コラム

中立的なM&A取引価格とは?

米澤 恭子

株式会社企業評価総合研究所(日本M&Aセンターグループ) 代表取締役社長

企業評価
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経営者のみなさんは、“会社の価値”を考えたことはありますか? 「会社は自分にとって子供のようなもの、価値は付けられないよ」という方も多いでしょう。 しかしM&Aの現場では会社の価値がつかないと交渉はできません。 だからといって経営者の思いを込めて、感情論やコンサルタントの漠然とした経験で価値を決めてしまってよいのでしょうか? もちろん答えはNOです。 M&Aでは“会社の価値”を数値化して具体的な最終契約を結びますから、売り手・買い手双方が納得するものでないと交渉はうまく進みません。 私の所属する株式会社企業評価総合研究所では、売り手・買い手双方が納得し、安心してM&Aを行うことができるよう、中立的な価値算定を目指しています。

最も合理的な「取引事例法」

株式価値の算定手法は既にいくつもの論理的な手法が確立されています。 しかし中堅・中小企業のM&Aにおける株式価値算定において最も合理的であるのは「取引事例法」だと考えられます。 取引事例法とは、不動産鑑定評価でも用いられる価格算定手法の一つで、対象物件と条件が近い物件の取引事例を多く収集し、実際の取引価格から対象物件の個別要因や地域性を加味して価格を決める方法です。
マーケットの価格に基づいて価格が形成されるため、この方法をM&Aの価値算定に用いることができれば、合理的で中立的な価格で取引を行うことができます。 一方でこの取引事例法は類似取引として参照するに十分な数の成約実績をデータベース化する必要があり、M&Aマーケットで実践するにデータが不足しているので実現できない状況が長年ありました。

成約実績数がデータベースとなって「取引事例法」が実現する

日本M&Aセンターの保有する3,500件のM&A成約件数というデータは、取引事例法の実現を可能にしました。年間成約件数は524件と、中堅・中小企業のM&A成約実績は着実にデータベースに蓄積されています。 このデータベースを活用すれば中立的な株価算定が実現できるのです。圧倒的なデータ数を保持しているのは実績No.1を誇る日本M&Aセンターだからこそといえます。

中立的な取引価格はなぜ必要?

中立的な取引価格が算定されなかった場合、どのようなことが起こるかについて考えてみましょう。
実際には2~3億円で取引されている会社様に経験の浅い仲介者が契約を取りたいために「10億円で売れます」と言ったとしましょう。そんなに高く売れるならこの仲介者に頼んでみようという気持ちに当然なりますよね。
でも現実には・・・絶対に10億円では売れません。
M&Aは双方が合意しないと成り立たないわけですから、第三者である買い手候補からみても「10億円」という価格が妥当であると判断されなければいけません。
根拠のない高額な売買金額を掲げていたためいつまでたってもM&Aが成立せず、時間だけが無駄に過ぎたことでタイミングを逃し、会社の経営状況が悪化してしまうかもしれません。そうなると最終的に、本来妥当であった2億円よりも低い金額で取引せざるを得ない状況に陥ってしまいます。これでは幸せなM&Aとは言えません。

誰もが安心してM&Aができるマーケットを目指して

もちろん我々が算定したとおりの価格で取引が行われるとは限りません。 しかし、我々はM&Aのプロフェッショナルとして、中立的な価格と実際の取引価格との乖離を少しでも小さくし、誰もが安心してM&Aを行えるマーケットの形成を目指しています。中立的な取引価格算定の研究はまだまだ続きます。

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企業評価総合研究所について

米澤恭子のインタビューはこちらにもあります

著者

米澤 恭子

米澤よねざわ 恭子きょうこ

株式会社企業評価総合研究所(日本M&Aセンターグループ) 代表取締役社長

中堅・中小企業のM&Aにおける取引事例法企業価値評価を研究。 2020年に取引事例法評価システムV-Compassをリリース。 M&A取引の参考となる中立的な企業評価の提示により、中堅・中小企業のM&Aマーケットの健全な成長を目指す。 同年株式会社スピアとのM&Aを実施。同社代表取締役社長を兼任。税理士。

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