東証一部上場 証券コード 2127
No.2127

中堅・中小企業のM&A仲介実績No.1

future フューチャーVol.4 (2014.3発行)

業界再編スタート―調剤薬局業界の統合事例より

戦略的法務の観点から ―調剤薬局業界の経営統合事例より―

上場企業オーナー経営者の主要株式の売却について

三宅坂総合法律事務所
弁護士 山岸 洋

上場企業オーナー経営者の企業承継のためには、非上場企業とは異なる金融商品取引法(以下、「金商法」という)に基づき、株式公開買付け(TOB)によることが殆ど不可欠である。発行済み株式の3分の1超の株式の売買を伴うケースでは、オーナー経営者が予め特定の買受人(以下、「承継予定者」という)と相対で株式を売却する場合でも、TOBによることが金商法上必要になる。そこで、検討すべき実務上のポイントを、以下に説明する。なお、詳細な法律論は紙幅の関係上、本項では割愛する。

売却交渉の態勢

(1)オーナーによる承継予定者との売却交渉はそれ自体守秘を保ち注意深く行なう必要があることは当然である。不用意な情報漏えいが発生した場合の社内外の混乱、特に株価に与える影響、インサイダー取引のリスクを回避することは重要である。
(2) 売却交渉自体は、売手サイドのアドバイザーを選定して、適切な承継先の選定と妥当な売却価額の交渉を行なう必要がある。また、売却のプロセスは、会社法令、金商法令、取引所諸規則・ガイドラインに照らし、適切な手続を必要とするため、監査法人又は会計事務所及び法務アドバイザーである担当弁護士を選任して売手のアドバイザー共々適切なチームを組成することが不可欠である。

上場企業X社(発行済み議決権株式2000万株、会社の自己株式や新株予約権等の潜在株はない)のオーナー経営Yの保有割合が直接32%、その支配下にある資産管理会社15%の各割合で、承継予定者Z社は現時点の株式保有割合は0%。対象株式の直近3か月の平均株価が1株500円、時価総額100億円のケースを想定する。

<ケース1 過半数の保有割合を目指す場合>

Yの保有 株式割合は47%であるから、Z社は支配権確保のためにさらに3%超の株式を他の株主から買い付ける必要がある。TOBでは買付予定株式の上限を保有割合55%(1100万株)かつ下限を51%(1020万株)とし、1株650円(直近平均時価との対比で約30%のプレミアム、株式の買付予定が上限55%だった場合の必要資金71.5億円)と設定した。Yは、自らの株式の売却もTOBによる必要があり、その手続中で「応募契約」に従い株式を売却することになる。支配株式を確保するために市場で株主に株式売却を促したい場合、このようなプレミアムをつけることが通例である。もちろん最終的にTOBが実現できるかは、市場の他の4%以上の株主が応諾するかどうかによる。なお、仮にYの直接間接の保有株式が51%であるとすれば、もはや市場の他の株主から追加的に買い付ける必要は乏しいので、時価よりも低い価額で51%の株式のみを買い付ける、いわゆるディスカウントTOBという手法もある(この場合は、現実的に他の株主はあまりよい条件提示でないために、公開買付けに応じることは比較的想定しにくい)。
X社は、株式価額の公正さを専門家意見により根拠づけるとともに、手続の公正に関する法務アドバイザーの意見を入手するなどして、Z社によるTOB開始リリースに伴うX社の取締役会として賛同意見表明の内容を検討しておく必要がある。本件は敵対的買収又は現経営陣によるMBOのためのTOBとは異なり、オーナー経営者の行為が直接株主に利益相反するとまではいえないが、支配権移動を伴う取引であるので、株主の十分な理解を得るため、確立された実務指針によるべきである。

<ケース2 スクィーズ・アウト>

今度はZ社がX社を完全子会社化することを想定してみよう。ケース1の条件を変更し、TOBでの買い付け予定株式の下限が67%とし、それを充足するTOBの応募があった場合、Z社は応募した全ての株主から株式を買付けることで、株主総会の特別決議が可能となる株式保有割合をを確保できる。その後第2段階として、公開買付けに応募しなかった株主に対し会社法に基づくスクィーズ・アウトの手続で現金対価にて株主を退出させることで、Z社がX社を完全子会社化する。この場合、X社は最終的に非上場化され、その過程で少数株主もその意思にかかわらず退出を余儀なくされる。この様な状況においては、少数株主の利益が損なわれない手続が必要となる。具体的には、
(1)保有割合3分の2の確保を目標とする場合、買付けに応じた株主全員から義務的に株式を買付ける。
(2)実務上は、スクィーズ・アウトの手続(通常この実務は、「全部取得条項付種類株式」の活用により行なわれる)で退出する株主がTOBの条件よりも劣悪な条件での株式の喪失を余儀なくされること(いわゆる、強圧的2段買収といわれるもの)のないように、金商法・取引所諸規則により、厳格な手続や実体的基準が定められている。
このような市場における少数株主の保護のため、実務指針としてはMBOの場合と似た取扱いがなされている。いずれにせよ、保有割合3分の2以上の株式をTOBで買付けるためには株主に対し相当高額なプレミアムをのせる必要があると思われるし、第2段階のスクィーズ・アウトの手続中で少数株主が取得できる株式対価は、当初のTOB手続と実質的に同等である必要がある。

三宅坂総合法律事務所 弁護士 山岸 洋 氏
三宅坂総合法律事務所
弁護士 山岸 洋 氏

1983年東大法卒、1986年弁護士登録。1990年三宅坂総合法律事務所開設、パートナーとして現在に至る。企業再構築・再編、M&A、危機管理、不動産投資案件など企業の経営環境・ビジネスを深く理解し経済合理性を重視した周到なスキーム策定とM&A的手法の活用による交渉事案を得意とする。企業の実務担当者向けの講演多数
【事務所概要】
上場企業、金融機関、その他各種企業、ファンド等のクライアントを中心に国内外の紛争解決、M&A等トランザクション、事業再生・倒産処理、コンプライアンス・リスク管理、国際法等の企業法務等全般を幅広く取り扱い、各分野において高度の専門性を有する各弁護士の知識とノウハウを活用してクライアントの利益に合致するリーガルサービスを提供している。急速に進展する日本とアジア経済の一体化、企業活動の国際的展開に対応するため、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールその他ASEAN諸国、インド等との企業の取引事業活動、M&A等の対応を多数実施している。

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