コラム

PMI M&A後の統合プロセスについて

山岸 洋

著者

山岸洋

三宅坂総合法律事務所弁護士

PMI
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今日、成長戦略としてのM&A推進による業容拡大を掲げる企業は多く、M&A実行のプロセスにおいて、買収対象企業探索とマッチング、買収対象企業の企業価値評価、このためのビジネス・財務・法務等各種デューデリジェンスと契約及びクロージングの一連のプロセスについては、M&Aアドバイザー及び各種専門家の連携のもとで比較的安定した実務が形成されつつある。 他方M&A後の統合に関する課題の検討と実践面では、今なお相当苦労されるケースが多いように思われるが、中期経営計画においてM&Aによる経営統合効果を織り込む以上、統合プロセスを適切に進めることは極めて重要である。M&A後の統合プロセスでは最大公約数的に以下の項目の検討課題があると思われるし、この作業を推進する統合プロジェクト組織は、次頁の図のようなイメージとなろう。

経営統合の課題

(1)経営管理上の社内体制の確立 (2)外部環境と統合後の親会社を含む事業環境を踏まえた経営方針・戦略の立案 (3)業務管理の再点検(調達、製造・物流、販売、研究開発) (4)人事制度と労務管理手法の再構築

経営統合プロジェクトの体制・組織

経営統合プロジェクトの体制・組織

経営統合プロジェクトのスタート

統合プロジェクトは、M&Aを企画立案する経営企画・業務担当部署のみならず、社内横断的に必要な人員でメンバーを構成するのが望ましい。通常、M&A実行前の企画調査に参加したメンバーを中心とし、必要に応じ、M&A実行後関係部署がバックアップするケースが多いであろう。M&A実行後のPMIのプロセスはその以前のプロセスとも連携し連続性が必要である。M&Aによる成長戦略の実現のためには、このようなM&Aの実行部隊を、企業内で柔軟に横断的に組成し、統合後、直ちに統合の課題に着手する必要がある。通常は、90日から180日程度の周到なスケジューリングが必要である(統合プロジェクトの立案が不十分では、M&A効果を十分に実現できないように思われる。)。 ところで、M&Aの実行前にビジネス・財務・法務・人事等各種DDを実施されているが、このDDの作業は企業買収前の企業価値(買収コスト)その他交渉条件と適切な買収ストラクチャーの選択のための調査だけでなく、買収後の統合プロジェクトにおいて必要な施策の項目を把握し、必要な施策を立案するために用いられることが好ましい。筆者の経験においても、法務DDを単なる調査報告に終わらせるのではなく、法務調査で検出した問題点に関し、調査と別に、クライアントの要望に応じ、統合後に必要な施策をできるだけ具体的に検討するコンサルティングを実施している。しかしながら、M&A実行前の各種DDは、時間的又は作業的制約状況から必ずしも十分な検討がなされているとはいい難く、統合プロジェクトを開始すると想定しない大きな問題に逢着するケースが多いと推測される。

統合プロジェクトの基礎

経営統合のためには、買収後の当該対象企業(以下、「対象企業」という)の経営方針を適切に立案し買収シナジーを追求することは当然であるが、これとは別に、実務レベルでの統合作業で問題となる点を簡潔にコメントする。ここでは対象企業を合併とか吸収分割の方法で自社に直接取り組むのでなく、株式譲受を通じ子会社化するシンプルな統合手法を念頭におくものとする。なお、人事制度と労務管理手法の再構築はいうまでもなく、最重要課題であるが、内容的にも検討課題となる点が多いので、今回の原稿では割愛する。

(1)経営管理上の社内体制の確立

企業統治(ガバナンス)の観点から、買収後に経営体制の確立(新たな役員構成、役割分担と指揮系統)を明確にしたうえで、社内の経営事項の意思決定に至る業務プロセスと実務を再点検する作業が不可欠である。従前オーナー経営者の下で、内部統制的に問題がある業務運営がなされているケース、社内的に不透明な意思決定プロセス・慣行等が存在するケース、複数事業部間の業務管理手法の不整合や部門間のセクショナリズムが存在するケースなど、統合後の企業活動の効率性とか向上を図る以前の問題が横たわるケースが多い。後述のとおり、統合後の社内改革を実行せんとしても、このような悪しき不合理な業務プロセスや慣行を改善することを抜きに健全な経営計画の実現は図れないであろう。他方、企業買収後、企業文化とか人的組織・運営方法は容易に変えがたく、とりわけ、主要社員の社内的処遇を大幅に見直すことに関しては相当の抵抗を伴うことになるので、周到な対策が必要である。 さらに、買収者が上場企業の場合、統合した子会社にも、上場企業同様の内部管理、内部監査その他内部統制としてのレベルを確保したいところであるが、この点は子会社の企業規模やこれに見合う管理コスト・人員等の制約から、必ずしも十分な対応ができないケースも多い。他方、子会社の経営管理上の不備から重大な風評リスクが発生し企業グループ全般のリスクとして波及したケースも多く存在する(情報漏洩、品質問題、労務問題、環境問題等)ので、油断は禁物である。このような観点からは、内部統制環境の十分な整備以上に、子会社化した対象企業について事業・財務・信用・風評上の観点から顕在化する重大なリスクがないか分析し懸念事項に対し重点的に対処する方が効率的と思われる。

(2)業務管理の再点検

買収が水平的統合と垂直的統合では、検討事項は異なるが、ここでは水平的統合に関し簡潔にコメントする。

[1]調達(仕入先・外注先対応) 取引業者の選別(与信上)、取引条件の見直し、外注先内製化の検討が必要となるケースが多い。とくに合理的でない継続的取引を見直す場合、契約違反、不公正取引、下請法違反等の問題を惹起しないように慎重な検討が必要であろう。

[2]製造・物流 製造業では、製造・物流拠点の整理・統廃合を伴う場合がある。この場合は必然的に人員の移動・削減なども生じる。他方、急激な経営方針の変更が人材の流失に伴う品質管理、技術流出という労働問題とは別の問題を引き起こすので、留意を要する。

[3]販売 販売効率を適正化するために、販売先(重複顧客等)との取引条件見直し、取引解消、販売代理店制度の統一、テリトリー制の見直し等販売網の再構築や取扱製品の見直しを地域毎に行う必要がある。クロスセリングを行う場合も多い。筆者の関与例でも、自社の販売網を維持するのか、買収企業の既存の販売網を活用するかなど制度・契約内容の再構築が必要となったケースがある。

[4]研究開発 水平統合のM&Aにおける研究開発成果の共有はM&Aの成果実現の観点から重要な課題である。企業間の技術情報の共有・権利関係の処理の問題も発生するが、同一企業グループ間でも知的財産管理が十分に規律を維持する必要がある。例えば、企業間で技術移転や共同開発を行う場合に知的財産権の所在とか相互のライセンス関係は明確にしておく必要があろう。

広報誌「Future」 vol.12

Future vol.12

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.12」に掲載されています。

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著者

山岸 洋

山岸やまぎし よう

三宅坂総合法律事務所弁護士

1986年弁護士登録(第二弁護士会所属)。三宅坂総合法律事務所を1990年に設立。現在、経営パートナー(創業者)。国内外のM&A等企業提携案件、企業再編、企業再構築(リストラクチャリング)案件と、企業リスクマネジメント・企業紛争の解決等各種業務を実行する。M&Aの関与例・講演多数。 【三宅坂総合法律事務所概要】 上場企業、金融機関、その他各種企業、ファンド等のクライアントを中心に国内外の紛争解決、M&A等トランザクション、事業再生・倒産処理、コンプライアンス・リスク管理、国際法等の企業法務等全般を幅広く取り扱い、各分野において高度の専門性を有する各弁護士の知識とノウハウを活用してクライアントの利益に合致するリーガルサービスを提供している。

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