にお話しした持株比率も大事なのですが、もう一つ重要なのは撤退基準を必ず事前に決めておくことです。債務超過がこれだけ続いたら撤退の検討に入る、などと基準を決めて退路を断ってチャレンジする。そうすれば判断を先延ばしにして損失が拡大することは避けられます。
また、海外では突然環境規制が変わり、一気に日本の基準より厳しくなることもありますので、大使館や領事館、日本商工会議所、グローバルなネットワークを持つ商社、銀行など、できるだけ多くの関係先から情報収集し続けることが大事だと思います。
最後は、オーナーとの相性です。どれだけ良い条件でも「この人とは絶対合わない」というケースもありますので、その直感は大事にしたほうがよいと思います。

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