コラム

<FUTURE特別対談>調剤薬局業界(患者/病院/薬局/地域)の将来を考えた末、 戦略的な経営統合を決断した両経営トップ

西川 大介

株式会社日本M&Aセンター 執行役員 成長戦略開発センター長/ 株式会社ネクストナビ 取締役

M&A全般
更新日:

⽬次

[表示]

現在、在宅の推進や点数誘導をはじめ、調剤薬局を取り巻く環境が大きく変わりつつある。本対談では、メディカルシステムネットワーク(以下「メディシス社」という)とトータル・メディカルサービス(以下「トータルメディ社」という)の先のM&Aについて、田尻稲雄社長と大野繁樹社長の両当事者に、実情と経緯、そしてM&Aの有効性について語ってもらった。

(インタビュー:日本M&Aセンター 企業戦略部 西川大介)

新事業展開に自由度の高い店舗規模

初めに大野社長へお聞きします。今回、譲渡に踏み切った経緯をお教えください。

大野: 2011年11月に、がんを患い手術をしたことがきっかけでしょうね。「ひょっとしたら死ぬかもしれない」と思いました。経過は問題なく順調なのですが、このことがそもそもの始まりとなった気がします。

田尻社長、トータルメディ社のどのようなところに魅力を感じられたのでしょうか。

田尻: 北海道を地盤とする当社が本州以西に店舗展開を進めるうえで、福岡などの中核都市は戦略的にドミナント展開を図りたいと考えている重要エリアになります。そのような時にとりわけ当社薬局店舗の少ない福岡で確固たる事業基盤を築いているトータルメディ社をご紹介いただき、「非常に良い話だな」と率直に感じました。また、当社の店舗と比べて非常に店舗面積が大きく、その店舗空間を利用し新たに付加的サービスを検討する場合の組み合わせの自由度などにも魅力を感じました。

目指す方向に理解が得られればM&Aの動揺はない

M&Aに関してはネガティブなイメージをお持ちの人もいらっしゃいますが。

大野: 数名の知人から電話があり、「上手くいっていなかったのか?」などと聞かれました。M&Aは、倒産する企業に対する救済措置という印象を持っている人も多くいると感じました。社員に対しては、基本的な処遇は変わらず現状を踏襲すること、本人の意図しない転勤はないこと等を数回に分けて丁寧に説明をしました。きちんと理解をしてくれて、退職するなどといったネガティブな反応をする者はおらず、むしろメディシス社の充実した教育研修への期待感が大きいようです。

田尻: 「何を目指し」、「どのようなことをしようとしているのか」という部分を理解していただければ、それほど動揺することはないと思います。先日も、トータルメディ社の従業員忘年会にお呼びいただき、我々が目指す地域薬局のあり方、地域包括ケアを見据えた医療と介護の複合施設等の説明をさせていただきました。

スキルアップに貢献する圧倒的に進んだ教育システム

本提携に伴う従業員のメリットについてはどのように見ていますか。

大野: 圧倒的なメリットとして挙げられるのは教育システムです。当社よりも圧倒的に進んでいると思います。そのようなシステムを活用させていただくことにより、薬剤師のスキルアップ、事務職を含めた従業員のスキルアップに対してプラスに働くものと考えています。

グループに参加される企業にとってのプラス面を田尻社長におうかがいします。

田尻: 従業員の皆さんには、九州あるいは山口県というところから、全国で活躍する場ができたと捉えてくれれば嬉しい限りです。北海道の社員も九州まで行けると考え、それぞれの地域で医療現場を見たり、意見交換を行うことは各々のキャリアパスにとっても良い方向に働くと思います。

今後の九州エリアでの展開についてはどのようにお考えですか。

大野: 30年後の人口動態の予想では、西日本で唯一人口が増えるのは福岡都市圏だけです。そのような予想も踏まえて、福岡の軸足は維持する形で今後も進めていきたいと考えています。

田尻: 開発能力に関しては、私どもよりトータルメディ社の方が高いのではないかと思っているので、大野社長と相談しながら九州エリアを中心に展開していただければと思います。

規模拡大による効率化と、新しいビジネスモデルの構築がカギ

医薬品卸やドラッグストアでも業界再編が起こってきましたが、調剤薬局業界におけるM&A・再編をどのように捉えていますか。

大野: オーバーストアな印象は誰もが持っている感覚。規模が拡大して残っていくところと、そうではないところが選別されていくというか、結果的にはそのような方向で収斂されていくのではないかと思っています。

