東証一部上場 証券コード 2127
No.2127

中堅・中小企業のM&A仲介実績No.1

future フューチャーVol.2 (2013.9発行)

アジア戦略

戦略法務の観点から -ユニ・チャームによるミャンマー企業買収-

法務面での留意点

三宅坂総合法律事務所
弁護士 篠田 憲明 氏

はじめに

日本企業がアジア諸国に進出するにあたっては、進出(会社設立・M&Aを含む)のみならず、その後の事業展開や撤退を含む、事業のあらゆる場面に関する現地法制の検討が必要となる。多岐にわたり事案によって異なるが、紙面の都合上、検討点の概要のみを述べる。

進出の方法と考慮すべき規制

企業が海外に進出する方法は、事業内容、進出目的、進出先での会社法規による規制*1や外国投資規制*2等を勘案し、100%子会社(独資)や合弁会社等の方法から選択される。

外資による出資や外資への株式譲渡には、行政当局の承認が要件とされることもある*3

このような手続面や、税務上の観点、あるいは、後述する撤退の場面等を考え、現地法人の株式を保有するSPCの株式を取得する手法によってアジア諸国への進出を行うことも考えられる。
この他、進出に際しては現地の競争法(独占禁止法)や証券市場に関する規制の検討を要する事案もある。アジア諸国への進出にあたっては、各国に特有の規制等にも配慮を要する*4

事業展開・撤退で留意すべき規制

日本企業は、アジア諸国への進出の際、現地での事業運営のノウハウ・事業展開や外国投資規制等の関係から、現地のパートナーや現地での事業運営経験のある日系企業との合弁会社を形成することが多い。合弁会社の運営は、基本的には、現地の会社法規の定めに従い、各機関がその決議事項について決議要件に従った議決をして進めることになる。ただし、会社法規の定めは、構成員が真に希望するところを必ずしも反映しきれていない。そのため、合弁会社の形成にあたっては、機関設計、運営(決議事項や決議要件)、財務の管理、追加出資や貸付の条件等、日常的に生じ得る事項について、構成員間でお互いの意思をよく確認し、合弁契約書等の合意書面を作成し、その内容を実行することが望ましい。

合弁会社については、形成段階において、事業の撤退(解散・清算)についても、一定の合意をしておくことが望ましいと思われる。合弁会社の構成員の意思が対立して運営に支障を来す場合(デッド・ロック)等、合弁会社による事業遂行が困難になる事例も実際に珍しくない。

  • どのような場合を「デッド・ロック」とするか
  • そのような事態が生じた場合にどのような解決をするか(協議手続の流れや、株式の買取や解散の条件)
  • 清算手続をどのようにするか

このような取り決めが構成員間でなされていることによって、かえって深刻な対立を避けることにつながったり、デッド・ロックが生じた場合にスムースな解決がなされたりすることで、結果的に事業への影響を少なくすることも可能になる。また、このような撤退の場面を想定し、清算等に関する現地の法制を踏まえた上で、より撤退が容易な方法での進出を検討することも考えられる。

上記の点以外に、海外に拠点をもつ企業が現地法人に関して抱えることが多い課題とその対応の要点を別表に挙げた。

<別表>海外現地法人に多い課題と対応の要点

1.人事

  1. 就労上のルール(日本語版の雛形、現地労働法規の理解、ルールの修正)
  2. 現地カルチャーの理解
  3. 信頼できるHR責任者(外部委託も考えられる)
  4. 労働契約の締結(書面)
  5. 勤怠管理・警告
  6. 人事管理システムの確立(本社への労務関係情報の伝達)

2.経理

  1. 取引関係の把握
  2. 相手方(又は現地法人)の経理・仕訳方法の理解
  3. 契約・取引管理(新規、継続、終了)
  4. 予算の策定(年間・長期、期中の見直し、本社への報告)
  5. 原価モニタリング
  6. 現地会計事務所の採用(本社への経理関係情報の伝達)

