日本M&Aセンター
上場企業M&Aマガジン 2020年8月5日

【第1回】PEファンドのパイオニア、アドバンテッジパートナーズの笹沼代表に訊く、 「上場会社におけるWith/Afterコロナ戦略のあり方」について(特別寄稿)

選択と集中の断行 ———合意形成の好機

上場企業は概して、相当数の事業部門と子会社を保有している。上場企業であるがゆえに長期的な成長を市場から求められる。よって様々な市場に参入し、企業の絶対規模を拡大することで、それを成長と言い換え市場の理解を得ようとしてきた。
さらに多角化には、一本足打法からの脱却によるリスク分散の追求、異なる労働条件の維持、幹部・役員のポスト創出など様々な理由があった。経済が一定の成長を見せ、自社の収益と成長性も十分な水準であった時期であれば、多くの非本業関連と目される子会社や事業群を保有し続けることに一定の合理性はあろう。

いっぽう経済成長が鈍化し、あるいは縮小の趨勢に入っていく中で、それぞれの多角化事業や子会社が生き残っていけること、あるいは健全に成長していくことは困難である。なぜなら多くの子会社が、その属する業界においてリーダー的存在でないことの方が多いからだ。単純な一般化はできないが、総じて言えば、市場シェアが劣位にある企業群は、上位企業比その収益性が劣後しキャッシュフローも低い。今回のような縮退市場においては、市場から押し出されてしまう対象となるケースが多い。もちろん本社として政策的に資金投入をし続け、当該事業部門や子会社を生かし続けることは可能であろうが、自社の資本コストを考慮した時、仮に一定の収益を生んでいたとしても当該事業部門や子会社を保有し続けることは合理性に乏しい。

多くの非本業部門や子会社を保有している企業は、仮にそれらが一定の利益を産んでいたとしても、その利益水準が資本コストを充足しない場合は、積極的に売却をすべきだ。日本の電機業界を例にとると、日立、富士通、パナソニック、ソニーなどは長期的視点に立って、事業分野の見直しと非本業関連の部門・子会社の切り出し・売却を進めてきた。それにより獲得した資金を新規分野や重要分野におけるM&Aに投入している。競合比、十分な成果を上げてきており、PERの水準も比較的高い。

PE投資会社は、大企業の非本業関連の企業群を引き取り、独立企業として発展させることが出来得る。電機業界の子会社の多くもPE投資会社が受け皿となって独立企業としての成長支援を行っているが、総じて順調に推移している。また、これらのテーマも実行には一定の困難さがあるが、最近ではPE投資会社が買収投資という方法によらず、合意を得た形でのマイノリティ出資をすることで企業との関係を構築し、様々な改革の実行を側面支援する例も出てきている。日本の上場大手企業はPE投資会社をもっと活用すべきではないか。選択と集中は長年社内で議論されながら実行に至らない場合が多い。コロナ禍で待ったなしの状況になっている今こそ、実行に踏み出すべきだ。この機会を逃すべきではない。

「飛行機を飛ばさない航空会社」
———ビジネスモデルとオペレーションモデルの大胆な見直し

筆者はビジネスモデルとは、「目標顧客に対して提供する具体的な財・サービスの価値体系とそれによって実現される長期継続的な企業価値創造の仕組み」と考えている。経済的価値を生まないもの、継続可能性の低いものはビジネスモデルとは言えないだろう。

コロナ禍による市場規模の縮小、消費者行動の変化、サプライチェーンの稼働停止・低下は企業に対し、抜本的なモデルの変容を迫った。例えば、航空会社は今後、長期間に亘り市場の縮小によるキャパシティの調整を迫られる。ヴァージン・オーストラリア航空、タイ国際航空など既に倒産企業も出ているが、今後、「飛行機を飛ばさない航空会社」にビジネスモデルを変容する航空会社が出てきて不思議は無い。航空会社が提供している価値は人と物を物理的に移動させるというものだ。しかし旅客にとっての真のベネフィットは移動そのものでなく、消費者であれば移動した現地で過ごす時間の楽しさであり、ビジネスパースンであれば交渉という行動の実現と成果であろう。消費者や企業はこれらのベネフィットについて、現代のIT技術や映像技術、VR技術をもってすれば現地へ行かずとも相当程度、獲得することができる。航空会社の定義を顧客のベネフィットまで深耕して考えると、飛行機を運行する企業であることを越えて、情報提供会社への変容を迫られていると言えなくもない。あるいは、自前で航空機を保有して運行するのではなく、全世界の全ての運航スケジュールの一括管理、パイロット・乗務員の採用・教育・派遣、整備の一括代行、全世界の空港での補給用部品の調達・管理など、まさに目標顧客と提供価値を根本から変容できる可能性があり、そこに大きなチャンスも出てくる。

コロナウイルスはその対人感染力の強さから人の外出を抑制した。そのインパクトは業種によって大きく異なる。アマゾン・楽天などのインターネット通販やウーバーイーツや出前館などの出前代行業コンビニエンス業界、消費者の家庭内娯楽を支援するゲームソフト業界などは現環境に即した業界と言えよう。店舗中心の小売り、外食、旅行・ホテル、興行型エンターテインメント業界は当分の間、売上と利益の低下を迫られる。まさに「新常態」への対応が迫られている。ソニーはこのほど、ソニーファイナンスのTOBによる100%子会社化を実行した。社名も変更することを決定した。ファイナンス事業を明確にコア事業と位置づけ完全子会社化するとともに、従来の製品売り切り型モデルから、サブスクリプションモデルに移行させていくことを明確化した。日本でも例の少ない、抜本的な戦略の転換であり、企業の環境対応的行動の好事例と言える。今後の業績への反映が興味深い。

地方創成のきっかけに
———東京集中のリスク

本論稿執筆時点で、国内全域で国家緊急事態宣言が解除されたが、一気に全てが元に戻るとは誰も感じていない。筆者はこの機会に企業活動拠点を地方に分散することをお奨めしたい。東京を中心とする首都圏は、他地域比、より大きな人的・機能的被害を蒙った。企業のオペレーションを東京に集中させておくことのリスクを感じた経営者は多いだろう。今回のテレワークは、例えば本社機能の地方への分散配置を行ったとしても日常のオペレーションは十分に機能することを実感させたのではないか?
思い切って部門単位で機能を地方に分散させること、あるいはひとつの部門のスタッフのリモートワークを推進してはどうか。職住接近によるワークライフバランスの改善が図られより効率的な業務推進が実現される。それにより段階的な地方の再活性化、ひいては地方創成のきっかけもつかめるのではないだろうか。

消費者による企業の価値観と価格への理解
———安さ追求から価値観による消費へ

コロナが発生して、消費社会は大きな縮小を余儀なくされた。とりわけ外食産業は大きな打撃を被った。ただ興味深いことに、いくつかの外食店のクーポン券を顧客が購入することで、当該店舗を支援しようという動きが出てきている。いわば全関係者でその店をサポートしようという自然発生的な動きと言える。この機会に、日本の消費者も単に価格の安さだけを求めるのではなく、当該商品を提供する企業の姿勢や価値観に対して価格のプレミアムを支払うことを考えることを提唱したい。

コロナ以前から言われてきた企業のESG(環境、社会、ガバナンス)対応は、企業側から見ると実行したいテーマではあっても、それらは多くの場合コスト上昇要因となり、まさに「言うは易し、行うは難し」の状況に追い込まれる。ESGが語られても進まない背景にはこの点がある。ESGは社会全体の問題でもあるので、その実行を単に企業セクターにだけ押し付けていても実現は遠い。消費者も合わせてその価値と取り組みの必要性を理解し、ESGの推進に必要なコストの増分を応分に負担すべきだ。それにより実現される社会的便益を享受できるはずだ。永年にわたって、安いことが良いこと、という価値観が消費社会に浸透し、それがデフレの一因になってきたと筆者は考える。価値と意味に対して価格の増分を支払う姿勢が必要だろう。この機会に消費者としても、社会環境の改善の為に何ができるのかを考えるべきではないか。

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