田尻: 私を含めた団塊の世代の高齢化により、業界全体としては、あと10年は伸びるとは思いますが、分業率は頭打ちで報酬改定も厳しくなるでしょう。規模拡大による効率化と、単純な病院門前モデルを打破する新しいビジネスモデルを構築できるか否か、この2点がカギではないでしょうか。鉄鋼、自動車、卸売、製薬メーカー等、他の業界でも業界再編、規模拡大によって効率化を図ってきました。

大野: 今回のM&Aで感じたことは、大手の教育システムには太刀打ちできないということです。当社もそこそこと思っていましたが、メディシス社は2段階、3段階違いました。メディシス社が作成しているマニュアルやハンドブックのようなものを自前で作ることは正直無理だと思いました。また、人の厚みと言いますか、事業規模を膨らませていく中で新たに知識やノウハウを身に付けてこられた部分を感じました。こういうものは私一人では絶対に作りきれない。今回のM&Aは今までになかったいろいろなソフト、ハードを取り入れられるという点で当社にプラスでした。

時代は面白い局面へ。チェーン調剤の社会的使命を果たす

調剤薬局業界の未来像についてお聞かせください。

田尻: 薬局は地域住民に対する健康・医療・介護のゲートキーパー的な役割を果たしていけると思うので、そのような意味からすれば非常に面白い局面になってきていると思います。今後はより高度な専門的知識やコミュニケーションスキルを薬剤師に身につけてもらう必要があります。会社としては、そのための体制整備を行い、継続的に教育ができるかどうかが非常に重要です。つまり将来に向けた投資を行っていけるかということです。これは一定の規模と体力を持つ大手チェーン調剤薬局の社会的使命だと思います。在宅も同様に、個人薬局や小規模の薬局ではなかなか難しい。大手チェーン薬局の社会的使命として、その役割をきちんと果たしていきたいと思います。

写真:田尻 稲雄

田尻タジリ 稲雄イナオ 様

株式会社メディカルシステムネットワーク 代表取締役社長

北海道小樽市出身。1948年5月20日生まれ。株式会社秋山愛生舘(現株式会社スズケン)の子会社であるメディカル山形薬品株式会社にて代表取締役を務めたのち、1999年に株式会社メディカルシステムネットワークを設立。同年、代表取締役社長に就任。

写真:大野 繁樹

大野オオノ 繁樹シゲキ 様

株式会社トータル・メディカルサービス 代表取締役社長

岡県北九州市出身。1958年5月11日生まれ、西南学院大学卒。民間病院に勤務後、前身の有限会社シー・エフ・ディに入社。1998年に社名を株式会社トータル・メディカルサービスに変更し、同年に「地域医療への貢献」をモットーに代表取締役社長に就任。

広報誌「Future」 vol.4

Future vol.4

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.4」に掲載されています。

広報誌「Future」バックナンバー

著者

西川 大介

西川にしかわ 大介だいすけ

株式会社日本M&Aセンター 執行役員 成長戦略開発センター長/ 株式会社ネクストナビ 取締役

大手プラントエンジニアリング会社(海外プラント建設)、Big4系コンサルティングファーム(PMI等)、大手証券会社(M&Aアドバイザリー)を経て、2010年に当社に入社。通算20年近いM&A実務経験に強み。現在、上場会社グループに特化してM&Aサービスを提供する部門を率いる。事業ポートフォリオ再構築プランやM&A戦略の立案サポートから、クライアント毎のオーダーに基づく案件オリジネーション、交渉・実行サポートを行う。弊社において、大型案件、複雑案件、及びノンコア切離し案件をリードする。

この記事に関連するタグ

「広報誌・TOB・インタビュー・業界再編・調剤薬局」に関連するコラム

調剤薬局業界におけるM&A事例

M&A全般
調剤薬局業界におけるM&A事例

メディカルシステムネットワークとトータル・メディカルサービス両社の概要とM&Aの背景株式会社メディカルシステムネットワーク(以下、「メディシス社」という)は、札幌を本社とする調剤薬局事業を中核とする企業である。1999年創業と比較的若い企業であるが、282店舗を有する業界の準大手で東証一部に上場している。拠点である北海道では109店舗を有し圧倒的なドミナントエリアを形成しているとともに、関東や関西

調剤薬局M&Aの現場から

M&A全般
調剤薬局M&Aの現場から

譲渡できる地域薬局は限定的に調剤薬局業界の再編は、1~2店舗の零細薬局から地域のトップクラスの薬局へと波及している。数年前から、県で10位程度までの薬局が大手企業へ事業を譲渡する動きが活発になっている。下記の表にもあるように2013年には10店舗クラス、2014年には20~50店舗クラスの地域薬局が全国展開する大手調剤薬局グループへ相次いで譲渡した。一方で、零細規模の薬局はどうだろうか。もちろん1