3.トラブル・紛争

  1. 定期的に現地視察(様子把握、人の異動、インタビュー:従業員・責任者、その他定点監査、取引先確認)
  2. リモート・チェック体制(問題事案の伝達)
  3. 対応指針の周知・実行(取引先又は現地法人との協議)
  4. 結果報告・責任問題

4.その他重要事項

  1. 運営・管理(合弁契約、役員との委任契約、チェックリストの作成)
  2. 撤退(合弁契約、経営方針)

このうち、労働に関する事項は、法務の観点からも特に重要な検討点である*5

適切な労務管理を行うには、現地の文化・習慣への理解は勿論のこと、労働法制の正確な理解が求められる。また、現地法人に関する紛争については、現地での執行が可能な手段を採用して実効的な解決を図る必要がある。現地の司法・行政の状況も踏まえ、最終的な執行の場面を想定した検討が求められる。

なお、例えば、工場を運営する場合であれば不動産関連の法規を、知的財産に関する事業を行ったり商標をはじめとする知的財産を使用するのであれば知的財産関連の法規を、といったように、それぞれの事業に関連する主要な法規制の調査・検討も必須である。

現地法規制の確認方法

アジア諸国においては前述のような法制度の整備が進行中であることも少なくなく、最新の情報の確認・検討を適時に行う必要があることにも留意が必要である。また、規制に関する法律には明記されていない実務上の解釈・運用も存在する。具体的な情報については、現地の法律事務所に確認をすることが確実だと思われる。
しかし、アジア諸国の法律事務所にはコネクションを有しない企業も多い。また費用面での懸念から、現地の法律事務所への照会を躊躇することもある。そのような場合には、日本の法律事務所を通じ、必要に応じて現地の法規制を予算内で確認するということも検討に値する。

結び

アジア諸国をはじめとする海外では、文化や価値観が日本とは大きく異なることが少なくない。アジア諸国には、海外の企業も既に多く進出しており、社会が大きく変容していく中で、協議・交渉・合意のプロセスの重要性は更に高まっている。それぞれにとって大切なものを尊重しつつも、事業上必要な事項については率直に協議を行い、望ましくない想定についても相互の認識を確認しておく必要性も、また高まっているものと思われる。

*1 例えば、ミャンマーでは、合併その他の組織再編に関する法規定が存在せず、M&Aの手法としては、株式譲渡、株式割当、事業譲渡に限定されている。
*2 外国投資家が投資を行う際に遵守すべきルールや得られる優遇策等を定めたもの。例えば、ミャンマーでも、2012年11月に新外国投資法が、2013年1月にその施行細則が、それぞれ制定されている。
*3 例えば、ミャンマーでも、外国投資法に基づくミャンマー投資委員会の許可を取得している外資会社の株式を外国人に譲渡するには、同委員会の許可を要する。
*4 例えば、ミャンマーへの進出では各国の経済制裁の影響の検討が必要になることもある。
*5 例えば、ミャンマーでは、労働法規が多数存在し、規制が業種毎に異なる法律でなされている点もある。

三宅坂総合法律事務所 弁護士 篠田 憲明 氏
三宅坂総合法律事務所
弁護士 篠田 憲明 氏

2001年弁護士登録(日本)。2008年弁護士登録(ニューヨーク州・カリフォルニア州)。三宅坂総合法律事務所パートナー。長期の海外生活とM&A・事業再生・企業間取引・紛争解決・交渉業務の豊富な経験を生かし、クロスボーダー案件を多数取り扱う。
【事務所概要】
上場企業、金融機関、その他各種企業、ファンド等のクライアントを中心に国内外の紛争解決、M&A等トランザクション、事業再生・倒産処理、コンプライアンス・リスク管理、国際法等の企業法務等全般を幅広く取り扱い、各分野において高度の専門性を有する各弁護士の知識とノウハウを活用してクライアントの利益に合致するリーガルサービスを提供している。急速に進展する日本とアジア経済の一体化、企業活動の国際的展開に対応するため、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールその他ASEAN諸国、インド等との企業の取引事業活動、M&A等の対応を多数実施している。

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