Think Owner's by Nihon M&A Center Inc.

竹内直樹の『成長戦略型M&Aの幕開け』

Think Owner'sプロジェクトリーダー竹内による、日々オーナー様と向き合う中で感じたこと、ぜひお伝えしたいこと、オーナー様の悩みなどを綴る。

経営者にとって「株価より大事なこと」

2018年1月17日

「Think Owner's」プロジェクトリーダーの竹内です。
年末、飛行機に乗ってある地方へ行ってきました。

その日は、ある会社の取締役会に出席するのが目的でした。
その会社は、株式上場(IPO)を目指したこともある地方の名士、優良企業です。
取締役会には、グループ会社を含めた主要役員が集まります。そこでプロジェクトの進捗報告をする日だったのです。

上場を目指していたため、その会社の株主は約50名まで分散していました。
経営陣の平均年齢は60歳を超えており、次世代へのバトンタッチも必要になっています。
事業拡大重視の戦略だったため、非効率な部分や、本業とは全く関連のないビジネスが足を引っ張っている状態でもありました。また、一番の悩みは、本業が斜陽産業であることでした。

株主整理”“組織再編”“次世代へのバトンタッチ”そして“成長戦略” ― これら全てが今回のプロジェクトのミッションです。まだプロジェクトはスタートしたばかりで、その日は初めて全員が顔をそろえる、いわばキックオフミーティングの意味合いもありました。

約15名の役員陣に対して、すべての前提となる「株式評価」を税理士メンバーが説明し始めました。
役員の方々は株価評価や株式譲渡・M&Aには詳しくないとお聞きしていたので、できるだけ丁寧に。
10分ほど経過したときだったでしょうか・・・。
突然、会長が少し声を荒げて、話をさえぎられたのです。

私はそんなことを聞きたいんじゃない

「これから、うちのグループがどうなっていくか、どうなって行けばいいかが知りたいんだ」と。
その場は一瞬、シーンと静まり返りました。
私は「しまった、やっぱりこうなったか!」と思うと同時に、ミーティングをこの先どう進めたらいいか、高速回転で考えました。

今回の報告のために、私たちは綿密な事前ブリーフィングを行っていました。完璧な準備をしていたのです。
プロジェクトのメンバーはやっぱり優秀だな、と私は感じていました。
株式を買い集めるのにも、選択と集中で不要事業を切り離すのにも、そして次世代にバトンタッチするのにも、そして、誰かと組んで成長を考えるのにも、“株式譲渡”が必要であり、そのためには適切な“株式価値”を把握することが必要です。
そのため、“自社グループの客観的な価値を知っていただくこと”はとても大事なのです。

―客観的な立場だからこそ、オーナーの想いをくんで

でも、それを理解できるのは、我々が専門家や外部の第三者、つまり、客観的な立場だからです。
オーナー経営者は、いままで築いてきた歴史や、創業者や先代やご自身の想いを大切にされています。
数々の経営者の方とお会いするなかで、そのことを私はよく感じていましたし、当然、プロジェクトのメンバーもそのことを理解していました。
だからこそ、ほんの少しの懸念を感じていました。 「もしかしたら、株式評価から説明するのは、適切でないのかもしれない」、と。

「私はそんなことを聞きたいんじゃない」
その懸念が現実となった瞬間でした。

私はその万が一のために用意していた資料をすぐにお配りし、その地域の名士としてがんばってこられた会社の歴史や、オーナー経営者である会長が自社の事業に対して誇りと愛着をもっていて、従業員や取引先をとても大事に思っていることなどをきちんと理解していることをお伝えしました。
そして、そのうえで、会社が今後も存続・発展して、従業員の雇用を守り、従業員に未来を与えるためにはさまざまなステップが必要であり、今日はそのファーストステップなのだとご説明しました。

「我々はあまりこういったことに詳しくない。成功事例や失敗事例も聞かせてくれないだろうか。」

いままで数多くのお手伝いをしてきたので、事例は山ほどあるはずなのに、極度の緊張状態だとなかなか咄嗟にはでてこないものですね。過去の記憶を呼び戻すのに、必死でした。あまり流暢には話せなかったような気がします。
それでも、いくつかの成功事例や失敗事例をご紹介し、組織再編も事業承継もM&Aも、いずれも定型のフォーマットなどなく全てがカスタマイズなのだということをお伝えしました。

―会長の笑顔で、気付いたこと

当社の説明を一通り聞き、会長は全てご納得されたようでした。
その証拠に、取締役会が終了した後、会長は自社製品で作成した広告を私に見せてくださり、約30分間、ずっとうれしそうに自社の製品や広告作成の背景を語ってくれました。

その笑顔を見て、私はハッと思い出したのです。 私が始めてその会社を訪問し、工場見学をさせていただいた後の会長を。
事業、従業員、取引先、金融機関に対する想いをとても楽しそうに話してくださったのですが、そのときの会長がまさに同じ笑顔だったのです。

経営者イメージ

私たちは専門家です。
時には冷静に、客観的にアドバイスしていかなければなりません。
でも、それは全て会社や従業員、そして経営者の皆様のことを考えればこそ、なのです。

次に会長にお会いするのは1ヶ月後です。
また同じ笑顔が見られるよう、がんばらなければ、と思っています。