東証一部上場 証券コード 2127
No.2127

中堅・中小企業のM&A仲介実績No.1

future フューチャーVol.8 (2015.5発行)

海外戦略―M&Aによるアジア進出・撤退―

法務的観点から

ASEAN主要国(タイ、インドネシア、ベトナム)におけるM&Aの留意点

三宅坂総合法律事務所
弁護士 松本 甚之助 氏

今回は、ASEAN主要国における現地法人M&Aの留意点を概説する。本稿では、比較的数多くの実例がみられる非上場企業の買収を念頭に、株式・持分取得と外資規制上の主な留意点を以下に記載する。
ASEAN諸国等における国外企業による資本提携など買収案件では、現地進出自体のビジネス上のフィージビリティの検討に加え、外資に対するライセンス等の規制、雇用法制・雇用慣行や税制面での検討が重要である。
なお、以下の記載は、留意点を網羅的に指摘したものではなく、他に検討すべき法規制上の論点も、これ以外に存在することを付言する。また、投資上の規制は折々改正されるので、M&A実施時点の規制をその都度確認する必要があることを申し添える。

タイ

株式取得手続の留意点

タイでは、株式譲渡契約書の締結と株式譲渡証書の作成の方法で株式取得を行う。株式譲渡証書には、譲渡人と譲受人の各署名者に1名以上の証人の署名が必要であり、この要件を満たさないと無効となる。株式譲渡後、対象会社は、新規株主リストを商務省(Ministry of Commerce)に提出する。タイは、他の2カ国と比べて、株式取得自体に関する手続的な規制は比較的少ないといえる。

外資規制上の留意点

タイには様々な外資規制があるが、最も重要な規制は外国人事業法(FBA)である。FBAでは、純粋な製造業以外を外国人が行うことは原則禁止しており、外国人が純粋な製造業以外の事業を行う場合、許可やタイ投資委員会(BOI)恩典の付与を受ける必要がある。一方、FBA上の外国人に該当しない場合、FBAの適用はなく、純粋な製造業以外の事業も上記の許可等を受けずに行うことが可能となる。FBA上の外国人とされる企業とは、要約すると外資比率が50%以上の企業である。例えば、以下の図1のような事例では、タイ人の資本が50%入っているにもかかわらず、いずれのタイ法人もFBA上外国人とされるなど、外資規制の適用判断には注意が必要である。
また、タイにおいては、外国人による土地の取得は原則禁止されている。土地法上、株式の49%超(50%以上ではない)を外資が保有するタイ法人は外国人に該当する。以上のことから、製造業以外の業種の企業や土地を保有する企業のM&Aの場合、日本からの出資は49%以下とすることが多く、このような法規制を適切にクリアする必要がある。

図1 タイ資本50%の法人でもFBA上は外国人とされる

インドネシア

株式取得手続の留意点

インドネシアでは、株式譲渡は、実務的には公証人が作成する譲渡証書による必要がある(公証人の役割が日本の制度とは少し異なることに留意)。その後、公証人作成の譲渡証書を会社に提出し、会社において株主名簿を書き換え、株主変更を法務人権省に届け出る。
インドネシアで特に注意を要するのは、50%以上の株式取得の場合である。50%以上の株式取得はインドネシア会社法上「買収」に該当するとされ、それ以外の通常の株式取得と異なる手続が適用される。必要な手続は大要以下のとおりである。
・対象会社の従業員全員に対する通知および買収概要の新聞公告
・株主総会の特殊決議(定足数:全議決権4分の3以上、決議要件:総会で行使された議決権の4分の3以上)
・株主変更についてインドネシア投資調整庁(BKPM)による承認
・譲渡証書に公証人の面前で署名
・法務人権省での登記および官報掲載
・対象会社の取締役による買収結果の新聞公告
なおインドネシア人(法人)が当事者となる契約は同国の言語法が適用され、インドネシア語が存在しない契約を無効とする裁判例も存在するため、契約書作成時にこの点に留意を要する。

外資規制上の留意点

インドネシアでは2014年大統領令第39号、いわゆるネガティブリストに記載のある分野は投資が制限されている。したがって、対象会社の事業がネガティブリストに該当するか否かの調査が必要となる。外資系企業(PMA)(100%インドネシア資本の会社(PMDN)以外は全て外資系企業となるため注意されたい)にはPMDNと異なる最低投資額・最低資本金が要求されるので、PMDNからの株式取得の際には注意が必要である。PMAには土地の所有が認められていない。そもそも、土地所有は個人または政府が認めた法人のみなので、PMDNを買収する場合には、土地の利用方法についても事前の検討が必要である。

ベトナム

持分取得手続の留意点

ベトナムでは、日本企業の現地企業買収の方法として2名以上有限会社の持分取得が一般的に活用されている。2名以上有限会社の持分の売却の際には、他の出資者に先買権が認められていることから、合弁当事者全員からの同意の取得が必要になってくる。また合弁契約については、法定記載事項の定めがある。

外資規制上の留意点

ベトナムには、投資禁止分野または条件付投資分野といった分野ごとに外資規制がある。ベトナムがWTOに加盟した際のコミットメントで、2009年1月からは流通分野(卸、小売り)への100%外資参入、2015年1月には飲食提供サービスへの100%外資参入が認められたなど段階的に規制が緩和されてきている。しかしながら、100%の外資参入が認められていない分野も未だ多く存在する。さらに流通業の例では、大規模小売店等の2店舗目以降の開店のためには、経済需要テスト(Economic Needs Test)をクリアする必要がある。その条件が不透明な部分もある等、実際の進出に際しては現地の取扱いの確認が必須である。
外国投資家がベトナムへの投資をする際には、投資証明書の取得・変更が必要である。現時点では、(1)投資金額が3,000億ベトナムドン以上か、(2)条件付投資分野への投資かによって、投資登録[(1)も(2)も満たさない場合]または投資審査[(1)または(2)のいずれかに該当する場合]の手続を経る必要がある。この手続は数ヶ月かかる場合もあり、スケジュールが予定どおり進まないことがままある。 また、事業登録証(Business Registration Certificate)あるいは企業登録証(Enterprise Registration Certificate) の変更が必要なのか、取得比率により異なるのかなど、同国内の地域ごとに当局の運用が異なる場合があるので注意が必要である。なお、2015年7月に施行予定の改正投資法により、投資証明書の取得が必要になる場合が明確になり、その発行日数も短くなるとされているが、今後の当局運用には注意が必要である。

結び

本稿では、現在の規制の下での株式・持分取得手続および外資規制の要点のみを紹介したものであり、この他にも雇用法制や税制といった重要な検討課題がある。特にASEAN諸国では頻繁に法改正や当局運用が変わる傾向にある。したがって、実際にM&Aを検討する際には、各手続の詳細や検討時に適用のある規制についてその都度確認する必要があることに留意されたい。
筆者が企業からASEAN諸国の現地法人との資本提携の相談を受ける場合は、常時、現地の専門家と連携のうえ、その時々の適切な現地情報の把握を業務として実施している。

三宅坂総合法律事務所 弁護士 松本 甚之助
三宅坂総合法律事務所
弁護士 松本 甚之助

2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&A、国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を多数取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所にて、ASEAN諸国(タイ、インドナシア、ベトナム、ミャンマーなど)や中国・インドなどにおけるM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。
【事務所概要】
上場企業、金融機関、その他各種企業、ファンド等のクライアントを中心に国内外の紛争解決、M&A等トランザクション、事業再生・倒産処理、コンプライアンス・リスク管理、国際法等の企業法務等全般を幅広く取り扱い、各分野において高度の専門性を有する各弁護士の知識とノウハウを活用してクライアントの利益に合致するリーガルサービスを提供している。急速に進展する日本とアジア経済の一体化、企業活動の国際的展開に対応するため、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールその他ASEAN諸国、インド等との企業の取引事業活動、M&A等の対応を多数実施している。

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