業界再編と企業戦略

M&A全般
業界再編と企業戦略

Futurevol.4「業界再編スタート」において、「業界再編と企業戦略」と題して、(1)業界再編の背景・理由、(2)業界再編のメカニズム、(3)業界再編の対処、という3つの論点に関して考察を行った。それぞれを簡単に振り返ると、(1)においてはハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱する「5つの力」のフレームワークを用いることで、業界構造の変化が要因となって再編が起きていることを示した(図1参

経営環境の悪化と薬剤師不足を背景に、本格的な再編期に突入した調剤薬局市場

M&A全般
経営環境の悪化と薬剤師不足を背景に、本格的な再編期に突入した調剤薬局市場

調剤報酬マイナス見通しで成熟期に突入した調剤薬局市場日本薬剤師会によると2014年度(2014年3月~2015年2月)の調剤点数は681,205,423千点、金額ベースで6兆8,120億5,423万円となった。前年比2.3%という伸び率は、過去最低の伸び率を記録した2012年度に次ぐ低い伸び率に留まった。また、調剤件数、処方箋枚数、処方箋単価、処方箋受取率(分業率)の伸び率も鈍化しており、市場は完

<特別インタビュー>トップに聞く調剤薬局業界大手4社の戦略

M&A全般
<特別インタビュー>トップに聞く調剤薬局業界大手4社の戦略

株式会社メディカルシステムネットワーク専務取締役田中義寛氏日本調剤株式会社常務取締役三津原庸介氏阪神調剤ホールディング株式会社専務取締役岩崎裕昭氏株式会社アビメディカル代表取締役保田裕司氏※役職名はインタビュー当時のもの2016年4月に厚生労働省より診療報酬改定が発表された。今回の報酬改定では、「患者本位の医薬分業」の実現のため、患者の薬物療法の安全性や有効性の向上、ならびに医療費の適正化のため、

業界再編を起因とするM&A

M&A全般
業界再編を起因とするM&A

業界再編とは、「業界全体を考える優良企業が集まって業界構造を変え、新しいビジネスに挑戦すること」である。「一国一城の主」である創業オーナー経営者は、自力での成長を考えることが多い。経営者が、自社の企業がどう成長すべきか、どう利益を出していくのか考えるのは当然だ。しかしながら、再編を主導する経営者は独自の考えを持ち、個人や一企業の利益のためだけでなく、業界の行く末を見据え業界全体をより良くするという

「広報誌・TOB・インタビュー・業界再編・調剤薬局」に関連する学ぶコンテンツ

「広報誌・TOB・インタビュー・業界再編・調剤薬局」に関連するM&Aニュース

KDDI、ローソンに対しTOBを3月28日実施へ

KDDI株式会社(9433、以下「公開買付者」)は、2024年2月6日付「株式会社ローソン(2651)に対する公開買付けの開始予定及び資本業務提携契約の締結に関するお知らせ」(その後の訂正を含み、以下「2024年2月6日付公開買付者プレスリリース」)にて公表していたとおり、株式会社ローソン(2651、以下「対象者」)の親会社である三菱商事株式会社(以下「三菱商事」といい、公開買付者及び三菱商事を総

地域ヘルスケア連携基盤、調剤薬局運営のエムエム薬局・エムアペックス・ももたろう薬局の株式取得

株式会社地域ヘルスケア連携基盤(東京都千代田区、以下「CHCP」)は、グループ会社を通じて、調剤薬局4店舗を運営する有限会社エムエム薬局、有限会社エムアペックス、有限会社ももたろう薬局(岡山県岡山市)の株式を取得した。株式取得の背景現在、日本の医療・介護費は約55兆円と日本のGDPの10%の規模に達しており、今後も高齢化の進展に伴い増加が見込まれている。社会保障費の抑制はわが国喫緊の課題であり、医

地域ヘルスケア連携基盤、調剤薬局運営のメディカルケミストの株式を取得

株式会社地域ヘルスケア連携基盤(東京都千代田区、以下「CHCP」)は、グループ会社を通じて、調剤薬局10店舗を運営する株式会社メディカルケミスト(東京都大田区)の株式を取得した。株式取得の背景現在、日本の医療・介護費は約55兆円と日本のGDPの10%の規模に達しており、今後も高齢化の進展に伴い増加が見込まれている。社会保障費の抑制はわが国喫緊の課題であり、医療機関・調剤薬局・在宅系サービスの各領域

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース