Think Owner's by Nihon M&A Center Inc.

竹内直樹の『成長戦略型M&Aの幕開け』

Think Owner'sプロジェクトリーダー竹内による、日々オーナー様と向き合う中で感じたこと、ぜひお伝えしたいこと、オーナー様の悩みなどを綴る。

Brexitの衝撃! 急速なグローバル化で大きく変化しつつあるドイツM&A市場

2018年2月14日

「Think Owner's」プロジェクトリーダーの竹内です。
先日、ドイツで視察してきました。今年は日本でも大寒波が押し寄せていますが、ドイツも連日の氷点下。お客様にも「この時期にドイツですか?」と驚かれるのですが、本当に寒かった…。

今回は、フランクフルトに入り、ロイトリンゲン、シュトゥットガルト、ローテンブルグ、ネルトリンゲン、ミュンヘンと、ドイツ南部の都市を巡り、ドイツの産業やM&Aの現状を目で見、生の声を聞いて感じてきました。

―グローバリゼーション、デジタル化によって、世界は大きく、そして想像よりも速く変化している

焦りを感じたのは事実です。と同時に、「成長戦略型M&A」「欧米型M&A」が活況となっていることを強く感じました。

この進展要因のキーは、イギリスのEU脱退、「Brexit」(※Britain(英国)とExit(退出する)を組み合わせた造語)。
イギリスから撤退した企業の積極的な誘致により、特に、グローバリゼーションが加速化していたのです。

今回は、肌で感じてきたドイツの最新情報をお届けできればと思っております。

経営者イメージ

最初に降り立った都市は、フランクフルトでした。ここは、ドイツの第二の首都と言っても過言ではない、非常に経済の発展した都市です。先ほど触れたイギリス撤退企業の誘致先が、フランクフルトとなっているのです。
元来、地理的にドイツはEUの中心に位置し、かつ自動車産業に支えられたEU経済の中心でもありましたが、さらにこの誘致によりビジネス界の公用語は完全に英語、急速なグローバル化を遂げているのです。
ですから、非常に町は活気にあふれていました。近年では起業率も増えてきているとのことでした。

さて、このドイツでは今、M&Aに2つの潮流がありました。 日本と同じ課題の中から生まれた「事業承継型M&A」のトレンドに加え、急速な経済環境の変化で発達した「欧米型M&A」のトレンドです。

① 事業承継型M&A

ドイツはもともと、真面目な国民性が日本とよく似ているといわれてきた国です。
実は国土面積も日本とほぼ同じです。 しかしそれだけでなく、ドイツと日本は、社会環境や、企業においても類似点が多くあります。

■社会環境 「人口減少による生産年齢人口の減少」

これは、先進国のほとんどが抱える課題ではありますが、ドイツにおいても深刻でした。
現在の人口は約8200万人。これが2060年には7000万人程度まで減少し、少子高齢化が一気に進むといわれています。
その年代構成を見てみると、ドイツの人口ピラミッドは、日本と同様の「釣鐘型」をしており、記事によれば2025年には生産年齢が全体の63.6%、65歳以上の割合が22.8%となり、65歳以上の老人を生産年齢の2.79人で支えなければならない状態になると予測されています。ドイツが難民を受け入れている理由の一つにはこうした背景があるものと考えられます。

ちなみに、同様の統計で、日本は65歳以上の老人を1.87人で支えることになるといされているため、日本がどれほど深刻な状態であるかが、改めて浮き彫りになりました。

■企業 「ファミリービジネスが大半を占めており、事業承継問題に直面している」

ドイツは“ファミリービジネス”が大半を占めている、という点でも日本と非常によく似ているのです。
ドイツでは78%が有限会社、1%が株式会社、残りが個人事業主という構造になっており、スモールビジネスがほとんどを占めています。

自動車産業に支えられる下請け構造とともに、大都市においても“下町”が共存していることからもそれは感じ取れました。 例えば、最初に訪れた都市フランクフルトでは、国際金融、見本市都市としての活気があり、ドイツには珍しく100m以上の高さの構想ビルが林立する都会です。そんな大都市の間を縫うように、ゲーテハウスや大聖堂、レーマー広場など歴史的観光名所、博物館・美術館が多く存在し、名物アップルワイン酒場の並ぶ古い下町ザクセンハウゼンが存在しています。

ファミリーによるスモールビジネスにおいては、時代が経つにつれ、事業承継問題が顕在化してきます。ドイツでは、事業承継方法として、親族承継だけではなく、自社の存続と成長を狙いとした第三者承継が多くなってきています。数字で見ていきましょう。ドイツ国内の事業承継アンケートによれば、家族への承継が56%、第三者への承継が48%、MBOが43%、清算が6%になっているとのこと。日本国内においても同様の傾向で、20年以上前は親族内承継が約9割だったところ、近年では約5割程度にまで減少し、MBOやM&Aが増加しています。

とはいえ、まだ過半数が親族内承継です。会社は “ファミリー”が繁栄するための手段という認識は、ドイツも日本も共通しているのかもしれませんね。

② 欧米型M&A

冒頭に触れたように、ドイツは今急速なグローバル化を経験している国です。
スモールビジネス中心のドイツ企業にとって、この環境の変化に対して戦略を大きく見直す局面が、待ったなしで訪れているのです。

そこで、資本力のないスモールビジネスの経営者にとっての生き残りは、自社努力であるオーガニック成長だけではそのスピードに対応できなくなってきており、大手資本との提携とともに、ファンドも積極的に活用した戦略を取り始めていました。

これは、M&Aの潮流を類型化したものになります。 日本は今、事業承継型M&Aがピーク期を迎える中、業界再編型、そして成長戦略型への気づきというまさにM&A戦略の過渡期にあるといえます。

グラフ
出典:PRESIDENT ONLINE “後継者不足”に悩む会社を救う唯一の方法(竹内直樹)

一方、ドイツの場合は、前述した課題解決型の「事業承継型M&A」とともに、戦略主導型の「欧米型M&A」(ファンドも積極的に活用しながら、経営戦略としてのM&Aが非常に活況である状態を指す)の2つが同時に見られる状態になっています。

  • スモールビジネスが多く、これまでとは違う戦略をとらねばならない企業が多く存在すること
  • 経済発展で起業率が増加してきていること

この2つのトレンドが混在することによって、M&A市場は更なる激動を迎えていくことを感じました。

■日本とよく似ているドイツ。しかし、日本より一歩先の未来を見せてくれたドイツ。

当然、このグローバリゼーション、デジタル化に対応した戦略の必要性は、日本においても同様に起こりえます。
この視察を通して、日々変化する経済環境を読み、最善な形で企業が存続し、発展していくために常にアンテナを立てておかねばと改めて誓いました。